第20話 料理はちょっぴり楽しみ
コンコン。
「はい、どうぞ」
「失礼いたします。お夕飯の準備ができましたので、お持ちしてもよろしいでしょうか?」
やってきたのは仲居さんだった。
「お願いします」
「はい。では少々お待ち下さい。失礼いたします」
観光するつもりではないと思いながら、口にはしないし、顔にも出さないようにしていたが、料理はちょっぴり楽しみだ。頭もお腹も食事モードに切り替わる。それは二人も同じようで、皆で姿勢を正して静かに料理を待つ。そしてやってきたのは──。
「失礼します。こちら瀬戸内海で取れたばかりの新鮮なお造りでございます」
「「「おぉ~」」」
「こちらはご当地和牛、オリーブ牛のステーキでございます」
「「「おぉ~」」」
「そして、こちらはトラフグを使ったふぐ鍋にございます」
「「「おぉ~」」」
机の上に色鮮やかな魚や肉、野菜、そしてふぐ鍋まで並んでいく。
「では、ごゆっくりどうぞ。失礼いたします」
折角の料理だ。反テロ組織だって、料理を堪能する権利くらいはある筈だ。
「「「いただきます」」」
「トーマ。刺身美味い」
「あぁ、ぷりっぷりのとろっとろだな。うわ、肉も柔らかっ」
「薙坂さん、フグ鍋もイケますよ! あぁ、日本酒が飲みたくなってしまいますねっ」
「スグルは酒飲みなのか?」
「いえ、まったくの下戸です。なんだか、これだけ美味しいお刺身やフグ鍋ならお酒も飲めそうな気になっちゃいまして、テヘ」
スグルが舌をチロッと出すが、まったく可愛くない。
「ん。私は訓練したからお酒強い。どんなにアルコールが強くても酔わない」
「うん。ピピはピピで、ちょいちょいツッコミづらいこと出すのをやめてくれ」
そんなこんなでノンアルコールの宴会を楽しむ。
「ふぅ。では、僕は部屋に戻りますね」
どれもこれも絶品だった料理を食べ終わり、まったりしていたところでスグルが別室へと引き上げる。
「じゃあ俺は風呂にでも入ってくるか。ピピはどうする?」
「それに入る」
ピピが指さしたのは部屋についている個室露天風呂というヤツだ。
「そか。まぁじゃあ俺は大浴場行ってくるから入ってていーぞ」
「トーマは一緒に入らない?」
「普通に考えて入らないだろ」
「? 知らない女性と入るくらいならトーマと入った方がいいに決まってる」
「じゃあスグルでもいいのか?」
「……む。確かにスグルとは違う気がする。男だとトーマだけ」
「ありがとさん。でも、ここで一緒に風呂まで入りだしたらスグルに何を言われるか分からないぞ?」
「? 別に何を言われてもいい」
「あー、確かに」
俺もスグルに何か言われても別に困りはしなかった。
「いや、ダメだダメだ。俺たちはリベンジが済んだら、きっと人生の意味をもう一度見つめなおすと思う。その時にもしかしたらピピだって普通の暮らしに戻りたいというかも知れない。普通の暮らしってのは、恋人でもない年頃の男女で風呂になんか入らないんだぞ」
「でも、今は私たち普通じゃない」
「それは、確かにそう」
「? じゃあいいの?」
「え、あれ。いいのか? あー、うーん? あれ? なんか俺いつもみんなに言いくるめられている気が……。えぇーい、とにかく俺は大浴場に行ってくる! 風呂入っておけ! 1時間後くらいに戻ってくるから服着ておいてくれよ?」
「ん。分かった」
というわけで、俺は自分の着替えとタオルを持って部屋を飛び出した。
「……俺って流されやすいのか?」
リベンジャーズを結成してから、スグルやピピに振り回されている気がしてきた俺は、しっかりしなければと頬をピシャリと両手で張るのであった。
それから一時間。
「ふぅー。いいお湯だった」
あまりピピを急かすのも申し訳ないと一時間と言って長すぎたかと思ったが、露天風呂で涼みながらのんびりお湯を楽しんでいたらあっという間であった。
「さて、ピピはもう出ているよな。おーい、ピピ入るぞー」
部屋をノックする。返事は聞こえない。
「入るからなー」
鍵を開け、薄くドアを開き、ピピが服を着て待っててくれていることを祈る。だが、部屋の中にはピピの姿は見当たらなかった。
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