第21話 暴れん坊
「? ピピー。どこにいるんだ?」
扉を閉め、部屋に入り、中を見渡す。返事がない。
「まさか、まだ風呂に?」
部屋からガラス越しに風呂が見える。ピピは裸のまま床に倒れていた。
「!? おい、ピピ。大丈夫かっ!?」
俺はすぐさま駆け寄り、ピピに声を掛ける。
「…………ん? あ、トーマおはよ。石の床、ひんやりしてて気持ちくて寝ちゃってた」
「…………ハァ。バカやろう。裸でこんなとこに寝てたら風邪ひくぞ」
「ん。もう一度あったまる」
「あぁ、そうしろ」
「トーマ」
「なんだ」
「心配してくれてありがと」
「……どういたしまして」
俺は目を逸らしながらも足が縫い付けられたように、この場を立ち去れないでいた。
「? どうしたの?」
「お前はなんで裸で堂々としてられるんだよ」
目を逸らした俺を覗き込んでくるピピ。その際も自分の身体をまったく隠そうとしないものだから、上から下まで丸見えだ。
「トーマにならいいよ」
「煩悩退散、煩悩退散」
ピピのことは意識しないよう努めていたが、その白くて綺麗な裸身を見てしまうと、動悸が早くなってしまう。
「? トーマ、腰痛いの?」
「……痛くはない」
「そ。ピピの裸見て興奮しちゃった?」
俺の腰が引けている理由が分かっていてトボけたことを言っていたようだ。そう言えばつい忘れそうになるが、ピピは俺より年上だった。この手の知識がまったくないわけがない。
「……そうだよ」
「トーマ、可愛い。一緒にお風呂入る?」
「…………」
俺はその問いには答えず、答えの代わりに服を脱ぐ。
「わっ。トーマの暴れん坊さんだね」
「うるせー」
そして、俺たちは一緒に風呂に入り、一緒に風呂から上がり、そして一緒に朝を迎えた。
「おはよ、トーマ」
「あぁ、おはようピピ」
「昨日はすごかったね」
「やめい」
ピピの頭にチョップをかます。
「んーーベトベト。お風呂入る」
「……俺も」
朝は静かにお風呂に入る。風呂から出たら着替えて、スグルに準備ができたとラインする。しばらくして部屋にスグルが入ってきた。
「二人ともおはようございます。ゆっくり眠れましたか? あれ、ピピさん。すごく肌のツヤが良いですね。これも温泉効果ですかね」
「ん。多分」
「あれ、薙坂さんはなんだかゲッソリしているような。寝不足ですか?」
「……そんなところだ」
「ツヤツヤ、ゲッソリ。まさか二人とも、まさかですよね?」
「ん。昨日はトーマと──」
「あぁー、腹減った!! 朝食行こうかっ!! 今日は神木源造と会う大事な日だ! ちゃんと腹ごしらえしなければ! ほら行くぞ!」
俺は部屋を飛び出した。
「薙坂さんってウブですよねぇ」
「ん。トーマは可愛い」
そして俺は朝食の間、無言を貫き、旅館をチェックアウトし、神木源造が来るであろう墓地へと向かった。
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