第7話 田辺は軍師にはなれない

え?


面白い……?



涙目になりながら先ほど以上に笑う三國さん。


どこで間違えた。何を間違った。



「少女漫画のイケメン君みたいなセリフですけど……田辺さんには似合わないですって」



報告する。

作戦は失敗。

作戦は失敗だ。

これより退避行動に移る。

幸運を祈る。


頭の中で、昔少しばかりやりこんでいたFPSゲームを想像しながら、自分の策略が失敗に終わったことをどうにか認識した。



「どうにか忘れていただくことは叶わないだろうか」



「えー、こんな面白い出来事を忘れて欲しいと?」



「どうにか慈悲を。ご慈悲を賜りたく」



「じゃあどうしましょうか……あっ、ここから離れたくない、つまり喫煙所に籠っていたかった理由はなんだったんですか?」



天使のような三國さんの求めた対価はとんでもなく優しいものだった。



「あー、それは」



「この後とびっきり苦手な上司と面談があるんだよ」



「面談、というと?」



「普段目標をもって仕事をしているか、だとかその目標に対して成果がどれくらい上げられているだとか、そういった感じのやつ?」



「それを田辺さんのとびっきり苦手な上司の方に一対一で話さなければいけないと?」



そう。何を話しても一切表情を変えず、鋭い眼光を常にこちらを監視しているような目線を送り続けダメ出しをしてくる上司。


喫煙所にいる時間は具体的に何をしているのか、なぜ喫煙所に行くのか、どんな銘柄を吸っているのか、一日に何本吸うのか、そんなに喫煙所に行くのが好きなのか、休みの日は何をしているのか、など。

前回の面談では煙草と煙草休憩に関しての追求が1時間にも渡って続いたのである。


そりゃ勝手に席を外して喫煙しているわけだからこちらに非がある。

けれども煙草について言及されている時間が結果的に面談の9割を占めるって、おかしくない?怖くない?取り調べだよ完全に。


しかし1時間も自白を続けて、こうしてまた喫煙所に来ている自分には更生の余地はない。あきらめて出頭するしかないのかもしれない。


そんな上司との面談の時間がもう間もなくだった。



「諦めの表情と冷めた口調、自分がどうしようもなくダメな社会人だと思わせられる時間にこれから挑んでくるよ。なに、日ごろの行いが招いたものだ。どんな結果になろうとも受け入れるさ」


どうにかして自分を奮い立たせ、戦場に赴く。

戦場というより裁判に近い。

俺は被告人である。



「私の知っている田辺さんはきっとあーだこーだ言いながらも必ず求められたもの以上の結果を残す人だと思うんですよ」



「そんなことは……」



「次にここであったら私が田辺さんの煙草に火をつけてあげます。キャバ嬢スタイルです」



うん。正直それは気になる。


脚を太ももを自分の足に乗せてくれなんかしてくれてさ。



「脚は乗せませんよ?」



「えっと、声に出てましたか?」



「顔に出てました」



「そんなことある?」



「あんな欲望丸出しのだらしない顔してたらそれはまあ……」



今すぐに鏡が欲しくなった。


欲望丸出しのだらしない顔ってどんな顔?



というかその気まずい顔見るとこっちも気まずくなるのでどうにか辞めてもらえないでしょうか。



「田辺さんは、その、キャバクラとか、よく行くんですか?」



「キャバ……クラ?はて?」


見知らぬ言葉を発する三國さんにヨクワカリマセンといった表情でそう問い返す。



「間違えました。ご友人と一緒に初めてキャバクラに行ってみたら綺麗な女性がにこやかに接客してくれて『あれ、これ自分に気があるんじゃないか』と勘違いしてその後一人でもお店に行くようになりご飯なんか誘われた日には完全にヤれるぞと血眼になりはしたがご飯のあとは『急遽出勤しなきゃいけなくなったの』という嬢の言葉を信じて仕方がなくお店まで一緒に行って乾杯。しかし30分もすると嬢は他の卓で指名が入ったと自分の元を離れ結局戻ってきたのは2時間後。さすがに帰ろうと会計をお願いすると目が回りそうな金額に涙を流して退店した田辺さん。帰宅後お店を出る間際に黒服のボーイが嬢に『同伴お疲れ様』と声をかけていたのがやけに気になり同伴という熟語を調べて意味を知った彼は自分の勘違いに気が付く。『夢を見ていたんだ。これを機にキャバクラとは無縁の人生を送ろう』そう決めたから田辺さんはキャバクラという言葉をご存じではないということですね?」



「チガウヨ?」



「男ってどうしてこう愚かなんでしょうか」



「ダカラチガウッテ」



「まあ、今行っていないのなら許してあげますか」



「三國さんの許しは求めていないが」



「せっかく脚乗せスタイルでキャバ嬢プレイしてあげようと思ったんですけどいらないみたいですね?」



「許してほしい」



「では面談、ちゃちゃっとこなしてきてくださいね?」



「イエッサーボス」



自分を軍師だと勘違いしていた自分はもういない。


自分は与えられた任務を完璧にこなす現場人であった。


自分に不可能なミッションなどない。


軽くこなして厄介な上司を黙らせてやろうじゃないか。

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あざとすぎる喫煙所系女子に徐々にはまっていく話 @iruma-lk

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