第2話 ブラック企業?

目を覚ました時は、地球時刻で午前六時ちょうど。

 彼女のスマホの音で目が覚めた。それでも彼女が起きないため、自分が出ることにした。電話を取ると、スマホの向こうで怒鳴り散らす声が聞こえた。

《おい!!電話とるのがおせぇぞ!!いつもツーコール以内にとれって言ってんろ!!》

 何かぎゃぁぎゃぁ騒いでるようで少々耳障りだったが、気にせず用件を聞いてみると、声の主は一瞬黙るとすぐに再び騒ぎ出した。

《誰だてめぇは!!俺はその電話の持ち主に用があるんだよ!さっさと代われ!!》

「……彼女は現在寝ています。なので用件は僕が聞くので早くいってください」

《あぁ!?まだ寝てんのか!さっさと起こしやがれ会社に遅刻してんぞ!》

「……まだ六時ですが。一体何の会社なのですか?」

 再び、声の主がぎゃぁぎゃぁ訳の分からない言葉を発し始める。何だこの男は。地球人は確かに我々よりもはるかに知性が低いが、こいつはずば抜けている。簡単な質問に答えられないとは、『猿』や『犬』以下ではないか。我々含め地球人の一番の強みは思考力、言語を理解し話せることであろう。それもまともにできないなど獣でしかない。

 いい加減ぎゃぁぎゃぁ騒いでいるのを効くのも不快だったため、一言断ってから電話を切った。

 そして、僕の声で目が覚めたのか、彼女がゆっくりと体を起こし、しばらくぼーっとした後時計を見て飛び上がった。

 慌てて布団から出てすぐに僕に気づき、固まったあと何か思い出したかのように再び動き出した。慌ただしい人だ。

「そんなに急いで、どうしたの?」

「か、会社に遅刻した!やば、やばい怒られる!あああ、電話とかかかってきてない!?」

「あぁ、さっき頭の悪い男から。あぁ、そういえば会社に遅刻しているとか言ってたような。しかし、まだ早朝だよ。こんな時間から始まる会社などあるの?」

「ううう、しかたがないよ……というか結構普通だと思うこれでも」

 そうなのだろうか。昨日彼女が言っていたブラック企業というのが分からなかったが、こんな朝早くから行かないといけないような会社はブラックではないのか。

 慌ててしわの寄った『スーツ』を整え、家から飛び出していった。遅刻したのだから怒られるのは必須だろうが、大丈夫だろうか。

 とりあえず、部屋は特別散らかってないしすることもないのでまだ調査できていないことを調べよう。幸い、この星ではそこら中に情報が漂っている。どうやら、地球では『インターネット』というらしい。それを読み取るだけでいい。まず先に調べたのは『ブラック企業』というものだ。彼女が一体どういう状況にあるのか知っておきたい。明らかにあの男は怪しかった。

「……」

 結果としてはブラック企業が何かは分かった。しかし、問題は彼女がそんなところにいることだ。どうするべきだろうか。

 結局、彼女が帰ってくるのを待ち、その後考えることにした。当人なしでは何も決まらないだろう。

「……!」

 ふと気配を感じて振り返る。そこには僕の同僚がいた。

「よう、やっと住処を見つけたのか」

「うん。と言っても、住ませてもらってるんだけどね。僕の家じゃない」

「まぁいいだろう。俺もだ。にしても、この星にはめんどくせぇものがあるな」

 彼が空中に座る。この星は空気が濃いためこのようなこともたやすくできるのが面白い。

「お金のこと?」

「あぁ、全くその存在のせいで面倒なことになった。一応、上に許可取ったうえで記憶操作して住み込んでる形だ」

「なるほど。君の得意技だね」

「俺はターニカルだからな。お前のような戦闘ばかりのギアントルとは違うんだよ」

「そうだね。今回こんな任務に僕が選抜されたのも正直驚きだもの」

 彼の地球名は谷嵜淳也(たにさきじゅんや)。ターニカルというのは地球で言う諜報員のこと。かれはそのターニカルの精鋭からなる部隊でデコックをしている。地球で分かりやすく例えれば……副隊長といったところか。主に異星に潜入して情報を集めるのが仕事だ。

「上の気まぐれか、はたまたこの星にお前が動かなけりゃならねぇほどの脅威が……あー、なんだ、――――って、地球でなんて言うんだ?」

「潜んでいるのか、だね。どうなんだろう。調べてる限り、僕が動くほどの脅威はなさそうだけどね。どれも原始のものだ。唯一少し危ないと思うのは『核爆弾』とかいうものかな」

 一体何のために僕はここに派遣されたのかは全く持って不明だ。説明もされずに、ただこの星に潜入しろとだけ言われた。

「まぁ、なんにせよお前が選ばれたのはお前があの部隊で一番『えぐい』からだろうがな。それが尚更おかしいが」

「まぁ僕に拒否権はなさそうだったから仕方がない」

「そうだな。じゃぁ、俺は帰るぜ。住処がまだ見つかってないようだったら呼ぼうと思っただけだ」

「うん、大丈夫だった。気を付けてね」

 彼はそのままホールに入って帰っていった。彼も何とかやれているようでよかった。他の大陸に降りた奴らも大丈夫だろうか。

 結局その後しばらく情報を収集した後、彼女が帰ってきそうだったため食材を購入して(机の上になぜか置いてあったお金を複製して使わせてもらった)それで簡単な料理を作った。ちなみに冷蔵庫にあった食材は昨日の夜に使ったもので全部だった。

 作った料理は『ニラたま豆腐丼』と『味噌汁』それと『無限ニンジン?』という三つ。完成した料理を机に並べたところで丁度彼女が帰ってきた。

「おかえり。料理できてるよ」

「……たっただいま、帰りました。え、えとご飯?ありがとうございます」

 えっとたしか、これは『敬語』とか言うんだっけか。目上の人に大して使う言葉。でも、昨日も今朝もそんなの僕に対して使ってなかったのに今になってどうしたんだろう。

「えっと、敬語なんかじゃなくていいよ」

「えっあっはいっ。えと、ごめん昨日は疲れてたし、朝も慌ててたからちゃんと聞けなかったんだけど、えと、どちら様でしょうか?」

「……あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったね。えー、僕の名前は氷堂柳(ひょうどうりゅう)年齢は二十四」

「氷堂、柳さん。な、なるほど。えっとじゃ、じゃぁ私は飯塚千峰(いいつかちほ)。えっと、二十六です。と、年下だったんだ」

 ……まぁ実年齢五百八十一なんて、言えないよな。

 ただ、それに関しても不思議なことがある。こういう潜入任務に就くのはいつだって寿命が短いことが多い。長いこともあるが、少ない方だ。そしてすべての共通点が、どれも、その惑星に住む生命体が死ぬまでの期間と同じ残り寿命の者が潜入するのだ。あたかも、その星で他の生命体と共に寿命を果たせとでも言うかのように。しかし、だ。僕は五百八十一歳。未だ平均寿命の一割も満たせていないのだ。なぜこんな若造をこんな、平均寿命八十歳程度の惑星に送り込んだのか。

「それでは、自己紹介も済んだところで……あ、食べてどうぞ。一応昨日の夜に許可は得てるけど、ちゃんと許可を得ようかな。えっと、僕はちょっと訳あって家がなくて、それで一緒に住ませて欲しいんだ。あ、それだけでいいんだよ。そして、僕はその代りに『家事』っていうのをやる。料理とか、掃除とか」

「えええええっと、その住むのはいいんだけど、かっ家事までしてもらうのは、その、申し訳ないというか……」

「でも、住ませてもらっておいて何もしないというのは――食べてどうぞ、覚めるので――良くないんじゃないかと思うんだ」

 恐る恐る『箸』を取り、食事を始めたので、一度黙る。しばらくすると、そっと僕の方を見た。

「えっと、どうしたの?」

「え?いやどうもしてないけど?」

「ええっと、き、急に何も、言わなくなったから」

 おかしいな。地球、特にこの『日本』という国では食事中に話すのは『行儀が悪い』と言うのではなかったか。そう言うと、彼女、飯塚千峰は少し首を傾けて言った。

「あ、え、その、それって食べてる人がであって、食べてない人は、別にそうではなかった、と思う……」

「そうなの?知らなかった」

 やはり、それぞれの文化と言うのは、難しい。

「むぅ、で、でもこんなにおいしいご飯作ってもらって家に住ませるだけっていうのは……せめてお金だけでも払った方が……」

「うーん、だって僕はお金も持ってなくて、それで家の一部を借りてるんだから。それに、食費は結局君のお金だ」

 本当は自分でお金を稼げるようになった方がいいのだろうけど……。

 そもそも僕は地球人みたいに毎日食事をしなければならないわけではない。だから、お金があっても正直持て余すことになりそうだ。

 まぁ今はその事はどうでもいい。

「それと、話は変わるけど、君の行っている会社はブラック企業なんでしょ?辞めようとは思わないの?」

「う、でも今更辞めても仕事が見つかるか、分からないし、そもそも辞めさせって貰えるか……」

 あぁ、ブラック企業は辞めづらいと書いてあったな。『ワクペディア』とかいう場所に。大変なんだなぁ。

「そうだなぁ……僕が仕事っていうものを見つけられたらいいんだけど……あ、でも住ませてもらってるとはいえ家は見つかったのか。じゃぁ仕事さがすか」

 それで彼女の生活が楽になるのなら万々歳だ。そもそもこの星で生きていくうえで必須のことではあったのだ。丁度いいタイミングだろう。

「ということで、明日から仕事を探そうと思うよ」

「そ、そう。見つかると、いいね。あ、ごちそうさまでした……」

 彼女の食べ終えた食器を『キッチン』に持って行き軽く洗う。

 彼女は、申し訳なさそうな様子だったがテーブルの前に座っていた。僕が座っていてと言ったのだ。

 とりあえず、今後の目標一つ目。仕事探し。

 やることがあるとなると一気にやる気が出てきた。 

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