本番中
「始まりました、桜花スターダム・ニュースター! 司会の桜花スターダム広報担当の山田です!
この番組は桜花スターダムに新たに所属するニューフェイスを知っていただくため、彼女たちに五つのアトラクションに挑んでもらうバラエティ番組です。では今夜挑んでもらう期待の新人、グリゼルダ・レジェンドさんから自己紹介をお願いします!」
「皆の者、初めまして。私の名はグリゼルダ・レジェンド、ホース族の筆頭騎士にして真珠姫の側近だ。姫に乞われて桜花スターダムに所属することとなった、不慣れなところもあるがよろしく頼む」
画面を通してミョコミョコと3Dの身体の頭頂部にある馬耳が動く。グリゼルダは馬の種族であるホース族という個性を持って制作されている。Vtuberにはこのように癖のあるキャラ造詣が多い。
「みなさ~ん、初めまして。真珠姫でーす。グリちゃんと一緒に遊ぶために桜花スターダムにやってきました~。よろしくおねがいしま~す」
ゆるい。キャラ付けで緩めにって頼んだけど普段の態度から見て数倍緩い。
俺はPAブースの横で待機しているが、配信画面のコメントを見ると両者ともにウケはいいみたいだ。あぁ、管理者コメントで個人チャンネルに誘導しとかないと。
「どんな感じです?」
「差し当たり好調だね」
ブース横のノートパソコンで配信コメントを確認していると、二期生としてデビュー予定の久保山君がネットの反応を俺に聞いてきた。
多少のやっかみはあるものの、Vtuberファンにとって急に出てきた大型事務所が業界の新しい風になると考えているリスナーが多いように感じる。
「大型事務所はファン層が固着して新規お断りみたいな雰囲気がありますからね。ガチ恋勢の厄介なんて面が良かったらメッチャ湧きますし」
「そういえば久保山君は前世持ちだったね」
ここでいう前世とは、Vtuberとしての活動をする前にインターネットなどで活動していた履歴のことである。
多くのV事務所、桜花スターダムもそうだがVtuberは事務所の持つキャラクターとしての側面が強い。中の人、これを魂と呼ぶ人が多いが、その匂いを消すためにキャラクターを演じる際に本人の情報を出すことなんてほとんどない。故にV活動以前の活動履歴を消去したりするのだ。
久保山君はWetubeで登録者数五万人越えの中堅Vtuberだったが、ガチ恋勢に粘着されて裁判沙汰になりアカウントを消去した過去を持つ。だから個人ではなく企業勢として再出発をしたいとオーディションに応募してくれたのだ。
もう粘着されるのはこりごりですんで、とオーディションの際に顧問弁護士の有無を聞かれたのは驚いたが。
「二期生は三か月後のお盆あたりでデビュー予定だけど、久保山君は心配なこととかない?」
「……そうですね。やっぱりいきなり3Dで動き回るのは不安な点があります。基本的に2Dのフェイストラッキングだけでゲーム配信していたんで」
「うんうん、それじゃあ時間を見つけて未デビュー組で練習しようか。スタジオが空いているときにでもさ」
俺の言葉にありがとうございますと言って、久保山君は少し離れたところでグリと真珠姫を応援している同期組の中に戻っていった。
久保山君と話していると既に進行は第三アトラクションまで進んでいる。
……おかしくないか? PAブースの上に設置されているデジタル時計を見ると二十分近く巻きになっている!
山田君、緊張してペース配分ミスってるなこりゃ。PAブースに入って尾根さんと打ち合わせる。
「巻いてるよね」
「かなりね。別に支障はないけど、後輩たちのことを考えると二時間きっかりで終わらせたいわ。どうにか調節できる?」
「じゃあボーナスアトラクションが終わったら、告知しようか。告知のためにちょっと巻いてたって次回思わせるために」
「こっちは願ってもないけど、告知するようなものあった? グッズだってまだまだでしょ?」
「まぁ、任せといてくださいな」
適当にスタジオ代割り引くよとかいっときゃええやろ。
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