恋愛には興味のなかった勇者様の恋愛相談

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私はしがない花屋の店員だ。

 けれど、ある日勇者様と知り合ってしまった。

 勇者様は元は平民だったらしい。


 だから、休める日は普通の人に交じってすごしているのだとか。


 そのためある日、おしのびで屋台巡りをしている勇者様と出会って意気投合。


 好みが似ているという事で、串焼きと焼きリンゴの魅力について熱く語り合った。


「炭火で焼くとやっぱり肉の味が違うんだよな」

「分かります。味に奥行きができていいですよね」

「あの屋台の主人、リンゴというありふれた食材を焼いてあんなに美味しくできるなんてびっくりしたよ」

「リンゴの神様だって言っても不思議ではありませんよね」


 色気のない出会いだったが、私は勇者に惹かれている。

 顔がかっこいいというのもあるけど、優しいし、気遣いができる。


 私みたいな人にも、偉ぶらずに気安く接してくれる。


 惚れない要素はどこにもなかった。


 けれど、しがない花屋の娘などつりあわないだろう。


 彼には、彼に見合った人と一緒になって、幸せになってほしいと思っていた。


 まあ、そこまでいけるのかという問題があるけれど。


 勇者様が活動している事実が示す通り。

 いま、この世界は魔王の復活でかなり大変だし。


 それに、勇者様は今の所恋愛には興味なし。


「このあいだ近くの平原で魔物があらわれたんだ」


「この前は洞窟で竜を倒したよ」


「ゴーレムは生き物と違って痛覚がないから倒しにくいんだ」


 敵をいかに効率的に倒すかという事にしか興味がなさそうだったから。







 なのに……。


 そんな勇者様に好きな人ができたらしい。


 私は仰天した。


 彼の恋のお相手は王女様だという。


 一目ぼれだとか。


 その相手は、私達が住む国の王女だ。


 彼に見合った立場だし、王女は聡明で優しいと聞く、とてもお見合いだった。


 だから私は、勇者様の恋を実らせるべく助言を行う事にした。


 王女様と話す時、緊張して離せないんだという勇者様には、リラックスできる花をおすすめした。


「この香りのお花を身につけていけば、緊張をほぐす事ができるかもしれません」

「本当かい? ありがとう。さっそくためしてみるよ」


 また、年頃の女性との話題に困っていると言った時は、花の知識やかわいい小物の知識を教えてあげた。


「王女様と私は年が近いので、幸いです。この年頃の女性達が興味がある事といえばーー」

「なるほと、参考になった。いつもすまないね」


 後は、突発的な政治的陰謀で王女が魔物に襲われ、怖い思いをした時などは、無理に励まそうとせずただ寄り添ってあげればいいのだと伝えた。


「これまでの話を聞くに、気の置ける友人以上の好感度はあると思うので、無理な事をするより、ただ傍にいて気持ちを肯定してさしあげればいいと思います」

「そうなのか。すごく助かるよ」


 敵を倒す事しか考えられなかった勇者様が、恋に悩むようになるとは。


 人は変わるものだなと思った。








 そんな努力が実ったのか。


 勇者様と王女様の婚約が決まったらしい。


 近々発表されて、大規模なパーティーが開かれるのだとか。


「今までありがとう。君のおかげで王女様に近づく事が出来たよ」

「いいえ、大切な友人の相談ですから。力になるのは当然のことです」


 笑って報告してくれる勇者様の笑顔はとても素敵な表情だった。


 今さら想いをうちあけて、この顔を台無しにするなんてできない。


 私は失恋した事実を、心の中だけでひっそり受け入れる事にした。






 一か月後。


 きらびやかな衣装をまとって、国民達に婚約を発表する勇者様と王女様がいた。


 二人はとても幸せそうだった。


 お似合いだ。


 あの二人が分かれるなんてあり合えないだろう。


 花屋の娘と勇者など、元から釣り合わない恋だった。


 そう納得してこれまでやってきたけれど、思いが涙になってあふれてしまう。


 その二人を遠くから眺めた私は、自分の初恋が終わった事を悟ったのだった。


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