第3話アルバイト?

「皆、それぞれ地球に居場所を作ったようですね」

「えぇ、まぁ僕は住ませてもらってるという形ですが……」

「私は自分の家を持ってます。土地が広く、仕事が早くに見つかった事は大きかったです」

「それを考慮に入れれば、俺たちは比較的運がよかったのでしょうかね」

「日本と言う狭い土地の中ではそうだったかもしれません。他大陸と陸続きであったなら中国の者たちに任せたのですが……」

「しかし、僕が分からないのは僕が地球に送られた理由です。それほど、地球には脅威があるのですか」

「えぇ、まぁそれに関しては地球が他の星と比べて比較的戦争が多いと言うのが理由です。あなたなら、地球程度の大きさなら一瞬でどこにでも行けるでしょう」

「それは考えはしましたが、僕はまだ若い。この中でもダントツというか、今までのやり方を無視した派遣です」

「それに関しては、シューデラルトが一体未来に何を見たのかは私たちも知らないため答えられません。任務を遂行することに今は集中すべきでしょう」

「まぁ、何の理由もないなんてことはないと思われます。もしかすると、今後の任務の中で分かるかもしれませんよ」

「……そうですね。それでは、定期報告終了」

「皆お気をつけて」


 目を開いて時計を見ると時刻は6時丁度を指していた。どうやら彼女はもう行ったらしい。少し寝坊してしまった。朝食は簡単なものを作っておいたが、ちゃんと食べているようでよかった。

 それじゃぁ、今日は仕事を探さないといけない。日本は仕事を見つけづらいと聞いたことがあるが、見つかってくれないと困る。

「しかし、どこから探せば?」

 インターネットを使って探すことはできるだろうか。試しに『ノートパソコン』というもので検索してみた。

「……うーん、よく分からないけどとりあえず街を探せば見つかるかな」

 結局、仕事といった感じのものはあまり見つからず外で探すことに決めた。十六時ぐらいに帰ってくればいいだろうか。

 ちゃんと家の鍵を閉めて――鍵はないので、こっそり遠隔操作を使った――街に出る。

 しかし、どう探せばいいのだろう。まさか、壁なんかに仕事ありますなんて書いてるわけでもないだろうし。街中で呼びかけてるわけでもないだろう。呼びかけって……仕事の押し売りかな?

 …………いや、本当にどう探せばいいんだ?

 とりあえず、仕事がありそうな場所に向かう。『スーパー』や『コンビニ』のような店だって、結局人が働いているんだ。仕事があるかもしれない。

 というわけで近くにあったコンビニまで来た。当然そういう仕事があることを伝えるようなものは…………あれ?

 コンビニの窓の外側に貼ってあった張り紙をよく見る。

<アルバイト募集 資格必要なし 年齢十八歳以上 レジ打ち等の仕事 応募する人は下記の電話まで>

 あ、多分あった。

『アルバイト』って何だろう。あとでネットで調べよう。えぇと、電話しなきゃいけないのか。電話は……家にしかないな。じゃぁ家から電話しよう。番号はすでに覚えている。

 ついでにあたりの散策をしながら家に帰り、さっそく電話をかける。

 今更ながら、仕事を探すなら谷嵜淳也に頼ればよかったと気づいた。

《……お電話ありがとうございます。リーソン新宿店です。どのようなご用件でしょうか?》

「あ、どうも。すいません先程そちらの店でアルバイト?募集と言うのを見たので」

《あ、バイトの応募ですね。分かりました。ええと、簡単な面接を行うので都合のいい日時を教えてください》

「日時、あぁ、いつでも大丈夫です。なんなら今からでもいけますが」

《あぁ、それは助かりますー。では、明日の午後一時ぐらいで大丈夫でしょうか?》

「午後一時……あ、はい大丈夫です」

《ありがとうございます。それでは失礼します》

 電話が終わったのを確認すると電話を置く。

 意外と早く見つかったな。


「ということで、明日面接を受けることになった」

「そ、そうなんだ。よかったね……」

 夜十二時に帰ってきた彼女……というか小井口紗代に今日のことを報告する。今日は残業が長引いたのかと思ったが、最近は比較的早く帰れていただけらしい。

「これで、少しは僕も役に立てればいいんだけど」

「いやいや、今でも十分だよ」

 小井口紗代は、箸を持ったまま両手をぶんぶん振る。

 しかし、明らかに今の状態は彼女にとって良くない。しかし、彼女は生活のためにはお金がいると言う。だから少しでも負担を減らすことが出来ればと思ったのだが、果たして大丈夫だろうか。


 そして翌日、早く起きて小井口紗代を見送った後ネットを使って『面接』に必要な物を調べる。何もいらないならそれでいいが、必要な物を持っていなくて行った意味が無くなるという事は避けたい。

 えっと、『履歴書』?なんだそれ。戸籍表とは違うのかな?

 ちょっと調べてみると答えはすぐに出た。どうやら、戸籍表とは別のいわゆる個人の記録のようなものらしい。履歴書の作り方もネットで調べれば簡単に分かった。

 僕の星ではこんなのはいらないけど、能力が低い分それに適応して知能を働かせているらしい。この星においてはとても便利だ。ネットというものを介する必要があれど、多くの情報が手に入る。もっと早くこれを使うことができればもう少し調査は楽だったろうに。

 パソコン上で作った履歴書はどうやら『ネットプリント』というもので物的媒体にできるらしい。今日は特に買い物に行く用事はなかったが、これはコンビニで『印刷』しなければいけないため、外に出る必要がある。まぁ、今までの経験的にこの家を訪ねる人はほとんどいなさそうだし、出ていても問題はないだろう。

 そして、コンビニで印刷をして家に帰るとすでに時刻は十二時五十九分を示していた。

 あれ、えっと確か面接の時間って、一時だったような?あ、帰ってこなくてよかったじゃないか。どうしようか、時間に遅れるのはよくないだろう。仕方がない。死活問題として許してもらえるだろう。目撃されなければ問題もない。

 ということで、家を出て少し離れると周りに人がいないことを確認して思いっきり跳躍する。ここからあのコンビニまでは大体二百メートル。そこまで高く上がる必要はない。

 予定通り、コンビニの裏側に着陸すると改めて誰にも見られていなかったか確認してから正面側に回り店内に入る。時刻はまだ十二時五十九分。ギリギリ間に合ったようだ。

『レジ』の人に事情を話すと奥の部屋に案内された。

「えっと、ここで待ってください。店長を呼んできます」

 店長、というとこの店で一番偉い人だったか。そんな人が面接を行うのか。相手は地球人、僕らより下位の存在だが何とも言えない緊張感がある。

 ある程度、ネットの情報をもとに流れは確認している。だから問題はない。

「……えっと、人形じゃなくて生きてるよね?」

「えっと、そうですね。人間ですよ」

 ようやくやってきた店長らしき人が室内に入ってきてから、しばらく僕を見た後最初に言った言葉がそれだった。

「いや、まぁ気にしないでくれ。ただ、ちょっと動かなすぎじゃないかと思って、ね」

「そうでしょうか。気にしたことはなかったです」

「そうか。さて、君がバイト志望の子だな。いやはや時期的には大助かりだ。正直このまま即採用と行きたいところだが対面上しないわけにはいかないからな」

 正直、店を経営する人の発言としてはいかがなものかとは思った。しかし、これだけで辞退するのは判断が早すぎるだろうし、ここ以外に見つけられるかどうかも分からない。

「ゴホン。さて、氷堂柳君だな。二十四歳か。えっと、このデルガドア高校ってのはなんだ、どこにあるんだ?」

「あぁ、その時僕海外にいたもので。アメリカにありますよ」

 やっぱり聞かれるか。それらしい噓を考えていてよかった。

「そうか!じゃぁ英語ができるのだな。それはいい!実はこの近くには外国人が多く住んでいるらしくてな、よくその人たちが来るのだが言葉が通じないというのはなかなか不便で、日常会話ができるほど英語ができる人もいなかったもんだから苦労してたんだ。いやはや助かった。うむ、よし採用だ!」

「……は、もう終わり、というか採用ですか?」

「うむ。私からすれば君ほど有能なアルバイトもいない」

「はぁ、志望動機とか聞かないんですね」

「そんなもの聞いてもしょうがないだろう!君一人しかいないんだしな」

 なんだか元も子もなかった。

 しかしこれで就職はできた。まずはひと段階進んだようだ。

「それで、いつから入れるんだ?」

「あぁ、いつでも問題はないですが、夜と早朝は来れないと思います」

「なるほどな。うん、問題ない!」

 まぁこちらとしては都合がいいのだが、なんともあっさりとしすぎている。そこまで人材不足が深刻だったのだろうか。

 結局、明日から入って、基本月曜日から金曜日までの八時から十七時までという『シフト』になった。なんだか、あの店長の感じを見ているとこの時間帯すらちゃんとしたものなのか分からなくなってくる。

 とりあえず、面接は終わったので周辺を散策することにした。といってもなんとなくの地形情報はある。『グーグルマップ』というものは実に便利なものだ。家にいるのに遠く離れた場所を見ることができる。一応、はるか遠くを見たりすることは可能ではあるが、このように実際に歩いてみたりするのとは大きく異なる。それを疑似的にできるのだからなかなかなものだ。故郷では必要ないため作られていなかったが、あってもいいかもしれない。

 小井口紗代が帰ってくるのは大体24時以降。かなり時間的余裕がある。空いている時間はこの国の調査に充てることができるため、正直助かったといえば助かった。

 本来、彼女を救うことは僕の任務にはないけどここで彼女のことを見捨てることはできない。これは義務感というより、単純に僕が彼女を助けたいだけだ。シューデラルトが未来に何を見て僕をここに送り込んだのかは分からないけど、僕には関係のない話だ。今はとにかく彼女のためになることをしよう。明日からバイトも始まるし、頑張ろう。

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