ペペロンチーノ

死神王

本編

 こんこんと、ドアから音が聞こえた。私が扉を開けると黒い長い髪の女性がいた。君だった。

「相変わらず不健康そうね。」

「まあ、健康なのが幸せじゃないので。」

こういうひとくだりが私たちのルーティンだ。君は玄関で靴を脱ぐとそのままキッチンへ直行し、冷蔵庫を覗いた。私はそれを見ながら台所のテーブルに腰掛けた。

「相変わらず、同じものしかないよね。」

「これじゃあ同じものしか作れないよ。」

君はパスタを取り出すと鍋に水を入れてゆで出した。私はその間テーブルに何気なく置いてあった新聞を開き、目を通していた。大きく見出しに「日本経済の限界」だとか書いてあったが、そんなことに興味なんてさらさらなく、君が料理を作る一方私が新聞を読むという空間、状態が死ぬほど好きだった。

茹で上がるパスタをフライパンに移しながら

「今度はクリームとか買ってきてよ。毎回これだと飽きない?」

いや、いいんだよ。私が飽きることはないし、飽きても他の選択肢は欲しくないからね。そう答えると、君は何も答えずに黙々と料理に集中していた。

「ほら、できたよ。」

完成したペペロンチーノが台所のテーブルに置かれた。

「いただきます。」

と一言添えてからフォークを持ち一口。うん。いつも通りの味だ。私は唐辛子が食べられないから君はいつも唐辛子を入れずに作ってくれる。君はそれを見ながら頬杖をついて私を眺めていた。まるで、映画を見ているかのように溶けるように見られていた。同様に私も君を見つめている。

 そうだ。

私は君に殺されたかったのだ。君のような女性を私は代わりを見つけることは出来ないと確信していた。だからこそ、君がいなくなるのが怖いし、いつものように来る君が、ペペロンチーノが愛おしかった。今ここで君が殺してくれれば、僕はいつ失うかわからない恐怖から逃れられる。僕は君が好きだけれど、君はきっと私が好きじゃない。君は私を性の相手としか見ていない。それでいい。高望みはしない。高望みというのは金持ちがすることだ。

今日もそんな言葉は言わずに代わりの言葉として

「ご馳走様。」

とお礼を渡す。君は満足そうに

「よかった。また来るよ。」

と言って帰りの支度をする。君にとって私はどういう意味があるのか。君は私がいなくても生きていけるのか。そういう不安の問はまた塞いで、君を見送った。扉を開けて、アパート二階の廊下を歩く君の姿が小さくなり、影はどんどん大きくなっていった。

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ペペロンチーノ 死神王 @shinigamiou

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