第8話 その後のお話

 異世界での体験の後、自分が取るに足らない存在であるという事をゆっくりりかいした俺は今までのイキりから解脱し、慎ましやかにいきることを学んだ。

 家族にもたくさん迷惑をかけてしまった事、そして家族から愛されていることを実感したこと、そして安全で平和に暮らせることへの感謝から“人が変わったよう”と言われるほどだが、そりゃあんな経験をすれば嫌でもこうなる。


 心が折れそうになったり迷ったときは、あの部屋から持ち帰ったボタンのペンダントをみると、いろいろな事を思い出して遠い目をしながら頑張ろうという気になる。

 いったん普通高から通信制高校へとうるし、そこで死ぬほど勉強して不摂生を辞めて運動して体力をつけるように努めた。

 おかげでというかそこそこ良い大学に入学する事が出来、人並みの大学生活を送り、バイト先でしりあった子と付き合う事になり彼女も出来た。

 ・・・・・・亜理紗には悪い事をしてしまったと後悔があったが、亜理紗は高校を卒業した後は東京の大学に進学してそれっきりとなった。あの時付き合っていた彼氏とは結局別れたと風の噂に聞いたが、学生同士の恋愛なんてそんなもんだよな。

 またどこかで会う機会があればきちんと謝罪したいな、と思いつつも俺の大学生活はあっという間に終わり、真面目に色々な事に取り組んでいたおかげで地方公務員になることができた。

 そこから生活基盤を整えつつ、付き合っていた彼女にプロポーズ。結婚して間もなく子供も生まれて、順風満帆な人生を送っていた。


 ――――そんなある日の事、ふと街中で声をかけられた。


 どこかやつれた姿だがあのころの面影はあり、俺が見間違えるはずもない。


「あの、田所君……だよね」


「……亜理紗か」


 そう言うと、どこか疲れたような笑みを浮かべる亜理紗。こっちに帰ってきていたんだな。


「久しぶりだな、亜理紗」


「うん、色々あって今はこっちに帰ってきてて。田所君、雰囲気変わったね」


「そうかな?……そうかもな。そうだ、次にあったら言おうと思っていたんだけど……あの時、酷いこと言ってごめんな。俺子供だったから自分勝手なことばかりしてたよな」


 そんな俺の言葉に驚いたような様子を見せる亜理紗だったが、あはは、と力の抜けたように笑った。


「……本当に変わったね。なんかすごく良い男になった気がす――――」


 そんな亜理紗の瞳が俺の左手の薬指に注がれていた。


「ん?あぁ、これか。大学卒業して役所に就職してな、そこから結婚して今じゃ二児のパパやってるよ」


「公務員、ってすごいじゃないシュウくん。……私は、ダメダメだなぁ。とか言ってやっぱり怖いところだったよ」


 そういう亜理紗の横顔には同じ歳とは思えないような哀愁があったが、亜理紗が東京でどんな経験をしてきたか知らない俺には知った風な事をいう事は出来ない。


「人生いろいろあるさ。俺も色々と酷い目に遭って、おかげさまでおてんとうさまに恥ずかしくない程度には真っ当に生きてるよ。亜理紗は俺よりずっと真面目で賢かったんだから――――親御さんの所で羽保美したら、また立ち上がれるだろ」


 ははは、と笑う俺を亜理紗が眩しそうにみながら呟く。


「……うん、そうだね」


 そう言って長話もなんだなと思って話を切り上げた。同じ町にくらしてるならまた顔を合わせることになるかもしれないし、その時は俺の嫁ちゃんやジュニアたちを紹介することもあるかもしれないな、と思いつつ俺は亜理紗に背を向けて歩き出すのだった。


『――――お嬢様、次は寝取り常習犯の自称歌い手(笑)だそうですよ』

『えぇっ?さっきは同短拒否で詐欺トレードとかチケット詐欺してるオタ女子だったじゃない。なんでこの部屋にはキワモノばっかりくるのかしら……』


 どこかでお嬢様と執事の声が気がしたけど、多分きっと気のせいだろう。

 きっと今もあの2人はあの部屋で、俺みたいなろくでなしを更生させたり、異世界に案内したりしているんだろうから

 ……ジェーン達のおかげでおもったよりも充実した毎日を送らせてもらってる。もう会う事はないかもしれないが、もしあうことがあったら素直にお礼を言おうかな。

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お嬢様、この異世界転生はアリですか?~その異世界転生、審査しマス!!~ サドガワイツキ @sadogawa_ituki

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