第17話 夢


 「ちゅうも〜く!」

 パンパン!


 雷夢が、皆が集まった事を確認して柏手かしわでを打つ。


 雷夢はちゃんと二人分の椅子も追加で用意し、秋人と唯を既に座らせていた。

 ほんとこういうところだけ優秀なんだから……。

 

 「これから秋人、唯くん、香久夜くんの三人と、緩坂くんの初交流会、名付けて『たこたこ対抗! たこ焼きパーティー』! 拍手!!」


 「い、いえ〜い……ってはひ!? 誰もやってない……す、すみません……」


 「ほらほら、誰もノらないからせっかく唯が勇気を出して盛り上げようとしてくれたってのに、すっかり縮こまっちゃったじゃないか。もっと楽しく行こうよ楽しく!」


 「そうは言ったって、何が対抗だよ。どうせ語呂合わせたかっただけだろ? 誰がノるかよ、なあ秋人?」


 「……それは地味に唯をディスっていないか? ……まあ今はそんな気分にもなれないしな、眞秀葉の言う事も一理はある」


 「ひえええぇぇぇ……ごめんなさい……」


 「あの……さっきから話されている事が全く読めないんですけど……。それに、雷夢くんは同級生だから分かるけど、風露くんの家に集まるなんて皆さん風露くんとは一体どういうご関係なんですか?」


 会話から一人取り残されていた緩坂が恐る恐る挙手した。

 この状況から疑問が出るのも無理はないだろう。前々から想定していたし。


 「そうか、緩坂にも説明しておかなきゃな。この話だけじゃなく、何故他人同士の俺達が集まり、一体何をしているのかを。まぁまずは自己紹介からだな」

 俺がまず左隣の香久夜が話すように促す。


 「う〜ん、別に改まる事無いと思うんだけど、まあいいや。ウチは月見山やまなし 香久夜かぐや。京都在住の高校三年生さ! 年上だけど、風露みたいに気安く呼んでくれても良いよ! あと、趣味は誰かを『着せ替え《ドレスアップ》する』こと! ウチは見る専だからさ、自分では着ないんだ〜。ほい次!」


 「む、次は僕か。僕は東山ひがしやま 秋人あきと。同じく京都在住の高三だ。よろしく頼む。趣味は歴史探訪。あと、3Dプリンタで何か作るのも好きだな。次は唯だが……唯、行けるか?」


 「も、もう私の番ですか……? わ、私は、一番星いちばんぼし ゆいと申します……。……そっ、そのっ、しゅ、趣味は、あの……えと……秘密ですっ! よ、宜しくお願いします……きゅううう……」


 自己紹介を終えた途端、膝から崩れ落ちて行く幼い体を秋人が受け止める。

 少女漫画で出てきそうなすごい絵面だ。


 「ん、倒れてしまったか。しかし、唯にしては頑張った方じゃないか」


 「そうだね、いつもは初見の人とは話さないからさ〜」


 皆優しい目で、気絶したように眠っている唯を見つめる。唯はこのチームでは一番の癒しキャラだからな……なんて言ったら右隣に座る緩坂が黙っちゃいない。何しろ浮気したら「殺す」って言われたのも当然だからな。彼女の中での「浮気」がどの基準か見当もつかないし。


 「じゃ、最後は私ですね! 私は緩坂 愛弓って言います! 風露くんのですっ! 宜しくお願いします!」


 やけに簡潔だな。それに相まって変なところを強調していて、かなり威圧的になっている。いや、そっちの方が目的なのか……?


 「ほう、噂には聞いていたが、風露に彼女が出来たというのは本当だったのか。あの風露が……そうか……」

 しかし緩坂の努力も虚しく、俺の周りにいる奴等は心が強え奴等過ぎて、攻撃は空振りしてしまった。それどころか……。


 「何感慨深く頷いているんだい秋人! 僕は風露きゅんと緩坂くんが付き合うなんて認めないぞ!」


 俺への煽り性能がますます高くなって来ている気がする。

 秋人はきっと悪気は無いんだろうが、雷夢に関してはウザいだけだ。

 そろそろこの流れを止めなければ……!


 「謎の頑固親父ポジション止めろ。……それと秋人、その件については取り敢えずそう思っておいてくれ。今話すのは面倒だ。事情は後で何だって話す」

 俺は緩坂に聴こえないよう、秋人に耳打ちで返事をした。


 「お、おお……そうか。少しからかってやろうというほんの出来心だったが、軽率な事をしてしまった。すまない」

 「良いんだよ別に。秋人が悪いわけじゃ無いし」


 雷夢はそんな俺と秋人の様子を横目で見て、危機感を感じたらしい。


 「よ、よーし、これで皆終わったね。それじゃ、他人の僕達が何故出会う事になったのか緩坂くんに教えて進ぜようじゃあないか!」

 いつの間にか雷夢がこの場を仕切り始めた。というか話題をすり替えやがった。でも正直都合が良いので、このノリに俺も乗っかる事にする。


 「そうだな。……俺達は年齢だって、出身地だって、趣味だって。みんな何もかもがバラバラで、本来会う事はなかっただろう存在達だ。あと一人なんてすごい遠いところに居るし。でも俺達は、こうして繋がりあうことができた。それはほんの一つの『夢』だけで出来てしまった事だし、たった一つの『夢』にしかできない事だったんだ」


 「『夢』……って?」


 「自分にとって最高のゲームを創ること。それがウチらの夢さ」

 そう言って香久夜が、無垢な顔で笑って見せる。


 「まるで小学生の夢みたいに簡潔で具体性を感じない、現実味のカケラも無い話だ。でも僕達は、この夢に恥じらいを持っちゃいない。むしろいつか叶えてみせる、そう本気で思っている」

 「夢」など語らなさそうな理系顔の秋人も頬を赤らませ、興奮するかたわら、自慢げに緩坂に話している。


 「僕らが創った最高のゲームはきっと、人々を楽しくさせられる。感動させる事ができる。それがどれだけ素晴らしい事か分かるかい、緩坂くんッ!」

 雷夢はいつも通り……いや、いつもより少しだけテンションが上がっている様子で、身振り手振りを加えながら語っている。


 俺はそんな三人を見て、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。


 (本当にコイツらは、「ゲーム」が大好きなんだな……)

 改めてそう感じる事ができて、俺は少し涙ぐんでしまう。

 それに「夢」は叶えられるものだ、って、みんなが信じていてくれたから。


 しかし、感情全開の俺達を見て緩坂はというと……。


 「そ、そうなんですか……」

 と、少し引いているように見えた。これは少しオタクをぶつけ過ぎてしまっただろうか。好きな事への熱は時に、他の人を逆に冷ましてしまう事があるから。


 「あー……。こういう感情を無理やり押し付けるのも良くなかったよね、えーっとその、うん、ごめん……」


 みんなにある程度感情を制限させるように言っておくべきだったと後悔しながら場の空気を保つため、俺は緩坂に何か声をかけなければならないと焦りまくっていた。


 でもそれは俺にとって、まったくの杞憂だったんだ。

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