教師と生徒の恋は叶わない?

空野そら

プロローグ【同期】

「三近先生、例の書類の確認頼んでいい?」

「あ! はい! 分かりました!」

「ありがとう」


 生徒たちが完全に下校し、静まり返った校舎の中でまだ人気ひとけがある職員室。大体の教師は自分のデスクでPCや書類と睨めっこしていたり、一部の教師は駄弁ったり、帰り支度をし始めていたりしていた。


 その中で隣の教師から書類確認を頼みこまれたのはこの俺、三近みつちか 武久未むくみ。教師歴1ヶ月の新人教師だ。そしてクラス担任を任されてもいる。


しかし新人なのにも関わらずクラス担任を任されてしまったせいなのか学校で働き始めたから労働時間が今までのアルバイトと段違いに伸び、心身共に疲労が蓄積されていた。

 その疲労が体に出ていたらしく、同期でもあり、親友でもある小林こばやし 三奈みなが心配そうに俺を見る。


「大丈夫?」

「ああ、多分......」

「よし! その書類確認手伝うからさ、終わったらパーッと呑みに行くべ!」

「いや、明日も一応仕事あるんだけど......」

「デイジョブデイジョブ! なんとかなる!」

「えぇ......」


 最初は心配をしている言葉を掛けてくれたものの、急に呑みに行くことを提案され、俺はやんわり断ろうとしたもののあまりにも無責任な言葉を飛ばすて来たため困惑するように声を漏らす。


 すると勝手に俺のデスクから確認を頼まれた書類を持って入れてしまう。その行為にさらに困惑をしてしまうが、この頃あまり呑みに行くことができなくなっていたため『まあいいか』と思いデスクに残された書類の確認をする。




確認作業を始めてから大体30分ほどで終わり、他の先生たちに軽く挨拶をして職員室を退出し、職員用の下駄箱に向かう。


 するとガシッと肩を何者かに掴まれ、動けなくなってしまう。俺は恐る恐る俺の肩を掴む何者かがいるであろう方を振り返ると、そこには口元が笑っていない笑みを浮かべている三奈がいた。そんな笑みを浮かべる三奈にヒッという恐がるような声を漏らす。


 それが火に油を注ぐ行為だったのかさらに三奈の顔から笑みが無くなり、般若のような表情になってしまった。そんな般若三奈が夜の学校というもの合わさって恐怖が増し、体全体が小鹿のように震えてしまう。


「ねえ?」

「ひゃい!?」

「私はむっくんの仕事を手伝ってあげたよね?」


 ただの問いかけでも表情によって恐怖が体を支配していたため返事が変になってしまう。ただ幸いというべきか、三奈はそんなことを気にしていないようで俺の愛称を口にしながら仕事を手伝ったという確認をする。


 その確認に俺は無言の肯定をし、あまり三奈を刺激するようなことをしないためにここからはなるべく反応をしないようにすると心の中で誓う。すると俺の肩を掴んでいた手を離し、俺の手首へと持ち替える。


 そんな行為に困惑を露にして戸惑っていると三奈が俺の下駄箱から靴を取り出し、職員用玄関へ捨てるかのように投げる。


「ごめんて、俺の奢りで呑もう? それで許してくれ」

「......まあそれでいいや、そういうことなら早く行くよ!」

「あっはい」


 ズカズカという効果音が付きそうな歩き方で玄関扉まで向かい、まだ少し怒りが残っているのか荒々しく扉を開ける。そんな三奈に呆気を取られ、適当な返事しか返せなかった。


 しかし、これ以上何かをしてもっと怒らせてしまったら今以上に面倒なことになりそうな気がしたため急いで靴を履き、三奈の後を付いていく。


「どっかおすすめとかあるのか?」

「う~んま~ね? 簡単に言うと私の知り合いがやってるとこかな?」

「へ~」


 ここまでの記憶から少し遠ざけるために別の話題で質問をすると案外すんなりその話題に乗っかり、俺の質問に返答をする。


 そんな返答よりも話題に乗っかるか乗っからないかでまともに答えを聞けてなかったため反応が薄く、冷たくなる。




 三奈の車でそのおすすめの居酒屋へ向かう。道中酔っ払いが道端に何人もぶっ倒れ、夢の世界へと旅ったている様子が車窓から見え、何故かこの世の中は大変だなとふと思う。


 そんなことを思っているといつの間にか居酒屋へと辿り着いており、車から降りて入口の前に立つ。そして入り口わきの柱に掛けられている木で作られた札には『極上上場』と書かれていた。


「なあ、これってなんて——」

「おおー! やっと来たか、待ちくたびれたぞ!」


 俺の言葉を遮ってきたのは入口から姿を見せたお姉さん系女性だった。

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教師と生徒の恋は叶わない? 空野そら @sorasorano

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