20本目(ラス1) メリクリもキャンセルッ!だけど今夜はアタリクジ 【Ad.25🎄】

「うぅぅ、ワルプルさまぁ……」

「気を取り直そう、カデン。まおーさまはだからまおーさまなんだ」

「わかってても今日のはめげるわ。わたしたち、認識すらされてないんだもん……」

「しかたないよ。今日は準備もなにもしてなかったんだから。次はまおーさまに気に入られるように、冬休みのあいだにいろいろ考えよう?」

「うーん、がんばるわ、タマ。ところで、いいかげんここ暑くない?」

「ひとり用だからね」

「あぁぁ、帰ってシャワー浴びたい。パーティーの続きも」

「ボクも行っていい?」

「当然じゃない!」

「やった! 洗いっこしよっ?」

「シャワーのほうなの? まあ別にいいけど。とりあえず、ちょっとすかしましょう? ……あら。あかない?」

「え、うそ? ……あれ? ほんとだ。あれ?」

「ちょっとこれ、どうなってるの、タマ? なんであかないの?」

「わかんない。少し待って。ええと……」

「あいたっ! ちょっとタマ! せまいんだから気をつけてよ」

「せまいのはカデンが大きいからだよ」

「そんなことないわよっ。それならタマなんか、胸だけでわたしと体積差埋まりそうじゃない」

「ひどいっ。じゃあカデンは、ボクに胸で負けるのがイヤだからせないの?」

「負けたくないなんてひとことも言ってないじゃない! だいいち適性体重ですっ!」

「わわっ、待って、カデン!? 押さないでッ」

「きゃっ!? ちょっとタマッ、どこつかんでるの!?」

「あ、ぁあ、あぶなっ……」

「わ、ちょっ、足が――」




     ・🎄・




 着ぐるみに隠れて逃げようとしているあくかんを見つけた。


 視界が悪いようなのでこっそり近づき、継ぎ目に魔術を使って出られないようにした。


 わりとすぐ気づかれたがちょうど坂の上だったので、思いっきり蹴り飛ばしてやった。


 ふたり分のくぐもった悲鳴をあげながら紫色の球体がころがっていく。見えないぐらい遠くで派手な音がしたのにはさすがに少しヒヤリとしたが、とりあえず着ぐるみは粉砕したものとんで、その場でまた魔術を使った。

 ほどなくして、赤い布切れがヒラヒラと宙を泳いで流れてくる。それを捕まえてようやく、ぱなえは肺の底から息を吐き出すことができた。


「ここにいたのか、ぱなえ」


 その息がもう一度ひきつりそうになる。


 おそるおそるうしろを向くと、髪が赤いままの千枝がツノが生えたままのテルマをお姫様抱っこして立っていた。かたわらにはソーメもいる。あいかわらず前傾ぜんけい姿勢だが、パーカーのファスナーはあがっていた。


 ぱなえは気まずさで逡巡しゅんじゅんしたのち、手にした赤い布を力強く千枝に突き出した。千枝は手がふさがっていて受け取れないので、布はテルマの腹に落ちる。


「わ、腕章を取り返しておきましたわよっ」ぱなえは千枝を一瞥いちべつして、目が合う前にさっと顔をそむけた。「こ、これからはっ、簡単に人に預けたりしないように!」

「あ、ああ。手間をかけて、すまなかった」

「…………っ」


 ぱなえは仏頂面で腕組みをしていたが、体が小刻みに震えていた。それで黙りこくっているのを見て、キョトンとしていた千枝もさすがに不審げに「ぱなえ?」と呼びかける。手があいていたら、彼女は肩をたたきに来ただろう。気配だけで実際にそうされたように、ぱなえの小さな体がビクッと跳ねた。


「で……ではっ、わたくしはこれで。クジビキも無事終わりましたし、今夜はリア充百人を呪いで爆破する黒魔術の集会がありますの。そういうわけですのでごきげんよう」

「ああ。気をつけて帰れよ?」

「うぐ……」

「?」


 妙なうめき声を残して、ぱなえは千枝たちの前から離れていった。両手をにぎりしめたまま、足は驚くほどどんどん前へ進むのに、進むごとに気が重くなっていく。そして、顔の周りがれあがったように熱かった。


(なんですの、これは!? どういうことですの!? だまして気まずいのくらいどうってことありませんのにッ、どうして千枝さんの顔だけ、まともに見られませんの!?)


 名前を意識した途端、その顔が浮かんできてさらにどうが激しくなる。いっしょに思い出されてくるのは、さっきのように赤い髪をした彼女が、腰を抜かす醜態しゅうたいをさらしていたぱなえにかけた言葉。



 ――ぱなえ、だいじょうぶか?



(ありえません……ありえませんわっ、こんなこと!)


 喉が熱い。歩みが止まらない。今日はなにもかも負けた。涙だって出てくる。なのに全然悔しくない。




     ・🎄・




「なんじゃありゃ」

 ぱなえが去ったあと、ソーメが呆れた口ぶりでひとりごちた。


 テルマを降ろして『勇者モード』を解いた千枝が、勇者部の腕章わんしょうを手にして「《却下キャンセル》」と唱える。それでソーメの体からようやく力が抜けた。腕と腰を伸ばせば「あぃでででで」と声が出る。


流支ながしも、悪かった。ずいぶん待たせてしまって」

「オマエが謝るのおかしいけどな、と」


 そっけなく突き返しながら、ソーメはパーカーのフードからローファーを取り出す。ずっとストッキングだけでいたテルマの前に「おらよ」と置いてやると、テルマはうれしそうにいそいそと足を通した。


「あーっ、楽しかった!」

「そらよかったな。満足したか?」

「うむっ」

「満足って、まさか流支、オマエ……」


 数々の狼藉ろうぜきについてテルマに苦言もていさないソーメを見て、千枝は目を白黒させ始めた。その顔を見返し、ソーメは両手をパーカーのポケットに入れて肩をすくめる。


「まー、実際は想定外のが多かったけどな。クジビキほうり出してった時点でなーんか仕こんでるとは思ってたよ。クリスマスだし」

「クリスマス?」

「今日だけいねーんだよ、愛しのママが」

「あ……」


 千枝の表情が途端にくもる。そんな顔すると思ってたぜ、と言わんばかりに、ソーメは毒気の抜けた様子でほほをゆるめた。


「三百六十四日、テメェの生まれに祝福されてんのに、世界中の子供が祝福されるこの日にだけは一度も祝福されたことがねーってわけだ」

「そんなことないぞ?」


 なぜか両腕を振りあげながら、テルマが意気ようようと口をはさむ。


「ソーメたちがいるからなっ。楽しくてあっという間だ!」

「そのあっという間に世界滅ぼす気かよ? 付き合わされる身にもなれっての」


 ソーメは遠慮なく顔をしかめてみせる。一方、千枝は複雑な気持ちがしていた。


 テルマを責める気持ちは最初からあまりない。ただ、付き合いがそれほど長くないだけに、どういう気の使い方が正しいのかはつかみかねた。ソーメにもそう見えただろうか。


「まー気にしすぎんな。度が過ぎればクビ引っこ抜けって、そのママから言われてる」

「さ、サンタだよな……?」

「サンタの前にママなのさ、今日以外はな。カマチョが今日だけひどくなる。要はそれだけの話だ」

「よーし! 祝勝会だ! このままぱなえの黒魔術集会に乗りこむぞぉー!」

「場所を知ってるのか?」

「ぱなえもなぁー……まいーか」


 一瞬口をへの字に曲げたソーメは、ぱなえについても思うところがあるようだった。それが視界に入って千枝も内心で首をひねる。確かに今日のぱなえはずっと様子がおかしいようではあった。特にさっきの別れぎわ、目が妙に熱っぽかった。もしかしたら風邪を引いていたのかも……。


 とはいえ、ソーメが話さないことにしたらしいのと、テルマが楽しそうにしているのを見て、千枝もあまり追及しないことにした。

 ただ、ぱなえの具合が悪いのなら、今夜押しかけるのはよくないだろう。盛りあがっているテルマをどうさとしたものか、と千枝が悩んでいると、不意にどこかで着信音がした。


「あ」ソーメだった。ポケットからのそのそとスマホを取り出し、通知を見る。途端に顔をあげた。


「弟のクラス会が終わって帰ってきたってよ。ウチも帰るわ。じゃ」

「え、あ……」


 さっさと早足で歩きだすソーメ。テルマに理解させるすきも与えず、振り返りもしない。

 半端に手をあげたまま固まったテルマが震えはじめたのは、親友が通りの角に消えたあとだ。


 千枝もしばらく絶句していたが、視界の端で青黒いツノがプルプルしているのに気づいて、苦々しく肩を落とした。ソーメはすごい。もう笑うしかない。


「あ、あの、テルマ? うちはじいちゃんとばあちゃんだけだし、もうふたりとも寝てる時間なんだが……」

「うぅ、う……」

「わたしの部屋、離れだから、あんまり騒がないなら、来てもいいぞ? ケーキとか、特にないけど……」

「ほ、ほぉ、ぉぉぉっ……!?」


 涙声でうめいていたテルマが、謎のどよめきをあげて振り返った。フチなし眼鏡の奥でこはく色アンバーが、日射しの下かというほどキラキラしている。

 千枝は少しウッ、となった。早まったかな、と後悔しかける。


 が、まぁ喜んでいるのは悪いことではない。テルマも十分はしゃいだあとなので、今夜の残りはもう落ち着いているだろう。自分の前向きな想像をどうにか飲みくだしたところで、テルマの背後の地面に落ちているものを見つけた。


「あ。ちょうどいい。先生もいっしょにどうだ?」

「んぇ?」


 有頂天うちょうてんだったテルマの顔がそのまま固まる。油の切れてギコギコ音を立てるおもちゃのようなぎこちなさで振り向こうとしているうち、その足首を震える黒い手がつかんだ。


「き、き、きこちゃぁぁぁあぁぁ~……」

「あぁひぃぃぃぃぃっ!?」


 ナメクジのように地面をいずる諸区将しょくしょうホタテがそこにいた。ぜぇぜぇと息を切らし、色黒の肌でもわかるほど顔が青い。何時間も《王命》で人外じみた運動をさせられて全身が筋肉痛なのだろう。しかしテルマを見つければなんのその。つかんだ足も絶対放さず、こげ茶のストッキングをめまわすように這いのぼっていく。


「ハへェ、ハェへへ、ヤクソクどおり、キコちゃんとくりすますゥゥゥ……!」

「ンギェァーッ、助けてママーッ! 産まされるぅ! ママにされちゃうぅぅぅぅ!」

「家では静かにな、ふたりとも?」


 千枝はもう、いろいろ見なかったし聞こえないことにして、家路を急ぐことにした。コンビニでクリスマス限定からあげくらい買って帰ろうかと思ったが、クリスマス価格とやらが想像されたのでやっぱりやめた。





 クジビキ魔王部のクリスマス・ウォーズ! ~アタリが出たら魔王です~

 ――完



 Thank you for reading!! Merry Ch'ji'stmas!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クジビキ魔王部のクリスマス・ウォーズ! ~アタリが出たら魔王です~ ヨドミバチ @Yodom_8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ