Café
あの出来事から3ヶ月が経った。目が覚めた時、俺は病院のベッドの上にいて、事故で意識不明の重体だったのだと聞かされた。そして同時に、晃太が死んだということも聞かされた。俺は驚かなかった。ただ、あれは夢ではなかったのだと、もう本当に晃太には会えないのだと寂しくなった。
晃太の葬式には入院のため出ることができず、退院後に晃太の実家に線香をあげにいった。久しぶりに会った晃太のお母さんとお父さんは歳こそとっていたが、俺たちが学生の頃と変わらず優しく迎え入れてくれた。晃太の遺影の前にはフルーツタルトが供えられていた。
俺は手を合わせながら小さく「ごめん」と呟いた。晃太の苦しみに気づいてあげられなかったこと。晃太を置いて1人で生きてしまっていること。あのレストランでの出来事は、そんな後ろめたさから誰にも話さないでいる。
今日は晃太が死んだ日からちょうど3ヶ月。今、俺の目の前にはフルーツタルト。傍らにはコーヒー。ふらりと入った喫茶店で頼んだものだ。
あの時俺が現れたせいで、晃太はデザートに苦手な羊羹を食べるハメになった。本当なら母親特製フルーツタルトの予定だったのに。適当に入った喫茶店のフルーツタルトを俺が食べるなんて、何の代わりにもならないだろうが、少しでも晃太の為に何かがしたかった。
フルーツタルトを口に運びながら考える。晃太の最期の晩餐はコース料理としてはちんちくりんなメニューだった。しかし本人的には満足のいくものだったのだろうか。俺の最期の晩餐はどんな風になるのだろう。どんなメニューになろうと、叶うなら晃太と一緒に食べたい。デザートだけはもう決めてしまおうか。この先どんなに美味しいものと出会っても変わらない。晃太の母親特製フルーツタルトだ。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。お連れ様がお待ちでございます。」
気がつくと、何十年と待ち侘びた光景。ウェイターの言葉に、心が躍る。
きみと、最期の晩餐 金魚草 @tosakinn-gyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
水やりの時間/金魚草
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます