護衛を頼まれる(後編)「私の正義」

 村から出ると草原が広がる。そこで狼の群れと出くわした。

 私は様子を見た。彼らは近づいてこない。だが、バージェス君が刺激してしまった。

「あっちいけよ!」

 銭を投げ当ててしまう。怒った狼が馬車に向かう。私は仕方なく、切り伏せていく。すると狙いを私に変え、次々と群れで飛びかかってきた。

 私は首を刎ね、一思い一匹を殺した。すると、他の狼たちが怯んだ。私が馬を進める。すると退いていく。

「全部殺しちゃえよ!」

 バージェス君の言葉を無視する。私は剣を一振りした。

 狼達は逃げていく。私は馬から降りて、殺した一匹の元へ寄る。

「ごめんね」

 バージェス君は何故謝るのかわからないといった様子だった。

 何回か魔物と出くわし、それを退け、私たちはテントを張った。

 夜が更け、深夜になろうという時間。私は異変に気づいた。

 その盗賊の男は馬車の馬を殺そうとしていた。足さえ奪えばあちらのものだからだ。

 私は男の首を刎ねた。断末魔が響き渡る。

「何事だ?!」

 ゴードの旦那様が慌てて出てきた。私はすぐに走り寄る。飛んできた矢を剣で払い落とした。

「ひぃ!?」

「夜襲です! テントから出て!」

 魔物避けに火を炊いていたため居場所はバレバレだったのだろう。私は三人に馬車に乗るように言い、召使いさんに急いで手網を握るように言う。その間も飛んでくる矢を払うが限界がある。

 私は、ゆっくり走るように言った。早く走られると私が守りきれない。ローディアと違う方を走るようにも言う。殺らなければ殺られるのだ。

 私は召使いさんに指示を出しながら、後ろから来る矢を払う。そしてUターンした後、前に出て弓を使う盗賊の方へ走った。

 一瞬だ。通りざまに首を刎ねて、殺す。

「う……、うああっ!」

 人の首が飛んでいくのは初めて見たんだろう。バージェス君が悲鳴をあげる。

 まだ何人もいる。私が弓兵を殺したからか、三人の馬に乗った盗賊の男たちがやってきた。

「やるじゃねぇか、嬢ちゃん」

 リーダーらしき男がやってくる。

「もしかして、依頼でも受けてやってきたか?」

 私が尋ねると、盗賊たちは顔を見合わせ笑った。

「ご明察。頭もきれるようだ。俺たちは、金目のものを全部奪っていいのを条件に、そこの親子を殺すよう頼まれてる」

「い、一体誰に!?」

 ゴードの旦那様の叫びも虚しく笑い声だけが響き渡る。

「依頼主を明かすわけにはいかないねぇ。さて、死んでもらおうか!」

 三手に分かれた盗賊達。どこから攻められても負ける。私は召使いさんに右に曲がるように言った。そして、左の盗賊から相手する。だが、流石にナイフを持った相手に一瞬では殺せない。剣戟の後、敵の腕を切り落とし、馬から蹴落として次の相手に行く。

 真ん中のリーダーを相手するが、これまた手強い。その隙に、馬車に追いついた。馬を止めるように言った盗賊は、バージェス君を人質にとった。

「チェックメイトだな」

 盗賊のリーダーが言う。

「坊っちゃま!」

 召使いさんが泣きながら言った。

「どうか、私を人質にしてください! 坊っちゃまはどうか無事に帰してあげてください!」

「サニア……」

 サニアさんの願い虚しく、バージェス君に刃が当てられる。

「どうする? 降参するか?」

 私は、ふぅーっと息を吐いて、ある物を構えた。ピストルと呼ばれる銃を。

「なっ?!」

「私、銃の扱いも得意なの」

 発砲音と共に、バージェス君を捕らえていた男が崩れ落ちる。見事頭に命中していた。

「あとはあなただけよ」

「くっ!」

 リーダーの男は苦虫を噛み潰したような顔をして、剣を構える。

「俺も剣の使い手。負けるわけにはいかねぇなぁ!」

 男と私の勝負が始まる。だが勝負は分かりきっていた。

 男の剣が宙を舞う。男は降参した。

「くそっ、負けだ!」

 だが、私は男の腕を切り飛ばした。

「ぐあああああ!?」

 そして、足を切り落とし、最初に相手した男の元へ行き、首を刎ねた。

「ま、待ってよ! そこまでしなくても……」

 リーダーの男の元へ戻った時、バージェス君が私の足を掴んだ。

「バージェス君、人間と魔物の違いってわかる?」

 バージェス君は、首を傾げる。

「そんなの見たらわかるじゃん」

「ううん、わからないんだよ。こいつらは魔物と

同じ、人々から奪う者。そして、あなたもそう。多くの人の職を奪った」

 バージェス君は顔を引きつらせる。

「何が正義で、何が悪か。その線引きは結構曖昧で、これくらいなら許してやればいいじゃないとか、謝ったから許せばいいとか色々あるわ。でもね、それは人間だから許されるの。心が魔物になった、本物の悪には通用しない」

「この人たちは魔物なの?」

「正確には人間だし、心も人間かもしれない。でもね、私は思うの。これを許すなら……、何故魔物は許されない? 何故魔物は無惨に殺されなければならない? そうでしょう? 魔物だって生きているだけなのに、ただ人間から奪っただけで殺される。なら、人から奪う者もまた、魔物なのよ」

 そうして、リーダーの男の首を刎ねた。バージェス君は黙っている。

「なら、俺も殺すの?」

 私はにっこり笑って言った。

「あなたが奪い続けるなら、私が今殺さなくたって、いつか誰かに殺されるわ」

 バージェス君は、泣いていた。

「俺……、どうしたらいい?」

 私はバージェス君を抱きしめ言った。

「全部が終わったらカナリアさんの食堂にまた来なさい。色々教えてあげるわ。まずは、優しくなれるかどうかね」

 バージェス君とは引き換え、盗賊全員を殺した私を評価するゴード家の旦那様と奥様。

 次をなくすため、急いでローディアに向かったのだった。

 ローディアに着いた後、商談までの間付き添い、しっかりとした契約がなされたのを確認してから、私は宿をとって休んだ。丸一日寝ていたと思う。流石に疲れた。

 マルシェアへの帰りは楽だった。護衛を十人も雇ってしまうのだから。念のため私と腕相撲させてきたので、正々堂々やって負けてあげた。

 上機嫌のゴード家の旦那様と奥様とはうって違い、バージェス君は大人しかった。召使いのサニアさんに手を引かれ、沈んだ表情でマルシェアに帰る。

 後日、サニアさんに礼儀を叩き込まれたバージェス君がカナリアさんの食堂にやってきた時はみんな笑った。そして、クビにした人たちに土下座し始めた時は慌てて止めた。

 貴族にも立場がある。やりすぎは禁物だ。だが、バージェス君は心を入れ替え、少しずつだが優しくなっていった。子供のうちならきっとやり直せる。大人になったらわからないが……。

 ポリフェ神父のところにも連れて行った。あのゴブリンの話を聞いたバージェス君は、私の行動に納得がいったようだった。

「ねぇ、マアロさん。マアロさんのあの時とった行動は正義だったの?」

 ふふふ、考えるようになったわね、バージェス君。そう、私はきっと正義ではなかった。盗賊を見逃すのも選択肢のうちの一つ。

 それでもあの旅の成功のためには必要不可欠だった。殺らねば殺られる。それが世の理。

 魔物相手に油断出来ぬように、盗賊相手にだって油断は出来ないのだ。

「それでも私は守らなきゃいけない。君のような希望を。例え私のこの身が血で汚れようとも。それが私の正義だから」

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正義とは何か。騎士マアロの想い みちづきシモン @simon1987

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