月に咲く花を君へ

立花向日葵

はじまり


師走の風が雨と息を白く染めながら、街路樹の枯葉と共に吹き抜けていく。


「何で都会なんて来たんだろう。」

 この街に来て二年も経つというのに都会の空気には慣れない。通学中の無味乾燥なビル群をマフラーに顎を埋めるようにして自転車で抜けていく。5限の授業終わりのこの街は早くもクリスマスムードで絢爛豪華なイルミネーション、サンタやトナカイのコスプレをする人など地元では見かけない景色ばかりだ。

 家の近くまで来ると景色はガラッと変わる。酔っぱらいの会社員やバーなどの客引き煌々と光るパチンコ屋など大学生の俺には近寄りがたい雰囲気だ。

「地元の大学にしとけばよかったかなぁ」

 美味しい空気と土手の土のにおいが懐かしい、都会の苦手な部分を見るたび「地元に帰りたい」という思いが強くなる。

 だが今日は嫌な気分ではない。なんたって今日は久しぶりにあいつが遊びに来るんだから。

「おっミドリ久しぶり~元気にしてた?」と自宅の最寄り駅で待っているのは高校時代からの友人である白田志郎しろたしろうだ。今日は野球観戦終わりに家に泊まりに来たのだ。「いや~やっぱりスポーツは生で見るに限るね~」と帰り道の間聞いてもないうんちくを語り続けている。「もしかしてお酒飲んでるの?」と聞けば「あったりめぇだろぉ野球観戦にビールはつきものじゃん」と当然のように返されてしまった。

「すぐ赤くなってつぶれちゃうのにそういう時は必ず飲むよね、もっとちゃんとしたとこで飲みなさい」とつい母親のようなことを言ってしまう。

 家に着いてからは、夕飯を食べながらお互いの近況について語り合った。

 お互いの学校やバイトの話など話で盛り上がる。しかしシロウと話すといつもこの話題に落ち着く。「そういえば小川とはどうなんだよ」「どうって、いつも通り仲良くしてるけど」「なんだ、進展ないのかよ」と落胆している。同じく高校時代からの友人であり個人的な趣味の友達でもある小川萌水おがわもえみの話になる。

「そんなお前にチャンスだ、今度3人で忘年会ということで飲みに行こうと思うんだけどミドリもくるよな」「行く、絶対行く」

 私は二つ返事でOKした。

 そんな話をしている間に時計は夜の11時を指した、明日の予定もあるので片付けに取り掛からねば。誰かが泊まりに来る日は当たり前だが料理も洗い物も多くなる、毎日てきぱきと家事をこなしていた実家の母への尊敬が大きくなる。今度帰った時に肩でも叩こう。

 それにあと一時間で時間だ、急いで終わらせないと。


 私と山のように積まれた食器との闘いが今、始まる。

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