第4話 淡い言葉と、動き出した関係
それから私と彼女とあの子の関係は、さらに深くなっていった。
その分ほかの子とは疎遠になり、以前遊んでいた「仲良し」からの誘いは、ほぼすべて断るようになった。
そうしているうちに、話しかけられることも、遊びに誘われることも殆どなくなったけれど。
そんなこと忘れていたほど、私はこの空間に心地良さを感じていた。
私は確かに幸せで、満たされていた。
けれどそんな日々は、やっぱり、長くは続かなかった。
本当は自分でも分かっていたのかもしれない。今までの関係を全部一方的に捨てることの勝手さも、いまの幸せの無責任さも。
薄々感じていた諍いの予兆は、突然現実にあらわれてしまった。
それは、一学期も終わり近づき、みんなが夏休みの真っ白なカレンダーを埋めようと必死になっているときのことだった。
二人と何処かへいきたいな、今度誘ってみようかな…。
キラキラとした夏休みの計画に、胸をときめかせていたそのとき。
「ねーねーあのさあ」
薄っぺらい笑みを浮かべてやってきたのは、かつて仲良くしていた、そして私が変わるきっかけを与えてくれた、張本人だった。
「……、なに?」
なるべくいつも通りにしようと思って出た声は、自分でも驚くほど冷たかった。
「なに?じゃなくてさ〜。最近全然からんでくれないじゃん。どしたの?」
「いや、別に、何もないよ?」
「何もなくないじゃーん。なんか冷たいし。私なんかした?」
あからさまに傷ついたような顔をするその子に、申し訳ない、とは思えなかった。
「何も、してないよ。ただ、なんかもういいかなって」
内心うんざりしながら、曖昧に返す。
それが私のいつもの手法だった。
だけど、彼女にそれは通じなくて。
「だから、もういいって、なに?私のこと、嫌いになったの?」
「えっ…、いや、そんなことないけど」
「じゃあなに?!はっきりいってよ!」
穏やかではなくなってきた空気に、だんだんとみんなの視線が集まってくる。
その中には当然、今一番たいせつな、二人の姿もあった。
「急に喋ってくれなくなって、ずっと不安でやっと聞けたのに、もういいってなに?!はっきりしてよ!!」
「ちょっと、一旦落ち着いてよ。喋らなくなったのは忙しかったからだし、別に嫌ってるわけじゃないから、」
取り敢えずこの空気をなんとかしようと、できるだけ優しい声でとりなす。
しかしあろうことが、ヒートアップした彼女の目には涙が浮かんでいた。
「…っはあ?!急に避けられるこっちの身にもなってよ!!もう知らないから。せいぜい乗り換え先と仲良くしてれば?!」
そう言って教室を出ていく彼女の口角が、すこしだけつり上がったように見えたのは、気のせいだろうか。
「女子どうしの喧嘩はこわいこわい!!さ、遊び行こーぜ!!」
お調子者の男子の鶴の一声で、みんな、今が昼休みであるということを思い出したようだった。
各々の感想を吐きながら、それぞれもとの居場所にかえっていった。
私と、ふたりを残して。
「…ねえ、大丈夫?」
声をかけてくれたのは、私を変わらせてくれた、大切なあの子だった。
「…うん!大丈夫!ちょっと勘違いされちゃったみたいだけど、」
たぶん大丈夫だよ!と、言葉を続けようとした私を、彼女は言葉で遮る。
「あのさ、」
「ん?」
「勘違いされてるのなら、ちゃんとはっきり違うって言わなきゃだめだと思う。あのこが可哀想だよ」
「えっ?…いやっ、でも」
まっすぐに届いた彼女の言葉は、思っていたものと180°違うものだった。
きっと、味方になってくれると思ったのに。
戸惑いを隠せない私に、さらに彼女は続ける。
「中途半端なのがいちばん苦しいよ。
…私、そういうのが、いちばん…嫌い」
悲しそうに発せられた言葉は、容赦なく耳に突き刺さってくる。
きらい。
その言葉の意味はちゃんと知っているはずなのに、何故か、理解ができない。
あたまが、拒絶してるようだった。
動けない私をおいて、ふたりは、どこかへ行ってしまった。
まるで私から、遠ざかろうとするみたいに。
私と言葉~もしも、あのひとことが違っていれば~ 美倉 海月 @kurage-396
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