第4話 冒険者への道
レイズくんと旅に出てから3日、私たちはひたすら歩き続けた。といっても、目当てがまったくなかったわけではない。
ビリオンクエストのマップはあらかた頭に入っていた。サブイベントが発生した町は大陸の中でもエルロード王国領の辺境に位置している。その周辺には小さな集落が点在していた。逃亡先には事欠かないように思えるけど、実は少し問題があった。
あの町も近くの小さな村も、旅人が泊まれるような宿の数が少ないのだ。私が家を捨てたと知ったら、ガストンは真っ先に宿屋を中心に探させるだろう。近場の宿に泊まろうものなら、すぐに見つかってしまうかもしれない。
そこで、私は思い切って城塞都市グレンデを目指すことにした。
魔物が多く出現する地域の開拓を目的として発展してきた街で、王国の中で5番目に大きな都市でもある。もちろん宿屋はたくさんあるから、そこまで行けば聞き込みで居場所を突き止めるのも簡単ではなくなるはず。
まずは徒歩でできるだけ追っ手を撒いてから、途中で馬車に乗って向かうという算段だ。これなら、いきなり馬車を使うより足が付きにくいし、お金も節約できる。
そして、旅立ってから丸5日、ようやく城塞都市グレンデに辿り着いた。
とりあえず、ここで宿屋を転々としていれば当分ガストンに追い付かれることはないでしょ。
5日間の疲労でヘトヘトだったし、ホッとしたのもあって宿屋に着いてから夜まで2人して爆睡してしまった。
そうして今は、遅めの夕食をレイズくんと囲んでいた。
「冒険者稼業?」
宿屋の食堂で用意された肉料理を頬張りながら、レイズくんは私の提案に疑問を返した。
「そう。レイズくんがガストンの手下を倒したのを見て思ったの。レイズくんの力なら、色んな依頼をこなす冒険者稼業でやっていけそうだって!もちろん、私もサポートするつもりだよ」
レイズくんは少し考え込んでからゆっくりと口を開いた。
「……まあ、戦うだけならできなくはないと思う。でも、アイシャは大丈夫なの?危ない仕事なんでしょ?」
レイズくんは私の安全を気遣ってくれてるみたい。ああ、推しの優しさが身に沁みますなぁ。
それはそれとして、たしかに私が戦いについて行けるかという問題は結構大きい。アイシャはビリオンクエスト的にはモブキャラだから、戦闘に関する能力がどの程度あるのかはぶっちゃけ知らないし。
「あはは、正直あまり自信ないかも。戦闘適正なんて確認したことないからねぇ」
笑って手を振ると、レイズくんは呆れたように目を細めた。
「なんだ、それじゃあダメじゃん」
「でも、他の方法でお金を稼ごうと思ったらどこかに雇ってもらわないといけないから、それは避けたいっていうのもあるんだよね」
レイズくんは悩まし気に顎の下に手を当てた。
「……そっか、同じ場所にいると追っ手に見つかるかもしれないのか」
しばらく、無言になったレイズくんは残っていた料理を平らげてからこっちを見た。
「なら、1回試してみる?無理なら別の方法を考えればいいし」
「よし、決まりだね!じゃあ、早速明日冒険者ギルドに行こう!」
こうして、2人で冒険者資格の獲得に挑戦することになったのだった。
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翌日。私たちは冒険者ギルドの受付に向かった。
「冒険者登録の申請ですね。では、まずは戦闘適正の検査を受けてもらいます」
受付の女性がにこやかに笑って、案内してくれる。
「戦闘適性検査は2種類あります。身体能力検査と魔力量検査です。それぞれの成績を評価して、冒険者としてのジョブに適性があるかどうかを判断させてもらいます」
「あの、もし適性がなかったら冒険者にはなれないんですか?」
私の問いに受付嬢は丁寧に答えてくれる。
「そうですね。最低基準を満たせない方の冒険者登録はお断りさせていただいています。命の危険が伴う職業ですので、ご了承くださいね」
やっぱりそうだよねぇ。よし、ここはいっちょ気合い入れて頑張りますか!
「では、奥の部屋へどうぞ」
受付嬢の案内で検査室に向かう。
その部屋の隅には色んな種類の武器が置かれていた。
指示に従って、武器を手に取り指定された課題をこなしていく。
ぶっちゃけ武器が重くてまともに持てないし、振り回すなんてとてもじゃないけど無理だった。
途中で息切れして動けなくなりながらも休憩を挟みつつ、一通りの検査をやり切る。すると、受付嬢が歩み寄って来て水を差し入れしてくれた。
「お疲れ様です。最後に魔力量検査をしましょう。これは簡単なのですぐ終わりますよ」
そう言って、受付嬢は手のひらサイズの水晶玉を差し出してきた。
「両手で持ってみてください。この玉は触れた人の保有している魔力の質と量によって光り方が変わるんです。例えば、火属性であれば赤く。そして魔力量が多ければより強く光ります。さあ、どうぞ」
身体能力検査が散々な結果なのは目に見えてるし、せめて魔力の方で巻き返したいよね。おねがいっ、私の秘めたる力!目覚めてください!
ゴクリと生唾を飲み込み、水晶玉を手に取ってみる。
すると、玉の中心からぼおっと弱々しい光が浮かび上がってきた。色のない真っ白な輝きだ。
受付嬢は手元の資料にさらさらと文字を書きこんで、にっこり微笑んだ。
「これで全ての検査は終了です。結果が出るまで待合室で少々お待ちください」
待合室に戻ると、すでに検査を終えたレイズくんが待っていた。
「レイズくん、お疲れぇ。結構盛りだくさんな検査だったねぇ」
「そう?まあ、こんなもんじゃないの」
同じ検査を受けたはずなのに、レイズくんは涼しい顔をしている。レイズくんの身体能力が高いのはゲームで知ってるからまあ当然ではあるんだけど、やっぱりすごいなぁ。
「私にはちょっときつかったかも。合格できたかな、心配だよぉ」
疲労困憊でつい弱音が出てしまう。すると、レイズくんが私の肩を優しくたたいた。
「そんなに気にしなくていいよ。アイシャが失格だったら、その。代わりに俺が頑張るからさ」
レイズくんは頬を指先でかきながら、照れくさそうにそう言った。
ヤバ、なんでこんなにいい子なんだろうか。ことある毎にナイスな反応してくれるからついつい表情筋が緩んでしまう。
っていうか、ゲームのレイズくんよりも随分デレてくれるの、私的に助かりすぎる。もしかして、主人公より早く助けた影響なのだろうか。なんというか、全体的に雰囲気が柔らかい気がするんだよね。
そんなやりとりをしている内に、受付から声がかかった。
「適性検査の結果が出ました。こちらが、検査結果の詳細になります。ご確認ください」
そう言って紙を渡される。そこに書いてあったのは……。
独身貴族系女子、悪役モブに転生する~シナリオ無視して推しキャラを助けてたらいつのまにか聖女扱いされ出したんだが~ 尾藤みそぎ @bitou_misogi
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