第18話 作戦成功


 「皆ざん……ず、ずごいでずぅ……!」


 なんと緩坂は泣いていた。

 それもなんか、すごい尊敬の眼差しで。


 「わだじ、がんどうじまじだ……グスッ……そういうのっで、高校生になっだら普通でぎないです……。いづまでも純粋な心をもづごとは、ひっく、相当な覚悟が無いとでぎないど思いまず。だから皆さんがすごい……素敵だなぁ、っで……!」


 なるほど。つまり緩坂は、俺達のオタク心を賞賛してくれたようだ。

 緩坂が世間には中々存在しない、所謂いわゆる「わかってくれる奴」だった事に思わず安堵の溜息を吐く。

 ここで緩坂との距離が離れてしまえば、みんなと考えた「提案」はお蔵入りになってしまうからだ。


 「嬉しいねぇ、まさか『夢』に感動してくれる人がいるなんて。これまでこの話を聞いた人達はみんなバカにして、散々嘲笑ってくれやがったからねえ……」

 雷夢は自虐に話を持っていこうとするも、地雷を踏んでしまう。


 「うむ、あれは辛かった。特に親に否定されるのは、な……」

それによって一瞬、秋人の顔に影が差してしまった。


 「こっ、こらぁ! 愛弓ちゃんの前でそんな重い話しないの! 折角感動までしてくれたっていうのに、ウチらがヘコたれてどうすんのさ!」


 ええ……。そっちに話持って行く?


 「……こういう苦しいところもあるけど、普段はここに居る五人ともう一人で週に二、三回集合して会議をしたり、作業をしたりしてゲームを創っているんだ。このゲームは『最高のゲーム』にするつもりだから大会に出すみたいな事は考えていなかったけど、最高だと認められるにはやはり世間の評価が必要かと思って、今日はその議論をするつもりだったんだ」


 もう話が進まなさそうなので、俺が強引に先導して話していく。

 でもその焦りが、予期せぬ事態を引き起こしてしまう事を、俺は想定できていなかった。


 「そっか。じゃあ私が全部邪魔しちゃいましたね……。多分私が思い描いていた事は本当に予定されていた事じゃなかったって、こうやって皆さんが集まっているのを見ると分かるから」

 そう言って緩坂は何処か哀しそうな顔をして、下を向いた。


 シクった。そう後悔しても、遅かった。


 緩坂は俺の方を向くと、哀しげな顔を仕舞って笑顔に戻った。

 まるで色んな表情のお面を隠し持っているかのように。


 「だから今日は……有難うございました。風露くんのお友達と会えて、私すごく楽しかったです。……家は近いので、それじゃ」


 腰を上げようとする緩坂を俺は引き留めた。

 「待ってくれ、緩坂。ここじゃ誰もお前を邪魔なんかに思っていない」


 (……お前の考えている事なんて、全部俺にはお見通しだってのに……)

 俺の本心も、心に引き留めて。


 「……でも、私はいつも風露くんの事になると、みんなの迷惑になるような事しかしないでしょ〜? 私がここに居るからいけないんだよ、絶対☆」

 返答に躊躇した緩坂は、の笑顔を俺に見せる。


 無理をしている。そう一瞬で判る程の。

 (幼馴染を舐めないでくれ……)


 胸が苦しくなる。息が辛い。

 それでも俺は緩坂を救いたくて、愚かに叫ぶ。


 「違う。お前はここに居て良いんだよっ! お前の居場所は、何処にだって絶対にあるはずだ!」


 (それに、お前の笑い方はそんなんじゃなかっただろ……!)


 「うむ、そうだな。同じ対等な人間なのに、居場所が有る、無いなんて区別が有る方がおかしい。それに、今君にはむしろ居てくれて感謝している」


 「……え? 秋人……さん……? それは……?」

 秋人が緩坂に追い討ちをかけ、更に引き止める理由まで言い含める。緩坂も秋人が参加してくるとは思っていなかったようだ。

 フォローがナイスすぎるぜ! 行動もイケメンだ。


 「愛弓ちゃんには臨時で手伝って貰いたいのさっ! 最高のゲーム創りを、ね!」

 香久夜も同様に、動揺などしていない様なけろっとした顔で、サラッと重要な事を伝える。緩坂を混乱させるには良い手段だ。


 「それは……どういう事ですか……?」

 緩坂が虚ろに尋ねると同時に、二人は俺の方に目配せをした。

 何なら香久夜はグッドサインを出している。おいおいバレるぞ注意しろ。


 二人の最後の締め役に俺を置くという抜群な配慮。

 やはりなんだかんだ言ってこのチームは相性抜群なのかもしれない(二人離脱してるけど)。


 唯は仕方ないけど、せめて雷夢はなんかやれよ。何寝たふりしてんのバレバレだよ!?


 ……まぁだからこそ、緩坂には居場所を創ってやりたいんだ。

 寛容な仲間達が居る、この場所に。


 だから。

 「だから、お前に助けて欲しいんだよ。ゲームの制作を」


 この作戦は、失敗させたくない。


 その思いが神に届いたのかどうか分からないけど。

 神なんて居ないかもしれないけど。


 「えっ……ええええぇぇぇぇええええ!!??」

 まだ賑やかな住宅街の夜に、緩坂の断末魔が響いた。


 近所迷惑かもしれないけど、俺はどう言われたって喜んで謝るだろう。


 緩坂を救う事ができたのだから。


 ありがとう、二人とも。

 


 作戦成功だ。

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楽観主義者の下剋上 さとり。 @gyagyagya

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