トリックオアトリート

青時雨

トリックオアトリート

「みなさんはどんな方が好みですか?」



何を質問されているんだ。

そもそもどうして私はこんな状況に…?。

あ、そうだ。友人に招かれたハロウィンパーティーで食事を楽しんでいたら、友人の友人というよくわからん他人と「歳の近い男女で意気投合ー!」みたいな謎の流れで話す感じになってしまい…



「叶子さんは、どんな方が好みですか?」



キターーー。空気みたいに存在感消して酒チビチビ飲みながら、皆様の質問回答のやりとりに微笑浮かべながら適当に頷いてたのにここにきて話を振られてしまった。

信じたくはないが、私のターンがきてしまったようだな。

よりにもよってなんて質問なんだ。

さあ、なんて答える叶子。



「どちらとも言えませんね」



よしっ。回答としてはつまらないが、無難にこの場をやり過ごせた気がする。皆様が微妙な表情で「へぇ〜そうなんだ」と言って飲み物を口にし何も話せないこのタイミングがチャンスだ。

今すぐ逃げよう。



私がその集団から逃げてきた先は、友人(既婚)が誘った既婚者集団。いわゆるママ友だ。ここには小さい子どもとかもいるし、あやつらは来ないであろう。

トリックオアトリートと言われて差し出せるお菓子もちゃんと持ち合わせてるし、こちらなら問題ない。

と思ったのだが、子どもたちに懐かれてしまった。お喋りに夢中なママたちよりこのひとりぼっちなおねいさんの方がかまってくれると思ったのか…。子どもは賢いからな、迂闊だった。

お菓子をあげても遊べとせがんでくる小さな怪物(仮装)たちは、お菓子でベタベタになった手で容赦なくパーティードレスを引っ張ろうとする。

なんとか交わしていたが、そろそろ限界だ…「どうせクリーニングに出すし」と諦めるのか叶子っ!



「すみません、彼女とお話したいのでちょっと遠慮してもらえますか?」


「えー。やだ」


「おねーちゃんに肩車してもらって、魔女ごっこするんだから」



いや、肩車は無理だ。ぎっくり腰の未来が見えるような恐ろしいことを言うな少女よ。



「ほほう。おや?あちらにケーキが…」


「どこっ?」



ケーキ<私なようだ。子どもたちは可愛らしい仮装のままケーキが出現したテーブルへ一目散。



「はは、子どもに好かれるのも大変ですね」



なんと、さっき意味不な質問してきた男だ。納得はいかないが、助かったのは事実だ。礼くらいは言った方がいいかもしれない。



「ありがとうございます」


「随分渋々なお礼ですね」



やばい、この男心読んでくる。

警戒していると、男は優雅に紅茶を一口。顔がいいのがムカつくなぁ。

渋々なお礼で悪かったな。ならこちらも反撃だ。



「私に話ってなんですか」



嫌そうに言ってみるが、意に介した様子はない。余裕そうにマドレーヌを口にしている。



「あちらの方々のところに戻らなくていいんですが?。あなたのこと待ってるみたいですけど」



先程の他人集団にいた女たちの目を見れば、この男に気があるのは明白だ。早くあちらへ行ってしまえ。

私はこのパーティーに、友人の手料理を食べに来たのだから邪魔するんじゃない。というか、お前も人と話してばかりいないで、この素晴らしい料理を食べた方がいいぞ?。マジで。



「あなたと二人でお話したかったので」



お、歯の浮くようなこと言ってきたな。この程度ではドキドキしないぞ。



「僕の質問に、どちらとも言えないと答えてくれましたよね」



ああ、それがどうした?。文句あんのかっ



「あれは、どういう意味でしょう?」



あら、案外正直に聞いてくるタイプなのね。それが引っかかったからわざわざ私のところに来たのか…?

私からその答えを聞かない限りここをどきませんよ、みたいな圧も感じるし答えるか。



「私は好きになった人がタイプなので」


「おや、それは好都合です」


「好都合?」



おっと、声に出してしまった。下手したら睨んでしまったかもしれない。いけないいけない。



「ええ。僕のことを好きにさせればいいってことでしょう?」



………。

な、な、な、な、な、

なんだぁ?、この人。

「好きな人がタイプ」って言って、こんな風に切り返されるのは初めてだな。まずい、ちょっとキュンとしちゃったじゃんか。



「何がまずいんです?」


「え?声に出てました?」


「ふふ、本当にそう思われてたんですね」



カマかけたのか、この野郎。悔しいけど、嫌じゃないのが悔しいぃ。

余裕がない私に対して、余裕そうな男。



「ではまた」


「また?」


「私、毎年このパーティーに参加しているんですよ」



口元に手をやりながら、何かの種明かしをするようにくすくすと笑う男。

全く気が付かなかった…。やばいな、私他人を気にしなさすぎ。というか、料理に夢中になりすぎだったんだな。気をつけよう。



「今日は、私に対する感情が無じゃなくなっただけで収穫です」



なんじゃそりゃ…と思いつつも、頬が紅潮している。



「トリックオアトリート」



不意に差し出された手には、マドレーヌ。



「美味しかったので、食べてみては?」



実はパーティーが始まってからずっと気になっていた。無言で受け取りながらもぐもぐ食べてみる。



「トリックオアトリートって…選択肢トリートだけじゃないですか」



楽しげに微笑む男。

まずい。



「あなたを惑わす悪戯な一言…もといトリックはもうあなたに差し上げてしまったので。手元にトリートしかなく」



こちらの様子を伺っている男。

まずいぞ、これは気になるなとか思ってるうちにいつの間にか好きになっちゃうやつだ。

逸る気持ちを誤魔化すようにもう1つマドレーヌを口にしても、もう手遅れ。



男は終始変わらぬ微笑を浮かべながら、くるくると表情を変える叶子を微笑みながら見ていた。

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