巻きの結果・緊急出演

 えー、山田君。初めてだからしょうがないんだけどさ。


「巻きすぎよ、あのバカ」


「三十五分巻きはきついねぇ……」


 巻きに巻いた挙句、最終アトラクションに差し掛かろうかというところで現在時刻は二十時二十五分前後。なんと驚愕の三十五分巻き。尾根さんと顔を突き合わせて頭を抱える状態に。


「第四アトラクションの挑戦後トークで引き延ばしてるけど、それでも稼げる時間は雀の涙よ。今のうちに手をうっとかないとアンタがエアホッケーに出たらもう舵取りできるのがいなくなるわ」


 そう、よりにもよって最終アトラクションは俺が出演するエアホッケーなのがマズい。責任者が臨機応変に対応できなくなるので現場が動けなくなってしまう。


「……尾根さん、二期生の子たちの3Dってもう上がってるよね」


「あるわよ。……アンタまさか」


「うん、二期生三人には悪いけどエアホッケーのピンチヒッターを頼もうか。俺が出たらエアホッケーで稼げるはずの時間が極端に減っちゃうから」


「確かに手加減しないアンタよりも、空気を読んでいい勝負ができる二期生たちの方がマシかしら……。

 わかったわ、マーカーとか準備しとくから二期生に出演依頼してきなさい!」


 了解と言ってブースから飛び出す。俺は少し離れたエアホッケーのセットのところに二期生と三期生の六人が固まっていたのでそちらに駆け寄る。


「久保山君、嵐野君、塩田さん、ちょっとお願いがあるんだけどいいかい?」


「なんでしょうか」


 二期生候補の三人でまとめ役をやってくれている久保山君が目を輝かせながら答えてくれた。業界が長いから今がどんな状況かを理解しているのだろう。


「三人を俺の代わりにエアホッケーの対戦者として先出ししたいんだ。3Dモデルも用意できているし、設定も事前に配っているレジュメから変更はない。

 あと、運営依頼なのでお金が出ます。どう? 出演してくれない?」


『もちろんです!』


 あれ? ウキウキで了承してくれたぞ? 土壇場だから嫌がられるかと思ったのに。

 思ったことを久保山君たちに言ってみると。


「鈴鹿さん、俺たちVtuberって本質的に目立ちたがり屋ですから」


 そりゃそうか。普通に納得してしまったわ。


「とりあえず、三人はマーカーとかの設置と体操を空きの第一アトラクションのところでやっておいて。

 エアホッケーは勝っても負けても十五分前後にしてくれればいいから」


 そうすれば二十分巻きでボーナスアトラクションに行ける。告知を含めると番組時間が丁度二時間ぐらいになるのではなかろうか。


『それでは最終アトラクションに向かいましょう!』


 お、いよいよ最終アトラクションのエアホッケーに来るな。第一アトラクションのほうを見ると、久保山君たち三人が俺にサムズアップを送ってくれた。尾根さんが急ピッチで調節してくれたみたいだ。マジでありがてぇ。


『最終アトラクションはツーワン・エアホッケー! 二対一の変則エアホッケーでチャンピオンと戦ってもらい、先にチャレンジャーがマッチポイントを獲得すると見事にポイントをゲットです!

 それではチャンピオンに登場していただきましょう! カモン! チャンピォオオオオオン!』


 3Dで投影されたゲートがアニメーションし、強烈な水蒸気と共に三人が飛び出す。

 話を全く聞かされていなかったグリに真珠姫、山田君はポカンと口を開いて状況を理解できていない。 


『チェリブロ四天王が一! 緋原ベル!』


『チェリブロ四天王が二! 青海フランドル!』


『三波春夫でございます』


『三人合わせて! チェリブロ四天王』


 画面に映し出されたのは緋色のダッフルコートを纏ったスラッとした身長の赤髪の青年、緋原ベル。青の鉢巻をつけた黒髪の巨漢、青海フランドル。そして、三波春夫。ではなく、紅一点で金髪灼眼タンクトップの璃々・イエローローズだ。

 三人は別々だと真面目なのだが、揃ってしまうとボケ始めてしまう謎の習性をもっている。いい意味でも悪い意味でも波長が合うんだろうな。


『ちょ、ちょっと! 社長が出てくるんじゃなかったんですか!?』


『残念だったな山田! お前の進行で巻いてるから俺たちが先んじて時間を稼ぎに来たのだ! 打ち上げで反省会だぞ山田ァ!』


『そーだそーだ!』


『打ち上げの山芋鉄板は譲らねーからな!』


 凄い。久保山君、いやベルの仕切りとフランドルと璃々のガヤ適性が高すぎる。

 配信コメントも単芝が生い茂っており、かなりウケがいいようだ。


『えー、それでは改めてご紹介します。チェリブロ四天王の三人、未デビューなのに先に出演してしまった緋原ベルさん、青海フランドルさん、璃々・イエローローズさんです。

 何もカンペがないんですが、お三方がエアホッケーの相手を?』


『そうだ! 俺、フランドル、璃々の三人がエアホッケーで一人ずつ戦いを担当し、既定の点数、今回だと三点ずつ俺たちが取られるたびに次の奴に交代。九点取られた時点でチャンピオンの登場だ!

 どうだ、ルールが把握できたか! リハでチャンプにクソカス負けたお二人さん!』


『ア?』


 うわ、ベルに真珠姫めっちゃガン飛ばしてる。清楚なふりしてやっぱ柄悪いってあの子。

 

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異伝・鈴鹿静時オーナー伝 れれれの @rerereno0706

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