第11話 剣と魔法と
ああでもないこうでもない。袋小路のような考えに出口はない。
現在保護者代わりにされているティスタとコラルに魔法のコツを聞いたところで変わらなかった、という結果はすでにあるものの。相談自体になんら問題はないはずだ。
それでも、彼は基本ひとりで考えひとりで悩む。いまだに相手が自分より歳下であることに遠慮しているのか、はたまたそういうタチの人間なのか。やけに達観している子供たちに声をかけることなく、頭の中をぐるぐる回す。
「おい、未明」
「ハァイ!?」
突然の呼び掛けに、未明の声が裏返った。年長コンビが思わず噴き出す。
振り返れば、件のシスターが立っている。呆れたようにも見える「何をそんなに驚いているのか」と語る視線。それが気恥ずかしいのか、それとも裏返った声が恥ずかしいのか。彼は顔に熱を集めて空笑いをする。
そして改めて陽に目をやると、その手には真っ黒な袋を持っていた。
「やる」
「うぇっちょまっ」
乱雑に投げられたそれを慌ててキャッチする。それは、さっきまでカミナが持っていた謎の袋だった。ずっしりとした重さを感じる。
投げ渡された意図が読めず、未明は目を白黒させる。受け取った袋と陽を交互に見、困ったように眉を下げた。
「やるって言ったろ。開けろ」
「お、おう」
なんだなんだと集まる子供たちの真ん中で、未明は恐る恐る袋を開いた。真っ黒な袋の真ん中に、白い何かが2つ入っている。ハッキリとは見えないそれを掴み、そっと日の下に出した。
作りのいい箱だ。修飾などはないが、手触りが良く高いものであることがわかる。何が入っているのかわからない。なんとも言い難い気持ちのまま、ゆっくりと箱を開いた。
「……拳、銃?」
「マガジンは入れてねぇからな、使う時入れろ」
さらに差し出された弾倉の数々、ついでに弾丸。しかも拳銃はひとつではなかった。未明が手にしているのが自動拳銃、もうひとつリボルバーもある。両方とも太陽の光を反射し、キラキラと輝いていた。
「なんで??」
「お前の魔法媒体だよ」
「まほうばいたい」
「杖とか剣とかじゃないやつ初めて見た!」
「でも銃って攻撃するの時間かかるんじゃなかったー?」
あーだこーだと話す子供たちの会話を聞くに、要するに『魔法を使う命令を出すアンテナ』にあたるもののことを指すらしい。魔法使いが持つ杖のことだ。
「お前の魔法には違和感があった」
「え、なんかおかしかったの? ……いや米粒だしな、」
「そこじゃねーよ。出したのは確かに米粒だったが、その米粒には魔力がとんでもなく詰まっていた。ま、少なくとも魔力が少ないってわけじゃないってこった。で、試しに割ってみたら」
机がマリモになった。
机がマリモになった???
理解が追いつかず、言われた言葉をそのまま復唱する。『米粒を割ったら机がマリモになった』。うんよく分からない、というか分かってたまるか。
陽曰く、割ったのは米粒サイズの木屑。木の魔法で生み出したものだった。故に、割った時に内側から魔法が溢れ、近場にあった木製の机を侵食したのではないのだろうか。
……やはり、その理論で机がマリモになるのはよく分からない。しかし、『普通』ではないことはわかる。あとマリモはダサい。真面目な顔でマリモに語る姿はダサい。ギャグ漫画くらいでしか見ないぞ、真剣にマリモについて語るヒロインなんて。
「まぁ要するに、お前の魔力は質も量も悪くない。むしろ良い方だ」
「ほう」
「魔力を出すホースにゴミが詰まってんのか、はたまた小さすぎるのか。まぁそんなところだろう。今使ってるホースが使えないなら、新しいホースを付けてやればいい。ということで、これだ」
つまるところ、俺から直に魔力を出すのではなく、何かを通して魔力を出せばよいのではないか? と考えたらしい。でもなんで拳銃? 趣味?
俺にはよく分からないのだが、カミナが言うとなんだか信憑性がある。全体的に俺より詳しいし。試してみて損は無いし、そもそも貰ったからには使わねばもったいない。
ずっしりとした重みのあるソレの存在を確かめるように握りしめた。
……銃とかいう恐るべき武器を前に、『攻撃するのに時間がかかる』という子供たちは評価した。そう、マスケット銃や火縄銃のような単発式の銃しか、この世界には存在しないのである。無論、拳銃などあるはずもない。魔法という遠距離武器が主流のこの世界では、どうにも銃の開発が遅れている。見たことも無い小型の銃に子供たちは興味津々だった。
各々で好きなことをしていた彼らは、未明の持つ『新しいもの』に引き寄せらせる。なんだなんだと楽しそうな子供らの中心で、未明は陽から説明を受ける。
あまり攻撃力が無くて威力がわかりやすいもの、ということで抜擢された水魔法……の弾丸。趣味で鍛治仕事をするカミナの手によって、精巧な魔法陣が刻まれているソレ。リボルバー式は消費型ではなく、魔法陣が擦り切れるようなことでもない限り繰り返し使えるらしい。対して、自動拳銃式の方は一撃一撃が大きい使い捨てになっているそうだ。弾が無くなったら追加するが、そちらはあくまで『奥の手』にしろ。とも言われた。
使い方は簡単だった。弾を入れ、魔力を込めて、引き金を引く。銃の方に魔法の式を入れることにより、魔法使いのような詠唱を挟まずとも魔法が撃てるとのこと。
使い分けできるのも無詠唱魔法もかっこいいしありがたいが、なんでこんなに技術力が高いんだこのシスター。なんでシスターやってんだ本当に。
そうして未明は深く考えることもなく、用意された的に向けて躊躇なく銃口を向け────彼は宇宙を背負うことになる。
「私の居ないところでは魔法を使わない、ハイ復唱」
「カミナの居ないところでは魔法を使わない」
「魔力の調整ができるようになるまで弾は込めない、ハイ復唱」
「魔力の調整ができるようになるまで弾は込めない」
俺はカミナの前で正座していた。そしてひたすら復唱していた。
ぶっちゃけ俺は悪くないと思う。だって試せって言ったのカミナよ? 俺実行しただけよ? 俺無実じゃね? 魔力の操作とか出来なくて当然じゃん! だって俺トーシロよ!? 出来たら天才だよそんなの!
先ほどの光景を未明は思い出す。
引き金を引く、そんな単純な動作から生まれた魔法は、まさに『鉄砲水』と呼ぶべき圧倒的質量を持って現れた。的のような小さなものはもちろん。奥にある森も、その場にいた子供たちも飲み込みかねない恐ろしいものだった。
魔法は陽の監視下で、彼女の指示で放ったのだ。そのことで叱られるのは不満や理不尽とも思えたが、同時に心配される理由も彼は理解していた。だからこそ、従う理由はあれど従わない理由はない。
夥しい量の水が出た瞬間、カミナが土魔法で相殺してくれた大惨事にならなかった。けれど、もしカミナが魔法を使わなかったら? 魔法を魔法で相殺できなかったら? ……土砂災害や地盤沈下が起きていたかもしれない。自然災害を起こすのは、嫌だ。仮にも日本人として、災害の恐ろしさは身に染みている。
引き起こす側にだなんて、絶対になりたくない。気をつけよう。
とは言うものの、内心「一応戦えるようになった!」と喜んでいる未明である。やはり魔法への憧れは捨てられなかった。なんだかんだ言って、嬉しいものは嬉しいのだ。
だから、彼は気づかない。
その手に握るものが紛れもない『科学世界』の技術に基づいた代物であり、例の授業の中で陽が語ったことが事実ならば──彼女が無事でいられる道理は、どこにもないことに。
来世に期待で、また『アイ』ましょう! 〜俺はチートじゃないが、拾ってくれたシスターが最強だった〜 綱辺暁 @tunabe_akira
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