朝が来たから

 おもむろに手提げバッグからチケットを取り出すおじさん。

「好きな夢がみれる切符を、1枚授けよう。」


 そう言って渡されたものは、この界隈では有名な老舗パン屋のサービス券。

 それを覗いて女将さんが色めき立つ。

「きゃぁ~~~!!

 こ、これって、あそこのパン屋ですよね?」

「いかにも!」

 パン屋の方を指差す女将さんと踏ん反り返るおじさん。


「そのサービス券があれば、パン屋うち自慢のチョココロネを予約無しで手に入れられる!」

「きゃぁ~~~!!」

 さらにふんぞり返ったおじさんに、女将さんも乙女チックに燥いでいる。


「あ~、でも、これは…。」

「「貰っときなさい!」」

 サービス券の受け取りを断ろうとするオレに、二人が凄んでくる!


「で…では、お言葉に甘えて…。」

 サービス券を受け取ったオレを見つめ、満面笑みの二人。


 ふいに路地裏もニギヤカになってきた。

 時計を見れば、午前5時。


「おっと、すっかり長居し過ぎたようじゃ。

 女将失礼するよ。

 この兄ちゃんのお代もオレに付けといてくれ!」

「!!」

 すっかり上機嫌になったおじさんは、颯爽と路地裏から姿を消し、オレは取り残された。


「あ、あの~…オレのお勘定は…。」

「いいんじゃない、奢ってもらっときなさい。」

 吃るオレに笑顔で答える女将さん。


「そんなことより、とっととチョココロネを買って彼女よめのところに行きな!」

 そういうと、女将は裏口からカウンターの方に出てきた。


「はいはい、今日はもう店仕舞い!

 始発も動き出したんだ、もう帰る時間だよ!」

 急き立てられるように、オレも店を追い出されてしまった。


彼女よめさんによろしくねぇ~!」

 楽しそうに手を振る女将に頭を下げ、オレはくだんのパン屋に向かった。


 ◇ ◇ ◇


 パン屋で噂の『チョココロネ』を手に入れ、電車に飛び乗った。

 車内に広がる、チョコレートの甘い香りに、誰もがオレの方に目を向けてくる。

 オレの家まで持って帰るには正直耐えられない程に、濃厚な視線が降り注いでくる。


 仕方なく、彼女よめの家がある駅で途中下車した。

 とは言え、何処に行けるわけでもなく…

「久しぶりに行ってみるか…」


『チョココロネ』をぶら下げて、彼女よめの家に到着したのは午前7時。


「は~~い。」

 チャイムを鳴らすと、聞き慣れた彼女よめの声。

 ドアが開き顔をのぞかせたのは、昨日の化粧が残ったままの彼女よめ


「お前、相変わらずだなぁ。」

「あなたも、朝帰り?

 相変わらずなのはお互い様よ。」

 お互いに残念な顔になり、場がシラケてしまう。


 ふっと秋風が二人の間を吹き抜けると、チョコレートの甘い香りが二人を包む。

 彼女よめがにわかに落ち着きを無くしてきたので、おもむろに『チョココロネ』を差し出すオレ。


「ほい、お土産。」

 オレの仕草を見ていた彼女よめが口に手をあてみるみる涙目になってくる。


「覚えていて…くれてたの?」

 久々に見る彼女よめの感動所作に、オレのアルコール漬けの~みそがフル回転を始める。


「覚えていてくれてたのね?」

 彼女よめは震える声で聞いてくる。


 …そうだ、結婚記念日だ!

 今日は、オレたちのん回目の結婚記念日だ。

 いつもオレが彼女よめの大好物をお土産に持って帰る日だ!


「ああ、勿論。」

 涙あふれる笑顔の彼女よめに改めて惚れ直しながら、オレは彼女よめをデートに誘うことにした。


 今日は土曜日ホリデー

 悪い夢とおさらばし、素敵な一日が…。


 fin


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 というわけで、蜂蜜ひみつさんの企画に乗っかりました、この短編もここまでと致します。

 ご愛読頂き、感謝申し上げ候(笑


【『参考文献

  蜂蜜ひみつ

  てんとれないうらない

 第98話 好きな夢が みれる切符を 1枚 授けよう 30点

  作者了承済み』】

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角打ちにて たんぜべ なた。 @nabedon2022

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