第一アトラクション


 機材調整を終えたのが十一時過ぎ。各自、休憩とお昼ご飯を済ませてから3Dスタジオに再集合。配信に関わらない大塚さん以外が全員揃ったので、これからリハーサルである。


「はい、じゃあスタッフの役割分担ですが、PA(音響)と機材は尾根さん、サブで柴田さん、司会は山田君で妻橋さんは全体補助、演者はレジェンと真珠の二人と俺。

 タイムスケジュールですが、十九時から配信開始、自己アピールで各十分ずつとってから、山田君進行でバラエティタイムに入ります。

 バラエティタイムは各二十分で計五種。二十一時に配信終了を目指しますが、最終的にプラマイ十分ほどは許容範囲です。山田君は適度に二人を弄って時間調節よろしく。妻橋さんがタイムキーパーをしてくれてカンペで経過を教えてくれるから腕時計は外しておいてね。

 そうそう、今は口頭で説明してますけど、香盤表はもうすぐ大塚さんが印刷して持ってきてくれます。

 ここまでで質問は? あ、バラエティの競技はこのあと実践を踏まえて調整しますのでそれ以外で」


 外入さんがスッと挙手する。


「自己紹介はこちらで考えても?」


「うんうん、オッケーですよ。一応こちらで用意したものもあるのでどちらを使うかはお二人にお任せします。これから君たちが付き合っていくもう一人の自分ですからね、大まかなキャラ方針は運営側で決めましたが、Vtuberというものはいつの間にか自身と混じり合うものですから。

 他に質問あります? なければ各アトラクションの説明に入ります。今後も新人が加入するたびにこれやるので覚えといてくださいね」


『はい!』


 いい返事だ。本番で調整ブースで待機する尾根さんと柴田さん以外を全員を引き連れて移動したのは、第一アトラクションのウォールジャンパー。

 微妙に傾斜のある壁には得点が描かれており、およそ二〇メートルの距離を走った後に壁前のトランポリンでジャンプし、両手につけたマジックテープ付きの手袋で壁にへばりつく。手の伸び切った位置の合計得点でクリアかどうか判別するゲームだ。

 なお、原則数字が得点圏に表記されているが、一番上の表記はクリア。届いた時点でアトラクションクリアになる。


 それではリハでの挑戦といこう。

 事前に着ていたジャージにモーションキャプチャー用のマーカーと呼ばれる機械を演者の二人は装着していく。これが光を反射することで演者、アクターの動きを3Dで取り込むことができるのだ。

 マーカーは日々研究がおこなわれていて、現在では台風の中にでも撮影をしない限りマーカーがポロポロとれるものではなくなっており、装着者が激しく動き回っても大丈夫なものに品質向上している。と山田君が熱く語っていた。ガジェットに関することだけはうるさくなるんだよな山田君。


 腕を組んでうんうんと一人考えていたことに頷いていると、準備を終えた外入さんと螺子山さん。いや、グリゼルダと真珠姫が動き出す。

 PAブース外部の下部に設置されている確認モニターを見て妻橋さんが、ブース内のマザーモニターで柴田さんが演者二人の動きを確かめる。


「真珠側にズレありでーす、体操お願いしまーす」


 グリゼルダはオッケーだったらしいが、真珠姫側のマーカーにズレがあるようで、それを調節するために真珠姫は様々なポーズをとっていく。

 我々はこれを体操と呼んでいるが、これは企業によって呼び方が変わるらしい。


「オッケー! 調節完了よ」


「それじゃあ、デモンストレーションで山田君挑戦よろしく」


「僕ですか!?」


 俺にいきなり振られた山田君が驚愕する。リハでやるなんて一言も伝えてなかったからね。


「じゃ、ジャージを着ている社長の方が向いているのではないでしょうか!」


「山田君のジャージも用意してるよ」


 スーツでやると危ないからね。


「本番のデモンストレーションは俺だし、それに一度はやってみないと進行しにくいでしょ?」


「正論で逃げ道塞ぐのはズルいですって!」


 俺と山田君がやいのやいのと言い合っていると、一際大きなパンッと叩く音がスタジオ内に響く。発生源はグリゼルダ。彼女は怒りか笑みかわからない表情で呟くように。


「押してます、巻いていきましょう? ね?」


『はい』


 顔の整った女の怒りって本当に怖いと思った。



 なお、山田君はトランポリンをジャンプミスして得点圏までジャンプできなかった。



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