第7話

本棚には分厚い難しそうな魔法書がずらっと並んでいる。

そのほとんどがかなり使い古されていおり、ただ並んでいるだけではないのがわかる。ヘスティアは1日のほとんどをこの部屋で過ごす。

基本的にやることは魔法の研究である。

ヘスティアはこの学校の最も新しい卒業生の一人だ。

「安物のコーヒーしかないけどごめんね。」

3人がけのソファの真ん中にアレスは座っており、

その後ろを秘書のようにリンが立っている。

「リンもそんなところで立っていないで座って。」

「いえ、私はここで。」

リンは顔を前に向けたまま、まるで軍人のように答えた。

「リン頼むからその感じやめてくれよ、まるで俺の従者みたいに思われるからさ。」

「え?違うの?」

「ほら、ヘスティアさんも勘違いしてるじゃないか。」

「いえ、勘違いではございません。」

「いや、魔法を解いたぐらいで大袈裟だよ。本当に。」

「魔法を解く?」

「ああ、こいつ魔法に失敗したかなんかで、おばあさんの姿になっていたから、

その失敗した魔法を削除してあげたんだよ。」

「は?」

ヘスティアは、アレスの言っている意味がわからなかった。

いや、『魔法削除』という理論はヘスティアは知っていたが、

それを通常魔法を使うかのような口調で言っていることに理解が追いつかなかった。

「ヘスティアさんもしかして、『魔法削除』知らない?」

「いえ、その魔法は知っていますが・・・、まさかアレスさんは使えるんですか?」

「使えるよ。というより基本の魔法の一つでしょう?」

「基本!?」

「そんな驚くことか?魔法の原理原則を知っていれば誰だって使える魔法だぞ。」

ヘスティアは己の鼓動を鎮めるように緩くなったコーヒを喉に流し込む。

「確かに『魔法削除』魔法の原理原則を知っていれば使える魔法です。

しかし、魔法を本当の意味で理解できているのは、この学園の魔法使いでも片手で数えられるぐらいでしょう。」

「魔法を意味もわからず使ってんのか?この国の奴らは。」

「悲しいことに、なんとなくでも使えてしまうのが魔法なんですよ。」

「なんとなくの理解でつかった挙句お前はあんな姿になっちまったと。」

アレスはリンを見ると、リンは情けなさそうに顔を伏せた。

「ちなみにリンさんは何の魔法をしようとしたんですか?」

ヘスティアの問いかけにリンはすぐに答えることができなかった。

「時空間魔法だよ。おそらく禁忌・・・。だろ?」

アレスの言葉にリンは黙ってうなづいた。


この国では禁忌とされている魔法が三つある。

一つは、生死に干渉する魔法。

一つは、時間に干渉する魔法。

一つは、空間に干渉する魔法。

どれも世の理を破壊しかねないという理由で研究すら禁止されている。

「親父にも、この三つは禁忌と教わった。」

「アレスさんはこの三つの魔法は使えるの?」

「使えるわけないでしょう!何言っているんですか。」

「そうですか、もし使えるならそのことは他の人には絶対に知られてはいけません。」

「何でですか?」

リンがヘスティアに聞く。

「強大過ぎる力は、時に己を滅ぼすものよ。あなたの母親の様に・・・、

あなたもしかして・・・」


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魔王に育てられた勇者 男気 @otokogi_41

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