第142話 アリアンナの成長計画?
ということで奈落に到着。
クリスタルの輝く大空洞に到着すると、つっけんどんなアリアンナも壮大な景色に圧倒されていた。
うんうん、やっぱりみんな初見はこうなるよね!
私が後方彼氏面で腕組していると、アイシャがダンジョンの新鮮(?)な空気を大きく吸い込んでいた。
「奈落に来るのも久しぶりだわ~! 最近は師弟契約の依頼ばかりで、ダンジョンに潜る機会も少なかったのよね~」
「賢者は
「そうねえ。でも最近は弟子の成長も早いし、私もウカウカしてられないな~って。みんなの師匠として恥ずかしくないよう、レベルも上げておかないとね~」
最近、冒険者界隈の成長は目覚ましい。
あたたか牧場の殺虫レベリングを始めとして、同じような特注ダンジョンでお手軽レベリングが流行しているらしい。
私の耳に入ってきた限りだと、アンデッドオンリーのダンジョンで聖水、あと植物魔物オンリーのダンジョンで除草剤などの報告が上がっている。
おかげで冒険者のレベルは著しく底上げされ、最近ではBランク以上の冒険者もめずらしくないという話だ。
「私たちの時にはなかったレベリングだから、ちょっとはずる~いって気持ちになるけど。それで魔物と戦う力を持つ人が増えたなら、それを喜ばなくちゃダメよね」
「……アイシャ殿の気持ちは私もわかります。楽な方法で強くなる冒険者に抵抗感はありますが、彼らに苦労を強要したいわけではない。そもそも私が強くなれたのも、リオとレベリングを共にさせてもらってからだしな」
「ふふ~ん、フィオナさんはワシが育てた!」
「え~私もリオさんに育てられた~い!」
私たち三人がじゃれ合っていると、傍で見ていたアリアンナが白い目を向けてくる。
「フン。楽なレベリングで強くなっても、実戦経験がなければ戦いのセンスは磨かれないでしょ。そんなんじゃ予期せぬ攻撃を受けた時、うまく対処できずに全滅するだけよ」
「炎竜団には耳が痛い話ね~。もちろん今ではちゃ~んとエンジェリックリボンを装備してるけど」
予期せぬ全体魅了で全滅しかかった事のあるアイシャが、手首に巻きつけたエンジェリックリボンをドヤっと見せつける。
私とフィオナもそんなアイシャに合わせ、装備したリボンをお披露目。するとアリアンナもとんがり帽子の下に結っていた、エンジェリックリボンを見せてくれた。
う~ん。みんなが同じリボンを装備をしてると、仲間って感じがしていいよね!
「そういえばアリアンナって結構レベル高いよね? まさか二才能もマスターした冒険者だとは思わなかったよ」
「私は大聖女やルキウス、それにアルフを殺すつもりだったのよ? ならレベルはどれだけ鍛えても足りなかった、だから桜都の四十層付近でレベリングし続けただけよ」
「勤勉っ! ちなみに一日のうちどれくらい鍛錬に時間を割いてたの?」
「そんなの。食事と睡眠以外は
「ってことは、一日12時間くらい?」
私は単純計算した数字をそのまま口にすると、フィオナが呆れた様子でツッコミを入れてくる。
「おいおい、リオ。いくらなんでも自分基準で物事を考え過ぎだろう。魔物を相手にした命がけの鍛錬だぞ? そんなのを12時間も出来るわけ……」
「やってたわよ、12時間」
フィオナの言葉を遮り、アリアンナが平然と答えてみせる。
「強くなるためなら、それくらい当然でしょ。私みたいなガキが大人を越えるなら、時間なんていくら使っても足りないわよ」
「え、ええ~? 真面目なのはいいことだけど、それじゃあ体が持たないでしょ~? 魔法を使うのだって消費魔力とは別に、疲れは体に返ってくるわけだし」
アイシャが心配して見せるも、アリアンナは首を振りながら淡々と言い返す。
「それは一回の詠唱に集中し過ぎてるのよ。魔法なんて一定の発動プロセスを踏めば飛ぶんだし、適度に力を抜けば言うほど疲れない」
「でも集中力を欠かすと、魔法の威力に影響が……」
「出ないわよ、体外に放出された魔法の威力は常に一定。気合や根性、集中の度合いで魔法の威力は変わらない。ただ上がったように感じるだけ」
「そ、そうなの?」
「そうよ。術者の
「す、すごいっ!!!」
アリアンナの語る省エネレベリング論に、私は感激のあまり叫んでしまう。
ゲーム中のレベリングとは違い、
だからこそ冒険者たちは単純な
だがアリアンナは魔法の仕組みを紐解いた上で、疲れを減らして鍛錬時間を伸ばす方法を編み出していた。
これぞ正にライフハック。私が求めていた類の、現実ならではの攻略情報だ。
「まさかリオの他にも、十時間越えの鍛錬をする冒険者がいたとはな……」
フィオナの呟きに反応したアリアンナが、めずらしく興味を寄せた視線を向けてくる。
「……盗賊も一回の鍛錬時間は長いの?」
「最近はみんなに合わせてるから、そこまででもないけど……そうだね。冒険者始めてソロだった頃は、十五時間くらい潜ってた」
「私みたいな魔法使いと違って、アンタは物理タイプの戦闘種でしょ? よくそんな持久力が保てるわね」
「私の場合は
「……なるほど。確かにアサシンダガーの即死率は壊れてるし、レベリングにはうってつけね」
「でしょっ!? 最近はアサシンダガーの二刀流も出来るようになったから、即死率は50%×50%。つまり2500%だよ!」
「……っ、バカなの?」
――その時、衝撃的な出来事が起こった。
なんとアリアンナが私のボケに笑ってくれたのだ。
(う、嬉しいっ……!)
差し障りのない話は何度かしていたが、笑ってくれたのは初めてだ。
今もアリアンナとの会話に神経は使うが、冒険者を本気でやっていることは伝わってくる。
だからこそ戦闘やスキルの話で、少しずつコミュニケーションを取って行こうと考えていた。
でもこんなにも早く、アリアンナが笑顔を見せてくれるとは思わなかった。
嬉しさを隠せない私はこのまま仲良くなれたらと、冒険者関連の話題をアリアンナに振り続ける。
「そういえばさっ、プレゼントした至高の聖杯はもう使ったの?」
「使ってない。占星術師と召喚士、どっちに使えばいいかすぐに判断つかなかったから」
「成長したい方向で決めていいんじゃないかな? 占星術師ならレベル120で
「な、なんでそんなこと知ってるのっ!?」
突然、アリアンナが驚愕の表情で私の胸倉を掴んできた。
「レベル100以上の取得スキル情報なんて、使い手が公表しなければ知り得ない情報よ!? っていうかレベル120まで到達した占星術師が、この世にいるのっ!?」
「あ、えっとそれわぁ……実は古書館にあった本に、そんなことが書いてあったような無かったような……」
「はっきりしないわね! だったらその古書館を教えて! その話が事実なら、絶対に情報の出所を突き止めてやるっ!」
あああ、やばい!
情報の食いつきがよすぎたせいで、アリアンナは情報の出所まで確認しに行こうとしている。
私が本を捏造でもしなければ、アリアンナは存在しない本を探し続けてしまう。ここはなんとか誤魔化さないとっ!
「あ、あ~~~そういえばあの本は創作の絵物語だったかも~? それを幼い私が真実だったと思いこんじゃったり~?」
「絵物語でも構わないわ。レベル120という具体的な数字が出てるなら、事実を元にした物語かもしれない。調べる価値は十分にある」
「で、でも古書館には三万冊以上の蔵書があるワケだし、そこから探すのはあまり現実的じゃあ……」
「人でも雇って探させればいいでしょ。それに絵物語だってわかってるなら、数は相当絞られるはずだわ」
「じ、実は私! 生まれ変わる前はスーパーな占星術師だったの! だから転生前の記憶とごっちゃになっただけかも!」
「現実に転生なんてあるワケないでしょ、バカバカしい!」
「ですよね~~~!!!」
すべてを一刀両断されてしまい、私はアリアンナの説得をあきらめる。
というか誤魔化してたのは転生を隠すためなのに、それを引き合いに出している私はアホなのだろうか? まぁ信じてもらえなかったので、結果的にはオーケーなんだけど……
と、話は有耶無耶になりつつも、アリアンナはその情報を真実と仮定して成長プランを考えている。
「でも手っ取り早く強くなるなら、召喚士LVを上げたほうが良さそうね。レベル120で
「でも召喚士はバハムートの習得だけでも十分に強いよ。それに幻獣技能・
「………………そう思う?」
アリアンナはわずかに驚いた表情を見せた後、私の目を見ながら聞き返す。
「うん。聖杯も占星術師か召喚士にこだわらず、闇魔術師を100まで上げてから解放してもいいと思う。リブレイズには攻撃魔術特化のアタッカーがいないし、アリアンナがそこに収まってくれると私はありがたいかも」
「攻撃魔術特化のアタッカーって、大聖女がやってるんじゃないの?」
「大聖女は総合力で見たら反則的に強いけど、魔法アタッカーとしては普通だよ? エレクシア法衣で攻撃力は底上げされてるけど、レベルが上がりづらいから素のステータスも高くないし」
しかもレベルも上がりづらいのでスキルポイントも少なく、普通の冒険者よりも自由度は低い。
もちろんそれを差し引いても、ソロでSダンジョンを踏破しかねない
「三才能持ちのアリアンナはスキルポイントも豊富だし、召喚士という才能の自由度も高い。だったらアリアンナは――複数の攻撃魔法に特化した、大魔法使いを目指しても面白いかも!」
「攻撃魔法に特化した、大魔法使い……」
「エレクシア法衣に及ばなくとも、魔法攻撃力アップの装備はたくさんあるからね。魔法攻撃の強化スキルも【LV:20】まで上げちゃえば、大聖女を遥かに凌ぐ魔法アタッカーにだってなれるよ!」
私はゴキゲンでそのプランを口にすると、アリアンナが神妙な表情で考え込んでいることに気付く。
(あっ、しまった……)
冒険者がどの能力を伸ばすのか、それはあくまで当人の意思に委ねられる。
アリアンナだって目指したい冒険者像があるはずなのに、私は自分の求める魔法アタッカー像を一方的に語ってしまった。
役割特化が強いクラジャンにおいて、そんな人材が味方に付いてくれたら嬉しい。だが相手の望まない姿を、押し付けるつもりもない。
だから私は――
「……みたいな成長プランもあるけどねっ! でも最終的に決めるのはアリアンナだから――」
「いいわね。攻撃特化の大魔法使い、大聖女を越える高火力アタッカーなんて、最高じゃない!」
「え?」
気付けばアリアンナは邪悪な笑みを浮かべ、目にはやる気の炎が満ち満ちていた。
「誰も私に逆らおうとも思わない圧倒的な火力! ガキだからって舐めてくる大人を、最強の魔法力で分からせてやるっ……!」
「あ、あの、アリアンナさん……?」
「やる気出てきた。行くわよ、盗賊」
「ど、どこに? なにしに?」
「奈落の深層でレベリングよ。アンタ、十時間越えのレベリングもイケるクチなんでしょ?」
「私は耐えられるけど……」
そう言って私が後ろを振り返ると、フィオナとアイシャが表情をひきつらせていた。
「あ、アリアンナ? やる気があるのはいいが、私たちは連休という話だっただろう?」
「来たくないなら騎士は来なくてもいい。でも十倍速ダッシュを持ってる、アンタの主は連れていくけど」
「なっ!? リオは行く……のか?」
「う、う~ん。特にやることもないし、行こうかなぁ……」
「くっ!?」
フィオナは私の騎士だ。主が行くと言っているのに、ついて来ないという選択肢はない。
もちろんフィオナが乗り気じゃないことはわかっている。
だがアリアンナはめずらしく私を必要とし、歩み寄ってくれている。だったら今は誘いに乗って好感度を稼いでおきたい。
フィオナが観念すると残されたアイシャが、笑顔でだらだらと汗をかいている。
「あ、あはは。みんな若いわね~、お姉さんはちょぉ~っと、ついていけないかもなぁ……」
「年齢を理由に、鍛錬から逃げる大人とか最っ低。っていうか、そういう発言が自分を若さから遠ざけてるんじゃないの?」
「うっ……」
「アンタもさっきレベリングしたいって言ってたじゃない、だったらついて来ればいいじゃない。さっき話した脱力詠唱、賢者にも教えてあげるから」
「っ…………はあぁ、時には勢いも大切よねぇ」
大きなため息をつくアイシャ。その肩に両手を乗せ、フィオナが同情するかのように瞑目している。
(二人ともゴメンっ。でも私もどっちかっていうと、鍛錬に向かいたい組なんだ!)
私はクラジャン廃人。そしてクラジャン廃人の休日の過ごし方なんて、クラジャンに決まっている。
変にヒマな時間が出来ると、むしろ生活からメリハリが失われてしまう。
フィオナとアイシャには悪いが、ここは私たちガチ勢についてきてもらうとしよう。
「さあ、盗賊。十倍速ダッシュで深層に向かって!」
「ラジャー!」
ということで、私たちは休日返上でレベリングをすることになったのだった。
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