第6話 魔法の国①

魔法の国『マヌー』

世界中の魔法使いたちがこの国を目指し、

この国で魔法使いとして認められることは、

魔法使いにとっての最高の栄誉である。

この国では魔法が全てであり、才の無いものは

容赦無く排斥される。


『マヌー国立魔法学院』は、

国認定の唯一の魔法専門の学校である。

この学校を無事卒業できたものは、

晴れてマヌーから魔法使いとして認められる。

だがこの10年での卒業者はたった一人しかいない。

卒業どころか、入学することすらできないのがほとんどである。

毎年千人以上の応募があるが、無事入学の資格を得られるのは、

多くて10人、大抵は一人も資格を得ることができずに、

地元に帰るか、国非公認の学校に行くものがほとんどだ。

入学試験は毎月行われていて、試験内容は基本的なものがほとんどだ。

今日も、100人以上の魔法使いが試験を受けにきた。


「それでは皆さんにはあそこの的に向かって『火玉ファイヤーボール』を打って頂きます。外れたり、的に届かなかった時点で失格といたします。」

50メートル離れた半径50cmの的がある。

次々と的に向かって『火玉ファイヤーボール』が放たれる。

中には、魔都まで届かなかったり、大きく外したりするものがいた。

試験管は絶望する顔を一切見ることなく、事実を冷酷に伝えるのみだ。

「失格。お引き取りください。」

この試験で、半数以上の人間が落とされる。

全員が打ち終わった後、試験管は残った人たちを絶望に落とす。

「皆さんの『火玉ファイヤーボール』は全部偽物ですね。

本物を打てるようになってからまたきてください。」

「はあ?偽物ってどういうことだよ?」

一人の男が試験管に向かって叫ぶ。

試験管はため息をつくと、

「仕方ありませんね、今日だけ特別です皆さんにお見せしましょう。」

そう言い、試験管は的に向かって指を刺した。

指先から閃光が放たれると、的の中心を貫いた。

「これが本当の『火玉ファイヤーボール』です。まあこのレベルを皆様に求めるのも酷なのでせめて『火玉ファイヤーボール』程度は無詠唱で打てるようになってきてから来なさい。」

格の違いを見せつけられたものたちは、トボトボと学院を引き返した。

おそらくこのものたちが再び来ることはないだろう。

「あれ、もう終わっちゃった感じ!?」

「アレス様、だからあれほどお酒はやめとくようにいったじゃないですか。」

「だって、あんな上手いもん初めてだったんだから仕方ないだろ。」

「入学希望の方ですか?」

「はい、そうです。」

試験管にはアレスの様子を見てすぐに二日酔いだというのがわかった。

まあ一人だしどうせ失格だから良いかと思い、

「まあ、先ほど試験は終わりましたが特別です。受けさせましょう。」

「本当か?ラッキー。」

「アレスさん、それではあの的に向かって『火玉ファイヤーボール』を打ってください。」

「『火玉ファイヤーボール』?」

「はい、まさか打てないわけではないですよね?」

「それって小さい方?それとも大きい方?」

アレスの質問を聞いて試験管は目を丸くした、

「驚きました、そんな質問してきた人は初めてです。そうですね、小さい方でお願いします。」

「了解。」

アレスはポケットに手を突っ込んだまま、的に向かって小さく鋭く息を吐いた。

的は一瞬にして塵と化した。

「あー弱すぎた、やっぱまだ力の加減が難しいな。」

試験管は、己に匹敵する技術を持つアレスを見て、

ある女性の魔法使いのことを思い浮かべた。

試験管はふっと笑い、

「合格です。」

「え?こんなんでいいの?なんだよリンが散々脅してきたから

どんな難しい試験かと思ったらよー。」

「リン?」

試験管はアレスの後ろのリンを見た。

「あなた、リンなの?」

「なんだ知り合いか?」

「お久しぶりです、ヘスティア様。」

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