ドチャッキー

@Propatria

生贄の逆襲

ドチャッキーは僕が勝手につけた名前で、実際の名前は分からない。

だがしかし、いま生贄になろうとしている我々のために、ドチャッキーはもう9人も殺している。


悪王の奸計に絡めとられ、牢獄に入れられた見ず知らずの7人。

ドチャッキーは僕と同じ鎖で、牢の中央の杭に繋がれていた。


「ゆるせねぇだ!!!」


ドチャッキーは怒り狂っていた。

ぶつぶつと小声で呟いていると思えば、急に怒鳴りだす。


じゃらじゃらと鎖を両手に持ち、彼は圧倒的な力で鎖を引きちぎろうとするが、いくらドチャッキーでもそれは無理だった。


僕はあきらめた口調で言った。


「君、それは無理だよ」


「はやく出ねば、おらの村が!!」


「では鎖ではなく、手錠を壊してはどうだ」


「ぎゃああああああああああ!!!!!」


ドチャッキーはもう実行していた。

手元からどくどくと血が流れだした。


どこからともなく声がした。


「それでは無理だ。鎖を巻き付けてみんなで叩こう」


「やってくれだぁ!!!はやくしてくんろ!!」


ドチャッキーが懇願する。

するとぞろぞろと牢の隅にいた影が集まり始めた。


「少々痛むが、我慢せよ」


「やれぇ!!」


カキィィィィン!!!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


ドチャッキーの叫び声が響き渡る。


カキィィィィン!!!


「黙れ!!!我慢せねば、その村とやらを助けにも行けぬぞ!!」


髭を蓄えた老人がドチャッキーに喝を入れる。


「んんっ!」


カキィィィィン!!!


「んんんっっ!!」


刀鍛冶のように男たちの手に力と魂がこもる。

村を守る為に燃える男の情熱と、男たちの技はドチャッキーという名刀を打ち出した。


「おらぁぁぁ!!!」


ドチャッキーは、本当に手錠を破った。

どくどくと血を手首から吹き出しながら彼は言う。


「爺!おら、次はどうしたらいい!?」


老人は一瞬考えたのち、こう提案する。


「騒ぎ立てるのじゃ。今の音で誰も来ないということは、もっと騒がねば守衛は来ぬ」


「なぜわざわざ捕まるようなことを」


「いや、おらにはわかった。爺、やるぞ!」


「おぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!」


「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「やぁあああああああああああああああああああ!!!!」


みなが奇声を上げる。


「なにごとだ!!」


衛兵の怒鳴り声と共に足音がどんどん近づいて来る。


「爺、おらは繋がれたふりをする。そうだな」


「そうじゃ。。。」


みながうむと頷き、場は殺気に満ち溢れた。


がちゃりと牢の鍵を開け、牢にずかずかと入ってきた。


「何事だ!!」


僕は言った


「鬼が舞い降りたのです」


「鬼だ?」


「はい。鬼でございます」


「その鬼はどこにいるのだ」


「ここじゃボケ!!!!!」


ドチャッキーが衛兵の首を、野太い腕でグイと絞める。

衛兵はスンとも声を漏らさず、そのまま息絶えた。


僕は衛兵の衣服をまさぐった。

幸運にも男の腰に鍵がぶらさがっていた。


ドチャッキーは丁寧に全員の鍵を解いた。


「生贄はおらたちじゃねぇ!!!あの悪王だ!!!」


彼の一声のもとに我々は団結し、ここに反政府軍が結成された。

これがのちの陸軍となることは、誰も知る由は無かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドチャッキー @Propatria

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る