6話 少し昔の話。
「うんしょっ……と」
無事、たこ焼きを回収した私は小豆洗いと話していた、社の前にいた。
お母さんに見つからないようにという思惑と、小豆洗いがいたらこのたこ焼きを食べさせようと思ったからだ。
最近、小豆洗いたちのいる隠り世でも現世の食べ物が流行り出しているみたいだけど、たこ焼きは食べたことないだろうし。
……こんなおいしい食べ物知らないなんて、それだけで人生損してる。と言っても過言じゃないかも。
ちょうどいい具合で熱いたこ焼きを食べながらそんなことを考える。
にしても、小豆洗い今日は来てないのか……。
小豆洗いたちは現世に密かにあずきを輸出しているため、数日に一度はこちらにくる。だから、会えると思ったんだけどな……まぁ、いないものは仕方ないか。
なんてことも考えていたらたこ焼きは跡形もなく消えてしまっていた。
「じゃぁ、最後にお参りでもして帰りますか」
ぱんぱんと服を叩き土を落として社の前でかがむ。
さて、何を願おうか。
ーーー神様に願い事などするものではありませんよ。
突如、頭の中でおばあさまの声がした。
『いつもありがとうございます』
拍手の後、そういう。
おばあさまの言いつけ通り、お願いはせず神様へ日頃の感謝を述べた。
リン
鈴の音が聞こえた気がして顔を上げる。周りにそれらしきものはない。
なんだ、気のせいか。おばあさまの声といい、疲れてるのかなぁ。
私はそう感じながら、たこ焼きのゴミを回収して家の手伝いに行こうと道を進む。
「え……」
道を抜けた先に見えたのは、道を進む妖怪たちだった。
「ここは……もしかして、隠り世?」
隠り世。ーーー簡単に言ってしまえば、それは妖怪たちが住む世界。人間が普段来ることはなく、妖怪たちが祓われることもない正真正銘、妖怪が住むところ。
「すっご……」
恐々としながらも私は一歩踏み出した。たこ焼きのゴミは茂みに隠してきた。
踏み出した先には、まるで時代劇にでも出てきそうな二階部分が低い、漆喰で固められた塀や壁でできた家。
空が夜のように暗いせいか、いきかう妖怪たちは手に提灯をもち、歩いている。
その光景を見て、私はある豆蔵との会話を思い出した。
あれは、夕方になるともう暖房が欲しくなるくらい寒くなってきた頃だったかな……。
「隠り世じゃぁ、人間を嫌う人もいて……現世に小豆を卸しているウチの店に時々、『現世との取引をやめろ。でなければいずれお前たちの店を爆破する』といた趣旨の
脅迫文が店に投げ込まれていることがありまして」
豆蔵がぼうと茜空を見上げながら遠い目をして言う。
「え、それ大丈夫なの⁈」
「ええ。その、隠り世の皆は甘いものが好きですから。加えて、私の店は妖王朝三大頭の一人、玉藻前さまを始めとする方々に伝統ある店として、厚く支持されているのでそもそも店を爆発させることはできないんです。と、いうかウチに脅迫文投げ込むだけでも玉藻前さまに見つかったら牢獄行き。最悪、肉刑もあり得るので」
「ひえええっ」
わたしはうでをさする。ど、どこからともなく悪寒が……。
て、いうか幽世、人間に対して怖すぎない?絶対、行きたくないんだけど。
「幽世へ来た際は、うちの店に来てください。匿いますし、何より小豆お面をお渡しします」
「いやいやいや。ぜったい、行かないから!うん。だって怖すぎでしょ」
「たしかにそうですね。でもまぁ、なんとなく天さんは幽世に来る気がします」
「えぇ」
わたしは眉をひそめて反論する。ぜったいにあり得ないのに。
「では、ぼくはそろそろ。ああ。そうそう、天さんこれを」
身支度を終えた豆蔵が立ち上がり、思いついたように袋をわたす。
「我が主から天さんへ。だそうです。肌身離さず持ち歩くようにって」
袋の中からでてきたのは、小さな髪飾り。わたしがいつもつけている組紐につなげるだけでいいらしい。
さっそく、組紐に通し、髪につける。
「どう?豆蔵」
「~~~~?~~~~~!」
豆蔵のほうをふりかえると、豆蔵が音で何を言っているのかわからなくなっていた。
「え、なんで?ま、豆蔵が何言ってるかわからない!」
「~~~~!~~~~‼」
「だから何言ってるか……あれ、わかる?わかるよ豆蔵。豆蔵が何言ってるか」
まめぞうが鳴き声のような音を出すと同時に頭に豆蔵の言葉が副音声のようにしてながれてきた。
「え、なになに?我が主は天さんが変なあやかしに気を取られないよう、こうしたのです。今から天さんは妖怪の声が聞こえません。意思疎通が出来るのは我が主が指定
した人だけです。って……え?なんで、こんなこと」
わたしは、おどろいて。固まる。すかさず、豆蔵の声が頭に響く。
『先日、幽世の妖怪によって天さんが誘拐されたことが、我が主の逆鱗に触れたのです。ほんとは、姿も見えなくしてやろうといったのですが、私がやめさせました。天さんは妖怪を見ることを何よりの楽しみとしていますから……それに、それは取りたかったら取って構いません。責任は私が負いますので』
豆蔵が真剣な顔をして言う。
「大丈夫だよ、豆蔵。わたし、これつけるよ。だって豆蔵の主さんが準備してくれたものでしょ?わるいもののわけないじゃん」
『天さん……何かあったら、その髪飾りに鳴れと念じてください。そうすればきっと、髪飾りが私の店までの道をおしえてくださいます』
「わかったよ、豆蔵。ありがとう」
なんとなく、豆蔵の頭を撫でたくなって、私はなでた。
『こどもじゃないので、やめてくださいよ、天さん。あと、その髪飾りをしている間、あなたが本当の意味で会話出来るのは我が主だけですし、あなたに悪意を持つ妖怪は姿がみえませんから。では、また』
「りょうか……」
返事をする前に豆蔵の姿は消えていた。
神様の神隠し 伊狛美波 @kirakira381
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