第34話 キラキラ

「宇宙評議会ってどんな組織なの?」


 それはお前が一番良くしっているだろうというツッコミはやめることにした。同志たちが掴んでいる情報をあえて話すことで一条の反応を見る。真実か誤解か、その判別にこのスパイを使ってやろうじゃないか。


「宇宙人は俺達人類を奴隷にしようとしてるんだ。力で支配するんじゃなくて人間の恋愛感情を利用している。例えばすごく可愛い女子に近付かれた男子は簡単に心を許す。そういう方法で奴隷を増やせば女子に好かれたい男子は一生懸命働く。洗脳に近いけど、ある意味で洗脳よりタチが悪い。機械の故障とかで解ける心配がないからね」


「めっちゃ喋るじゃん」


 どういう反応なんだよ。今話した情報に対して反応しろ! 俺が早口で喋ったことなんてどうでもいいんだよ。


 うんうん頷くばかりで否定も肯定もしない。今の情報は一条が日頃から実践してることだから確認するまでもない情報だがな。


「そのスパイって女の子だけなの? 逆パターンの奴隷は集めてない感じ?」


「もちろん存在する。同志……#宇宙評議会でポストする人のことを俺達はこう呼んでるんだけど、中には女性もいる。かつてスパイに騙されて酷い目に遭った人達だ。その先人たちの知恵をZを通じて学ぶことで俺はこうして真っ当な生活を送れている」


「へえ~。家に帰ったらポストを遡ってみようかな」


「膨大な量だから無理はしない方がいい」


 すでに掘り返しいるんだろ? ものすごく演技が自然で感動するレベルだ。俺以外のクラスメイトを籠絡するにはこのくらいの演技力が必要なんだな。宇宙評議会側の人間になっていなければ今頃大女優になっていかもしれないのに。敵ながら哀れな女だ。


「その宇宙評議会の幹部ってどんな人がいる? 人っていうか宇宙人? 強いのかな?」


「幹部についての詳細は明らかになっていないが我々の常識を超えた兵器を使っているのは間違いない。例えばスマホには簡単にアクセスできるし、相手の思考も読み取ることができる。だが同志たちも無策じゃない。アルミホイルハットで思考盗聴は防ぐことができるし、コンセントにアタッチメントを装着したり、そもそもスマホの電源を落とせば電波攻撃は不可能だ」


「最近の影野くんが学校でスマホを使わなくなったのって」


「電波攻撃を防ぐためだ。おかげで平和な学校生活を送れた」


「ならいっぱいお話しできるね」


 電波攻撃を防ぐ手段は間違っていなかったようだ。籠絡モードの一条に思考盗聴能力はないようだが、いつ切り替わるかわからない。普段から身に着けるのは控えることにして、やはりアルミホイルハットをいつでも被れる準備はしておいた方が良さそうだ。

 エクスバーンの修行前に作るのをサボった自分を殴ってやりたい。


「宇宙評議会ってめちゃくちゃ恐いね。影野くんはいつかそいつらを倒すの?」


 #宇宙評議会を見ればわかる情報だからと饒舌になり過ぎた。こればかりは同志にもまだ知らせていない、俺の胸の内にだけ秘めていることだ。

 真実を話した瞬間に人格が切り替わるかもしれない。今のところ自白剤を飲まされた感覚もないが、誤魔化そうとした瞬間に苦しむタイプという可能性もある。


「そりゃ、倒すさ」


 真実を知ってなお黙って宇宙人に支配される俺じゃない。対抗意識があるからこそエクスバーンの修行という答えに辿り着いたんだ。


「公園でやってたあれがそうなんだ?」


「……!」


 やっぱり一条に目撃されていたのか。人違いとか幻覚とかのわずかな可能性に期待していたが、事実は事実として受け止めなければいけないようだ。


「まだ……全然だけど」


「そっかそっか。いつか成功するといいね」


「……うん」


 なんだそのニヤニヤは! 絶対成功なんて願ってないだろ。それとも成功しないと高を括っているのか?

 エクスバーンが発動する前に人格を切り替えて殺せる。その自信があるのだとしたら、二つの人格は相互に意志疎通ができていつでも変身できるということ。


 些細な一言でまた情報を得てしまった。しかし、これは悲報でもある。敵はあまりにも強い。特別な条件なく一瞬で戦闘マシーンが現れる。こんなに恐ろしいことはない。


「実はさ、ずっと影野くんを監視してたんだ」


「……知ってる」


 宇宙評議会のスパイだもんな?


「いつわたしの秘密をバラすんだろうって。でも、影野くんはずっと黙ってた。わたしが影野くんの秘密を知っても、それは変わらなかった」


「お互いバラされたら困るでしょ」


 リアルの人数差があまりに大きすぎる。それに秘密をバラすメリットがこちらにはない。すでに籠絡された男子に真実を伝えたところで鼻で笑われるか、反乱分子として攻撃されるだけだ。


「それに、影野くんはわたしを恋愛対象として見てない。友達でいてくれる」


「ん? ああ、うん。そうだね」


 友達ではないが否定すると面倒なことになりそうなので生返事をした。こいつは他人を殺すのは躊躇うけど友達なら殺せるサイコなのか?


 一度築き上げた友情が壊れる前に殺せばその友情は永遠になる的な。


 キラキラ女子高生の考えることはよくわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る