第35話 監視対象

 一条の尋問が始まって結構な時間が経ったと思う。客層が入れ替わり親子連れも増えてきた。


「影野くん、これからもわたしの秘密をバラさない?」


「スパイってことを? 少なくとも学校では言わないな」


 Zでバラすにしても一条の個人情報を晒すような真似はしたくない。同志には喜ばれるかもしれないが、それとは別の方向から炎上するリスクがある。他人の画像を勝手にアップするのは良くない。最悪アカウントを停止させられてしまう。


「よかった。じゃあ、わたし達はこれからも友達だ」


「え……? あ、うん」


「ずっと監視するからね。なんたってわたしはスパイだから」


「それはまあ、そうだな」


「じーーーーーっ」


 突然じっくりと顔を観察される。それは同時に、俺も一条の顔を観察するということだ。恋愛感情は一切ない。それとは別に、一人の男子高校生として整った綺麗な顔が近付くと多少は照れくさい。


 脳内で簡単に犯せるくらいには裸を想像するし、男と触れ合ったらどんな反応をするのかと妄想もする。単純な性的興奮を覚えるのは仕方のないことだ。


「あれ? ちょっと赤くなってる? 友達なのに?」


「と、友達でも異性だし」


「よしっ! 影野くんからも友達宣言いただきました。ちなみに今の発言は録音してあります」


スマホを操作すると『と、友達でも異性だし』という今の発言が繰り返し再生させる。至近距離でのツーショットに加えて音声まで保存されてしまった。

このデータを加工してなにかに使われる心配はなさそうだが、心臓を両手で掴まれているような気持ちだ。気まぐれにギュッと力を込められたらいつでも死ねる。


「俺も一条さんを監視するから。さっきの写真と今の音声。絶対に誰かに見せたりしないで」


「受けて立とうじゃないか。お互いに秘密を握り合って教室では今まで通り過ごす。だけどその裏ではバチバチにけん制し合う。燃えるね!」


「バレたら炎上しそう的な意味でな」


 なんでこいつは楽しそうなんだ。追い込まれると興奮するタイプなのだとしたら認識を少し変える必要がある。拷問が通用しない。さっき思考盗聴対策で妄想した一条の姿はただただ喜ばせるだけになってしまう。


 痛めつけられるのが好きなスパイ。捕まっても問題ないどころか悦ぶというのはあまりにも最強すぎる。


 まずはこいつの苦手なものを見つける。そのためにはじっくり監視しなければいけない。


「影野くん」


「一条さん」


「「絶対に秘密を」」


「守ってもらうから」「暴いてやるからな」


 Zはしばらく閲覧に専念だ。これからは教室で一条の監視に専念する。お前が俺を監視してるんじゃない。俺がお前を監視しているんだ。


「くくく……」


 人気者の一条はクラスの中でも移動が多い。そんなお前を監視するには、俺に意識を集中させるのが合理的だ。動くことなく成果を得る。俺らしい答えに辿り着いた。笑わずにはいられない。


 一条も余裕の笑みを浮かべている。が、その綺麗な顔が歪む日も遠くはない。どんな拷問にも耐える変態が苦悶の表情を浮かべるのはどんなシチュエーションなのか、その時が来るのが待ち遠しい。


 スマホの電源を落として一条と過ごす時間は、これからさらに増えそうだ。

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