第22話 神木源造
「ここですね」
タクシーで着いた場所は小さいお寺だった。裏に墓地が見える。
「ここなら来たらすぐに分かるな」
「えぇ」
墓地も広くないため、すれ違うこともないだろう。
「じゃ、待つとするか」
「はい」
「ん」
俺たちは墓地全体を見渡せる場所で待つことにした。一時間、二時間が過ぎても誰も訪れる人はいない。
そして四時間が経った頃、和服を着た一人の壮年の男性が現れる。
「来ましたね。あの人が神木さんです」
「マジか」
驚いたのはとても70歳には見えなかったからだ。結わえている長髪や、顔の下半分を覆うヒゲこそ真っ白だが、その目つきは鋭く、厳つい。体格はガッシリとしており、ヨボヨボどころか背筋には鉄の棒が一本通っているようだ。
「ゲンゾー強いね」
「分かるのか?」
「ん。武術の達人だと思う」
「あ、言い忘れてました。神木さんは探索者になる前は、刀術の師範だった経歴があります」
「なるほど」
それであの佇まい、あのオーラか。それで探索者としてダンジョンに潜って存在力が上がってるとしたら、相当な強さだろう。
「ま、別に喧嘩を売るわけじゃないからな。話せば分かるだろう」
「ん。トーマそれフラグ」
「えぇ、今のセリフがなければ穏便に済んだかも知れないのですが」
「……うるさいよ」
俺たちはコソコソとそんな話しをしながら、神木源造の墓参りが終わるのを待つ。花を替え、水を差し、草をむしって、周りを掃除し、線香をあげ、手を合わせること数十分。その一つ一つの所作に見惚れてしまう。
「どうやら終わったようですね。薙坂さん、行きましょう」
「あぁ」
引き上げようとする神木源造の元へ近づいていく。
「テメェらなにもんだ? さっきからコソコソ覗きやがって。そっちの二人は探索者だな? お前は素人か」
ガンを飛ばされながら、威圧的な言葉を放ってくる神木源造。
「えぇ。アナタに用があってきました。俺の名前は薙坂十馬、こっちはピピ。こいつはスグル」
「何の用だ」
「単刀直入に聞きます。クジラの召喚獣と契約していますか?」
「ふむ。なるほど、お前はバカだな。今日初めて会った探索者が召喚獣の情報を言うわけねぇだろうが」
もっともだ。俺と神木源造の会話を聞いて、スグルが苦笑いしている。
「初めまして、神木源造さん。まずは待ち伏せをしていたこと申し訳ありません。僕はダンジョン庁の職員をしていまして、今は薙坂さんとピピさんと一緒にある組織を作っています。その組織に神木さんをお誘いしたいというのが要件です」
「ふむ。ちっとはバカじゃないヤツもいるみたいだな。話しを聞いてやる。だが気ぃ付けろ? 俺は短気だからな」
神木源造は和服の懐に手を突っ込むと、ぬらりと刀を一本取り出し、腰に携える。アイテムボックスから出したのであろう。
「ありがとうございます。まず、大前提として目的が一致していればという話しになります。僕らの目的はエデンを潰すことです」
スグルがバンバンカードを切っていく。目的が一致って。神木源造がエデンを潰すことが目的なわけがないだろうに。
「……目的が一致している可能性があるって考えた理由を言ってみろ」
だが、神木源造の反応は意外なものであった。まるで正解のような。
「データです。空飛ぶクジラの目撃情報の時間と場所とエデンのテロが起きた場所に明らかな相関性が認められます。……神木さんもエデンを追っているのではないでしょうか?」
俺たちにも言ってなかった情報だ。神木源造の顔がクシャリと歪む。
「で? 仮に目的が一致していたとして何だってんだ? 目的地が一緒だから俺のクジラに乗せて下さいって話しか? あん?」
左手が刀の鍔に掛かる。親指が僅かに動き、鞘から白銀の刀身が覗く。
「…………」
「おい、スグルっ!!」
あろうことかスグルは、いつ本当に刀を抜いてくるか分からない神木源造へと無造作に近寄り、肩に手を置き、耳元で二言、三言呟く。
「──ッ!?」
斬られるかも知れないと思った、が神木源造の刀が抜かれることはなかった。スグルの言葉を聞いて、神木源造は目をカッと開き、驚いたような表情になり、そして殺気を収めた。
「どうでしょう、神木さん」
こちらに戻ってきたスグルが笑顔で聞く。
「……良いだろう。お前らと組んでやる」
「えぇー……」
さっきまでの流れからは想像できない展開だ。一体、スグルは神木源造の耳元で何を言ったというんだ。
「但し、お前とお前」
「ん?」
「?」
俺とピピが指をさされる。
「あまりにも弱っちかったらこの話しはナシだ。ガキのお守りをしながらじゃ割に合わねぇ」
なるほど。分かりやすい展開だ。そして、それは俺の得意分野でもある。
「俺はいいぞ」
「ん。私も」
「んじゃ、場所を変えるぞ。ついてこい」
ソロぼっちS級探索者は早々に引退して一人で好き勝手生きていこうとしたのに、仲間が次から次に集まってくるのだが 世界るい @sekai_rui
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