第6話 エピローグ
手負いのハーピーを見かけた。奇襲をするだけの冷静さももうなかったようだ。
「ランス、僕が伏せるからよろしく」
「ん?」
襲来してくるハーピーが伏せたサンに向かって草原の兎を襲う鷹のように後脚を突き出すとランスからは無防備になった。
ランスは腹の真ん中に槍を突き刺すと、ハーピーの攻撃がサンに当たらないようにそのまま体当たりをした。しかしふんばれずに逆に弾き飛ばされてしまった。
伏せた状態のサンがナイフで防御するとハーピーは攻撃を外して地面に転がった。
首を切るまでに泥臭い戦闘があった。
サンが弓で連続で落としたハーピーのうちの一匹だった。
「やれやれ」サンは言った。「攻略法が分かったね」
「まあな、しんどいな」
窪地の背負袋や一通り集めた武器や小道具を拾い直し、そこで休憩を取ることにした。
「この背負袋はいいな。ナイフもいい品だ」
「思ったんだけど、その曲刀は使い勝手がよくないんじゃないか? 切るにはいいけど、突けないと色々不便だろう?」
「じいちゃんが過去の戦利品だって自慢してたんだけどなあ……」
「遺留品の剣の方がいい奴だと思うぞ」
「うーん、そうか」
メインの武器についてはちょっと再考の余地ありだな。
サンは拾った弓の方を調べた。「この弓は一級品だな。滅茶苦茶狙いやすい。親戚のグンじいさんが地元の弓作り名人だったんだけど……高級品っていうのはこういうものか」
「よかったな。もらっておけ」
罠の火が残っていたので、それを焚き火にして料理した。サンは本当にそこにあったハーピーの死体を解体して手羽先と手羽元を切り出してしまった。羽をむしるとでっかいチキンウイングに見えないこともない。
いや、見えない。でかすぎて不気味すぎる。
それでもサンは火で焙って、元が何かなど気にせずにかぶりついた。
「血抜きがイマイチなのでちょっときつい。あと、血の味が人間っぽい」
「嫌な感想だな」とはいえ匂いがいいので、ランスも食べた。「塩があればいける」
解体後の、両手をもがれた裸の女のようになった死体は見ないようにした。脚は鳥のそれなので脚を見れば大丈夫。
食事が終わると日が傾いてきたが、お金の回収は明るいうちにやっておくべきだった。
襲撃場所まで戻ると、殺された討伐隊の上にウンコが撒き散らされているのを見つけた。
「生き残りのあいつらか。本当にやることが最悪だな」ランスは顔をしかめた。
「本当にこういうセンスはすごいね。どういう経験で身につけたんだろ」
「知るか」
「ランスはこういうの埋葬したい人?」
「その聞き方だとお前はそういうのしたくない人なんだな?」
「まあ、自分一人だったらやらないね」
「……それはそうか。素直でいい意見だが、堂々と言うのはどうかと思うぞ」
「で、埋葬したい?」
「死体7つは無理だな。向こうの隊商の死体も考えたら1日2日じゃ終わらない」
「よし。放置で」
金は大量に見つかった。全部を山分けするとそれなりの金額になった。
ランスの怪我はそれなりに深刻で、全治一ヶ月くらいかかったので、それを計算すると収支としてはちょっと割がいい程度のものだった。
さらに後日談だが、依頼達成を見届ける討伐隊隊長も含めて全滅してしまったので、新人冒険者二人が毒でも盛って派手に裏切ったようにも見えてしまうので誤解を解くのが大変だった。
隊長の遺体はサンと離れたところから遠くないところにあった。ほとんど食われていなかった。状況としてハーピーは満腹だったはずなので、口封じでただ殺されただけという感じだった。鉤爪で首と腹をやられていた。
装備はあまりよくなかった。現金の持ち合わせもほとんどなかった。報酬は町に戻ってからだから、路銀だけということなんだろう。とはいっても貰えるものは貰っておいた。
ランスがせめてあとから回収しやすいようにと言うので、峠道の討伐隊の遺体の場所までは戻した。
窪地でもう一晩キャンプして、翌朝から帰路についた。
道中、森を抜けて平原に出てから、高い空を飛ぶ三匹のハーピーを見た。
はばたきもせずゆっくりと滑空していた。
未練があるんだろうなとサンは思った。もう数日はあとをつけてくるかもしれない。糞を落としてくるか、荷物にいたずらするくらいは狙っているだろう。
平原に出ると、自分がいた森と、それを囲む一帯の山岳が展望できた。山々は広いが森は狭かった。あの程度の範囲でうろうろしてたのかとサンは思った。
ハーピーたちの縄張りが森ではなくてその森を囲む山岳地帯一帯なのだということがよく理解できた。
そしてこの平原の一部も縄張りに含まれているのだろう。
それでも逃げていく自分たちを見張らずにはいられない。ほかに獲物はたくさんあるだろうに。
「襲撃してこないかなー」サンは高く飛ぶハーピーを見ながら言った。
「何を物騒なことを言ってるんだよ」
「ゲーッゲッゲッ」サンは上空に向かって叫んだ。
「キーッ」ハーピーはトンビのような高い声で鳴いた。
「何て言ってる?」
「さあ? 覚えてろかもしれないし、うるせえ馬鹿かもしれない。けど、捨て台詞だよ」
「たぶんそうだな。その感じなのは俺でも分かる」
「けど、もう煽りには乗ってこないや」
連携の取れてない三人の冒険者 vs ハーピー40匹 ~リジストン興国記~ 浅賀ソルト @asaga-salt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます