リハ終了

 へっぴり腰山田事件のあとは順調に第二アトラクションのタップ・オン・ザ・ダム、第三アトラクションのタイピング・Q、第四アトラクションのモールパンチングを説明し終えて、最終アトラクションのツーワン・エアホッケーの前までやってきた。


「尾根さーん! 今んとこ見切れるとこないー?」


 エアホッケーの前でブース内にいる尾根さんに聞こえるように大声をあげる。

 俺の声に尾根さんは咽喉マイクに手を当て、各員が装着しているイヤホンを介して説明をしてくれる。


『第四の正面カメラだけ上のほうが見切れてたから柴田さんが後で修正する。パソコンの処理速度が神がかってるおかげで高速で動く小物も滑らかに映像化できてるわ。

 多分エアホッケーのパッドもリアル処理できるはずよ。少なくとも大手と比べて後発だからって技術力が劣ってるって馬鹿にされることはないわね、こりゃ』


「オッケー、他のアトラクションは時間がかかるからさわりだけだったけど、エアホッケーはすぐに終わるから本番と同じルールでやろうか」


 エアホッケーは俺一人とグリゼルダ・真珠姫ペアの変則ルールで戦うことになっている。事前に説明したが、演者の二人は微妙な顔で俺のことを見つめる。


「あの、二対一ってやっぱり卑怯なんじゃ」


 二人があまりに心配そうに言うので、とりあえずやってみようよと返して山田君に進行リハを促す。


「最終アトラクション! ツーワン・エアホッケー! この競技はチャレンジャーがチャンピオンに二対一でエアホッケーに挑んでもらいます!

 それでは、チャンピオンの入場です! チャンピオン・ミスタースズカぁーっ! 」


 山田君の合図と共にエアホッケーの前に進み出て、エアホッケー中央の通常カメラに向かってパフォーマンスをする。今の俺は鈴鹿静時ではない、孔雀のベネチアンマスクをつけたミスタースズカだ!


「うわ……」


「流石に失礼だよグリちゃん。確かに滑ってるけど」


 女子の心無い言葉が俺の尊厳を削っているが! 俺は全世界にジョブ●の物真似を晒して恥をかいた男! この程度でくじけない!


「はい、社長はここでアピールお願いします」


「アピール!? カメラパフォーマンスしたじゃん今さ!」


「声入れないと迫力出ませんて」


 凪のような顔で山田君は俺に追加のパフォーマンスを要求してきた。

 ふざけやがって、近日中にやり返してやるからな。覚えとけよぉ!


「If you smell what The Suzuka is cookin’!」


 両方の手の中指を立て、カメラに再びマイクパフォーマンスをしながら叫ぶ。

 地上波じゃ絶対できないよ、こんなの。


『今の子わかんないって』


 うるせぇ! ロッ●様は共通言語なんだよ!


「はい、本番ではアピールが終わったら適当に煽り合いをしてください。で、チャレンジャー側にパットが配置されてるので好きなタイミングで打ち出していただいて構いません」


「じゃあ遠慮なく。えいや!」


 言うが早いか、真珠姫がなかなかの速度でもってパットを打ち出す。センターラインを真っすぐなぞる、綺麗な軌跡を描きながら構えている俺の目の前に到達したところで。


「フンッ!」


 二人が反応できない速度で打ち返し、まずは俺が一点獲得した。


『……はぁ?』


「あ、社長の身体能力は狂ってるので指だけ持っていかれないように気をつけてください」


『はぁー!?』


 演者二人の叫び声が心地よいわ。






「い、一点も取れなかった……」


「精進が足りんね」


 不思議なことに、アプリと関わりだしてから身体能力が若いころに戻った気がする。と言っても俺はまだ二十八なんだがな。

 まぁ、気のせいか。がっはっは。


「パーフェクトゲームとは凄いですね」


「エアホッケーって動体視力があれば勝てるから」


「納得いきません! もうワンセット!」


 真珠姫は結果に納得できないのか普段の穏やかな表情ではなく、鬼気迫る勢いで俺にもう一試合要求してくる。

 だが、リハの時間にも限りがあるので俺はそれを却下した。


「時間がないから本番でリベンジしてくれ。無理だろうけど」


「むっきー! リゼちゃん! 絶対に勝ちますよ!」


「真珠ってば煽りに弱すぎでしょ……」


 頼むからデビュー後に売り言葉に買い言葉で炎上しないでくれよ……。

 真珠姫の気性に不安を覚えつつも、最終アトラクション後のボーナスアトラクションの前に進む。ボーナスアトラクションはそれぞれが欲しいものを五個ずつ選出してもらい、それらとタワシとハズレを等分割したルーレットを射貫くダーツ形式だ。ルーレットは山田君がスイッチを押して電動で回すことになっている。

 ボーナスアトラクションは最終アトラクションクリアまでに獲得したポイントでダーツの矢がもらえ、それを使用してルーレットの目標めがけて射貫く。最大で矢は五個のつもりだが、ノリでボーナスを与えていいと山田君には伝えてある。

 エアホッケーは俺が相手をするから二人は確実にポイントを落とす。手加減をするつもりは一切ない。手を抜くエンタメなんて一番面白くないからね。


 リハで二人がそれぞれダーツの矢を投げたが、的までの距離がかなりあるので全頭ハズレになってしまった。もうすこし距離を詰めたほうがいいかもしれないね。


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