最終話


「なんで置いていくんですかぁ~!」

「うるせぇ……」

「あらあら」


 世界の裏側の扉が内側からがちゃりと開いて、出てきたのはボロボロになった神とエマ。

 ヴェルトは泣いた。二人にすがり付いて泣いた。


「無事でよかったぁぁあ!うわぁあん!」


 ぼろぼろで、髪もボサボサで、服は破れているし所々怪我までしている。何があったのかと問う前に、扉の向こうを覗いたら世界の裏側の建物が半壊していた。

 

 えっこの惨状で擦り傷だけなの、この人たち強すぎない……?

 なんて思ったりもしたが、それはそれとして二人が怪我をしたことにはかわりないし、きっと無理も無茶もしたのだろう。あと連れていって貰えなくて悲しかった。


 だってヴェルトは、この二人が大好きだから。

 怠惰で口が悪いけれど実は面倒見がいい神と、にこにこおっとりでたまに厳しいおばあちゃんみたいなエマ。二人のどちらも、いなくなったら嫌なのだ。


「アンリ、こっちはどうだった」

「はい。地震が何度かあって、気づいたら異世界が遠退いておりました」

「ふん、まァそんなところだろうな」


 べぇべぇ泣き続けるヴェルトを無視した神は、アンリの答えに頷く。

 世界の裏側、神の領域で起こった出来事。表側と連動はするものの、影響は余程の事でないと起きない。

 異世界が完全に衝突したのなら表側でも大惨事だろうが、外側の天蓋がぶつかって壊されただけだったからその衝撃が少し伝わっただけで済んだ。天蓋は裏側にしかないからだ。

 

「ああ、百年前くらいの位置にまで戻ったわね」

「え、」

「毎日少しずつ近付いてきていると、変化なんて分からないものよね」


 エマの言葉が正しければ、向こう百年は大丈夫ということになる。百年後に問題を先延ばししたとも言うけれど。


「それより、お前らコレ片付けとけ」

「そうだ、何をしたらこんなぐちゃぐちゃになるんです?」

「壊れたらマズイ物、沢山あったでしょ。どうするんですか……」

「知らん。俺は寝る」


 半壊して見るも無惨な姿になってしまった世界の裏側。その後片付けを神官たちに押し付けて、神はさっさと踵を返す。


「そうしたら私は地図を……」

「お前はこっちだ」

「あらあら。嫌ぁよ、離して頂戴な」

「自分の状態を考えて物を言え」

 

 ”世界地図”を確認しに行こうとするエマの腕を神が掴む。抵抗むなしくずるずる引き摺られていくエマはとても不満そうな顔をして。

 でもあれは神の方が正しい。あんまりにもボロボロすぎる。


「あ、お二人とも怪我! 治療が先です!」


 は、と気づいたヴェルトが慌てて二人を追いかけていく。

 神が寝てしまう前に傷の手当てだけでもしなくては。神が寝てしまったらエマはこそっと抜け出して針と糸を取り出すだろうし。ああ、その前に二人とも土ぼこりまみれだからまずは風呂から。それから何か着るものを―――― 


「もう! 待ってくださいよぉ!」

 






■■■■■■■■■■■■■


これにて編み終わり。引き抜き編みして、糸始末。


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かぎ編みの魔女と神様 野々宮友祐 @i4tel8

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