魔王シンという男について 【てんとれ祭】

八月 猫

止まない雨なら飴になれ

 魔王シンて何?誰?

 私はカクヨムにて『召喚された元異世界転生魔王さま』なる物語を書いています。


 まあ、その主人公が「木南きなみ しん」という人物なんですが、これには一応のモデルがいます。

 当然、その本人は魔王でも何でもない普通の人間なんですけども、彼は何故か魔王と呼ばれていました…。

 別にどこも魔王らしさなんて無いのに、いつの間にかそんなあだ名がついていたんですが、友人が言うには「お前が最初に呼び始めた」とのこと。

 はてな?まったく身に覚えがありません。


 彼と出会ったのは私がまだ中学生だった頃、学校も違う三歳年上の彼とはたまたま学校の近くのゲーム屋で知り合いました。

 身体が大きくて力も強かったけれど、おっとりとした性格で頭が良く、まだまだ子供だった私に対しても対等に接してくれる優しい人でした。


 そんな彼の周りには自然と人が集まって来て、私の友人や彼の友人も含めて集まっては遊ぶような関係になりました。

 夏休みのような長期の休みの時は誰かの家に集まって夜通しゲームをしたり話をしたり、本当にそんな他愛のない――楽しい時間を過ごしていました。


 私が高校に上がると彼は県外の大学へ進学。私が大学へ進学した次の年には、自衛官となった彼は県外の基地へと赴任しました。

 それでも休みの度に帰って来て、それまでと同じように集まっては近況報告をしたり、前と変わらずゲームをしたりカラオケに行ったり――時間が経ち、歳を取っていっても私たちの仲は変わることなく過ぎていきました。


 私が就職をして四年が経ちました。

 ある日の昼休み。職場から少し離れた社員食堂を出ると小雨が降っていました。

 傘なんて持って行ってなかった私。小走りで職場に戻っていると私の携帯に知らない番号から着信がありました。

 仕事の電話かもしれないと思って、雨の中でしたが足を止めて電話に出ました。

 電話の相手は彼の叔父さんだという人からでした。


 叔父さんは涙声で、彼が亡くなったと言いました。



 彼の所属していた部隊の人や地元の自衛隊員の方も集まってきていて、彼の葬儀はとても壮大に行われました。

 広いホールに大勢の人。

 壇上に飾られた彼の写真が笑っていました。


 最後のお別れの時に久しぶりに彼の顔を見て、その時初めて私は涙が出てきました。



 何でもない事故。ほんのちょっと階段を踏み外して転落した彼は、たまたま周りに誰もいなかったので発見が遅れたらしいとのこと。

 じゃあ、早く見つかっていれば助かったんじゃないか?そんな思いがずっと私の頭の中をぐるぐると回っていました。


 もう彼と会うことも話すことも出来ない。

 彼はもうこの世にはいないのだからと頭では分かっていても、夢の中で会う彼は、出会った頃と変わらない笑顔で話しかけてくるのです。


 そんな彼の魂はどこへ行ったんだろう?信仰も持たない私ですが、そんな事を考えるようになりました。

 どこかで生まれ変わって、いつかまた会えるんじゃないだろうか?

 それとも――別の世界に生まれ変わって幸せに生きているんだろうか?


 そうだとしたら、それはどんな世界で、彼はどんな風に生きているんだろうか?

 そう妄想して作った話が、『召喚された元異世界転生魔王さま』の前段階になる話です。

 彼が好きだったゲームのような世界。

 剣と魔法と魔物がいるファンタジーな世界。

 でも、そこには人間は転生した彼だけで、魔族と言われる人たちが生活する世界。


 エンディングの無い世界で、彼ならどう行動して、どんな風に話すだろうと考えていきました。

 そして彼は、そこでも魔王と呼ばれるまでの存在になったのです。私の頭の中では……です。


 今カクヨムで載せてもらっている話は、魔王と呼ばれた後のお話。

 今度は人間のいる世界へ召喚されてしまって、また別の世界を冒険するお話。


 彼が生きていたことを、私なりにこの世界に残したいという思いから書き出した物語。

 誰かに読んでもらおうと思っていたわけじゃなく、形として遺したかった物語。

 それなのに、いつの間にか多くの人が読んでくれて、それが彼のことを知ってもらえたような気がしてて……。


 彼がこれを読んだらどう思うでしょうね。

 俺はこんなんじゃないと笑うでしょうか?

 それとも喜んでくれるでしょうか?


 優しかった彼が怒るようなことは無いと思います。


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 どうですか?私はあなたの次の人生を紡げていますか?


 あなたは別の世界で楽しく暮らせていますか?


 私は目を閉じれば、いつでも笑っているあなたの顔を思い出すことができますよ。


 いつか――どこか別の世界で会うことがあれば、そうあなたに伝えたいです。



 あなたがいなくなって結構な月日が流れましたね。


 あなたがいなくなった悲しみはずっと心の奥にあります。それでも、あなたの友達はみんな元気でやっているんで心配しないでくださいね。

 

 ああ、多分、あなたが一番心残りにしていた事があると思います。

 一番というのは私の願望であるんですけども。


 だから、伝えられるなら一番に伝えないとですね。


 葬儀のあったあの日。

 あなたの眠る棺に抱き着いて、その場の誰よりも涙を流していた人。


 あなたがこの世で一番大事に思っていただろうひと



 あなたの婚約者は――今は笑って暮らせていますよ。



 だから、もう大丈夫です。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【参考・引用/蜂蜜ひみつ/てんとれないうらない/第77話 天気予報 今日は雨 明日は飴が 降るでしょう 9点】

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