00 訳者あとがき

本書はレスリー・ファインバーグ『Stone Bucth Blues(1993)』の全邦訳である。レスリー・ファインバーグ(Leslie Feinberg, 1949-2014)は自伝的小説として本書を上梓し、中国からトルコからセルボ・クロアチアから、いろいろな国で翻訳された。ただ日本ではいまだ翻訳はされていない。本書のあとがきで「無断で翻訳しないように! 紙と電子書籍にしないように!」と執拗に明記しているが、だったらなぜ本書をPDF版でサイト(https://www.lesliefeinberg.net/)にアップしているのか、わたしにはわからない。おそらく、彼/女がここにいたこと、この本を書いたことに記憶を留めておきたいが、金にすることは断じて許さないという硬い信条が透けて見える。著書で検索すると、本書で言及している黒人や女性たちによる公民権運動やストーンウォールの反乱など、クイア・スタディーズ的な学術論文のようなもので言及している日本人研究者(学術的な邦訳引用はOK)がいて、彼/女への関心と謎はなおさらに続くと思われる。


タイトルの『Stone Bucth Blues』は、この小説の舞台となるバーの名前であるが、「ストーン・ブッチ」とは、いわゆる性的指向(嗜好?)のことである。「ブッチ」は「(ゲイ女性の)男役(タチ)」だが、「ストーン」がつくと「(脱がない)バリタチ(またはBDSMのトップ)」になるということだろう。現在となってはエース(ACE:asexuality:Aセク)で超ロマンティックだろうと想像できるが、実際のところは誰にも想像ができない。


全邦訳といいながら、PDFにはコピーペースト防止策があり、またAIによる翻訳である。その都度「自然な日本語」になるよう修正したが、著者ももともと学があるわけでもなく(高卒で活動家になった)、小説のプロでもないし、またわたしは学者でもプロの翻訳者でもないから、そのへんは適当にした(ざっと下訳した後、少しずつ丁寧に邦訳を完成したい)。全26章構成である。


サイトのプロフィールには、「反人種差別主義者の白人、労働者階級、世俗的なユダヤ人、トランスジェンダー、レズビアン、女性、革命的共産主義者であることを自認していたレスリー・ファインバーグは、2014年11月15日に死去した。 ライム病、バベイシア症、リウマチ性原虫症など、数十年にわたる病気を患った。 ジー(Zie/she)はニューヨーク州シラキュースの自宅で、22年間連れ添ったパートナーであり配偶者であるミニー・ブルース・プラットに見守られながら亡くなった」とある。


また、彼/女の出身はアメリカ・ミズーリ州カンザスシティだが、小説の舞台になってるのはカナダである。その昔、カナダはインディアンが追われ、いまでもイスラム教が強い国では同性愛者(あるいはトランス・スペクトラムの人たち)が亡命してくる土地なので、先住民族を尊重して2SLGBTQA+と呼ぶ国だ。2S(two spirit)は、インドのヒジュラ、タイのカトゥーイと同じように、「(男女の)二つの魂がある」とされており、トランス女性の姿をしている。実際、生物学的かつ社会的に割り当てられた性別とは別に、ホルモンは男女両方に分泌しているし、インターセックス(性分化疾患)については「性染色体異常」とされているが、当人たちがもっと集まってインターセックス・プライドを主張すべきだと思う。

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〖邦訳〗ストーン・ブッチ・ブルース コンタ @Quonta

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