プレゼント:ゲーム制作機能

 リハが終わり、事務所で休憩をしていると妻橋さんから電話がかかってきた。


「もしもし。鈴鹿です」


『妻橋です、候補生と合流しましたので今から事務所に向かいます』


「あいあい、運転気をつけてね」


 妻橋さんの承知しましたの声で通話が切られる。妻橋さんには候補生、つまり桜花スターダムの二期生と三期生になるタレントを港に迎えに行ってもらっている。お披露目に出演することはないが後学のためだな。

 ゴールデンウィークということもあり、現段階で社会人の人も含めて全員が参加できたことはありがたい。強制はしてないけど自分の番が来たときに参考になることも多いだろうからね。


 妻橋さんからの電話を受けた後、喉が渇いたので事務所に備え付けてある冷蔵庫を漁って飲み物を探す。

 麦茶、水出しコーヒー、エナジードリンク、エトセトラエトセトラ。事務所の冷蔵庫は、食品こそプリンぐらいだが飲み物だけは豊富にあるのだ。俺は麦茶を選んで紙コップに注ぐ。それを自席に運び、椅子に腰を深く下ろして一息つく。

 妻橋さんは送迎、山田君と尾根さんは機材の最終確認、大塚さんは打ち上げの手配で桜花島唯一の旅館に出向いている。

 ……あぁ、柴田さんはエアホッケーでグリと真珠姫にボコボコにされているだろうな。グリはともかく真珠のほうは燃え上っていたし。


 まぁ、社員が一生懸命に働いているところで休めるのが社長ってことで。自分に言い訳しながら麦茶を啜りつつスマホのスリープを解除すると、ホーム画面にある謎アプリのアイコンに更新があるときに表示されるポップが現れていた。実に嫌な予感がする。

 眉をしかめながらアイコンをタッチすると、ネットサーフィンをしているときに出てくると死ぬほどイラつくタイプのオーバーレイヤー形式のお知らせが表示された。


「プレゼント……」


 白地に明朝体で記載されているお知らせにはプレゼントを送ったと書かれている。何やらミッションを五つクリアした得点だとのこと。

 埋もれている才能を発掘しよう、職員と会話しよう、オーディションを開催しよう、早起きをする、リハーサルを終わらせる、確かにミッションを五つクリアしているな。

 それにしても、マイク・パソコン・スマホ・オーディオインターフェース・防音室組み立てセット、現時点でかなりのものを貰っているがそのうえで何かをくれるというのかこのアプリは。気前が良すぎて不気味だ。

 いや、そもそも初手で百億渡してくる時点で怖いわ。気にしないようにしよう。


 閑話休題、アプリのくれたプレゼントとやらを確認する。やけに消しにくいお知らせのバツボタンを押してアプリのホーム画面を映す。

 うむ、一番最初に開いた時と変わらず、左上に終了用のバツボタンと右上にヘルプが何も載っていないクエスチョンマークアイコンのヘルプボタン、中央に暗転しているタップをしても反応しない機材購入とグッズ発注の長方形ボタンがある。こいつらは今日のデビューが終われば使えるようになるのだろうか?

 そんなことを考えていると下のほうにスクロールできるようになっていることに気づいた。このまえ起動したときは出来なかったはず、これがプレゼントだろうか? そもそもプレゼントの内容書いとけって話だが。

 心の中でブチブチと文句を言いつつスクロールをすると、新たにゲーム制作とピンクの長方形のアイコンが見えた。このアプリで唯一の暗転していないアイコンだ。


 それにしても、ゲーム制作? 突如として現れた新機能に年甲斐もなくワクワクしながらも、震える指先でそのアイコンをタップする。

 

≪ゲーム制作機能へようこそ。本機能のチュートリアルを開始してもよろしいですか?≫


「おわぁ!?」


 いきなりのスマホからの音声にビビり散らかす俺。音出るなら先に言ってほしいわ。


≪チュートリアルを開始します。画面をご覧ください≫


 いや、返答聞かねぇのかよ。大人しくスマホの画面を見る。画面にはデベロッパー選択と表示されており、一列三つずつのアイコンがズラッと並んでいる。スクロールした感じだと百を超えているな。


≪デベロッパー選択画面ではゲーム開発を担当する会社を選んでいただきます。また、音声認識でどのような分野に強いかを自動でソートすることも可能です≫


「へぇ……。じゃあ2D、ドットライク、シミュレーション」


≪検索結果は七件です≫


 おぉ、インテリジェンスシステム、アートシュリンク、コンマイなど七社がピックアップされた。聞いたことない企業ばかりだが、それぞれ俺が言った要素の適性が星として表示されており、トップに表示されているインテリジェンスシステムは俺の挙げた三要素の全てが星五つ、満点で表示されている。

 とりあえず、インテリジェンスシステムをタップしてみよう。表示されているアイコンをタップをすると、画面がロードされて発注額入力と仕様書と書かれた画面が表示された。


≪次に発注画面の説明です。発注画面では発注額の入力とどのようなゲームが欲しいかの仕様を入力する画面になっております。

 発注額入力時には適切な金額がデフォルトで入力されていますが、受注可能額を大きく下回りますと受注拒否となりますのでご注意ください。

 仕様書は細かく書けば書くほど正確な指針となりますが、詳細になればなるほど他社による拡張性が薄れますのでご注意ください≫


「RPGでいうところのラスボスまで全部こっちで決めちゃうとその通りにしか作ってくれないってことね」


≪はい、RPGやADVなどのストーリーを楽しむための作品は緩めに、逆にルールをきつくすべきFPSなどは仕様を決め切っての発注をおすすめします≫


「なるほどね」


 俺は発注額をタップする。あれ? デフォルトがゼロになってる。


≪チュートリアルですので発注はまだできません。そのままスクロールをし、発注ボタンを押してください≫


「はいはい、そういうことね」


 支持されたとおりに下にスクロールして発注ボタンを押す。画面が薄く暗転し、プログレスバーが左から右にグンッと伸びて、完了とポップアップが出た。


≪これにてゲーム制作機能のチュートリアルを終了します。もう一度確認したい場合はヘルプ機能をご覧ください≫


 お、やっとヘルプ機能が働くのか。

 いや、それどころじゃないな。ゲーム制作機能が追加されたってことはこの機能を使って桜花スターダムでゲーム配信させろってことか? 最近配信に関しての権利関係がうるさいらしいからそれ対策か? 妙なところで律儀だなアプリは。


 とにかく、本番まで時間があるからとりあえず何か発注してみるか……。



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