百均で神の声聞くおもてなしものづくり

榊 薫

第1話

賑わいを取り戻した観光地の「おもてなし」という言葉は東京オリンピック招致プレゼンテーションの決め台詞として広まり、当時の流行語にもなりました。日本の商店で店員の丁寧な態度、慮った親切な客への対応など、お客様の身になって先回りして考えるような気配りがあるからこそ応対ができると言えます。

諸外国からやってくる観光客にとって日本の歴史と伝統文化を体験する時の顧客サービスが人気のようです。店員やタクシー運転手、飲食店、ホテルの掃除人など日本では無料が当たり前のサービスになっています。また、与えられた任務以外でも、顧客から要望があったことは対応する心構えを持っています。。

日本のサービスを外国人が眺めると、外国人はサービスに対価を要求し、日本人はおもてなしという高度なサービスへの気配りにも対価要求しないから「サイコーデスネ!」となります。

サービスに労働力を投入して対価を得る能力は、ISO品質マネジメントシステムで言うと、顧客満足度を高めることになり、専門性の高い能力を磨くことは欠かせませんが、その際、優秀な上司に遭遇できない人、周囲に優秀人材がいないときにどうすべきなのか知られていません。

高度成長の頃に比べると、ものづくり製造業数はめっきり減少しました。加工賃の大半を占める人件費を削減するため、退職奨励までして従業員を減らそうとしている企業もあります。優秀な人は他で働くことができるのですぐにやめて行く一方、打たれ強い人は、上司の意に反して何度怒られてもやめて行かないものです。したがって、専門力の高い優秀な人材はますます減り、打たれ強い能力を持った人だけ残って企業は成り立っていると言えます。

上司のお仕事

ということは、実は上司もまた、管理能力よりも打たれ強いために生き残ってきたのです。その多くは、独断と偏見から、自分が今まで経験してきた物事をすべて部下は把握していて、「一を聞いて十を知るものだ」と勘違いしています。例えば、説明力が不足しているにもかかわらず「いちいち言わせるな」などと言うことがあれば、力量を危惧して対応せざるを得ません。

仕事をする上で、人間関係はゲームのようにはうまくいきません。自分を認めてくれて、尊敬できる上司と一緒に「楽しくお仕事」ができるなどということは、よほど日頃の行いがよい人、人生の達人、幸運に恵まれた一握りの人だけが味わえるものです。普通は、上司と折り合いが悪く、不遇の時代を耐え偲ばなければなりません。昨今の厳しい雇用情勢の中で、職場や客先で相性のよくない人と出会うことはたびたび起こります。顔を合わせるのもうんざりする上司や顧客とうまくやって行く方法を見つけ出すことは大切です。「おもてなしとかけてリバーシブルと解く」その心は「どちらもうらありです」といった、ダジャレを飛ばして凌ぐのもその一つです。

ただし、上司、同僚や顧客の一挙手一投足といった細かな雑念やダジャレが脳裏をよぎりながら仕事をしていると、他のことは深く考えられず、目先しか見ることができなくなりますのでご用心。多くの失敗はそのときに起こります。忘れ物をするときも、別のことに気を取られているときに起こることが多々あります。不注意、衝動的な症状、仕事や作業を順序立て行うことが苦手で、あまりにひどい人は、その道の医療機関に相談されることをお勧めします。

ものづくりで、顧客満足度の高い加工技術かどうかを判断する際、一般的によくあるのは、自分が何を信じたらよいか分からず、信頼できる人物や考え方を求めようとしますが、本当に信頼できるか、最初は半信半疑です。自分が何を信じることができるのか疑う気持ちと、信じれば救われるといった気持ちの間を揺れ動いて、はじめは、独力では行動できないことから、周囲の同意や指示を得るために、周りのさまざまな言動や雑念に悩まされて左右されることになります。ある程度、習熟してくると、関心の高いものを真剣に追求して、用意周到に準備する能力が備わってくるようになります。

ところで、加工工程に記載のない作業は「やらない」と考えるのではなく、その工程外の作業を踏まえることで良品を生み、作業者の環境が改善されるカギとなるのであれば、それによってリスクを軽減し、おもてなしの高度なサービスに繋がるので、コストをできるだけ抑える方法はないか考えてみました。

予備洗浄

ものづくりで予備洗浄という作業用語を使っている人はほとんどいません。自動ラインで加工する前の金属素材について、良いものと悪いものとでは表面処理の仕上がりに差が生じます。めっきや塗装前の金属素材にプレス油、錆、研磨粉や加工傷などが残っていると、皮膜で覆い隠そうとしても、皮膜の剥がれ、膨れ、変色などの外観不良が発生します。ちょうどお化粧のクレンジングとよく似ています。

これまで、国内の表面処理企業は高度成長時代のものづくり技術を身に着けた職人が、一般の機械による自動ラインではできない予備洗浄方法を見極めて対応してきました。加工工程には記載のないものがほとんどです。ところが、技術の継承問題は高齢職人の退職・減少だけでなく、若者の製造業離れも進み、表面処理業は最盛期の半分以下に減少・衰退して、ISO加工工程に記載のない技術は次々と消滅しています。

また、表面処理薬剤メーカーに、素材の悪いものを前処理する薬剤はありますが、利益率が低く、複数の汚染物質に対応する技術が難しいことから開発を敬遠し、使い勝手の良い開発は行われて来ませんでした。

このままでは高品質な国内の製造技能の存亡にも係ることから、有害なものをできるだけ使わずに誰でも利用できる薬剤の提供を行うことが、開発の動機付けとなりました。

薬剤開発

金属表面処理の優れた予備洗浄作業では、未だに有害な発がん性の恐れのある有機溶剤が使われています。しかし、これらに替わる無害で安価な商品は知られていません。

そこで、予備洗浄が化粧のクレンジングと似ていることから化粧品を調べてみました。広告宣伝費をふんだんに使った高級化粧品と百円ショップで買えるものの成分を比べたところ、浸透性の成分・構造は意外と安価なものと共通しています。そこで、これまでに取り組んできた洗浄技術の考え方に基づいて、化粧品成分の機能を見直し、予備洗浄に当てはめてみました。

金属素材に付着している頑固な汚れを引きはがす機能として浸透力は欠かせません。そこで、浸透力に着目したところ、発がん性ではない安価で水溶液で利用できるものが見つかりました。百均化粧品を調べたことによる「神のお告げ」でした。

「おもてなしとかけて予備洗浄と解く」その心は、どちらも「思いやりが欠かせません」。

ものづくり製造業の衰退がますます進んでいますが、消滅する前に、伝統職人が築き上げてきた予備洗浄の分野で有害な薬剤に取って代わるものを安心して利用できる作業環境づくりに貢献できそうです。

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百均で神の声聞くおもてなしものづくり 榊 薫 @kawagutiMTT

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