第5話 リン
「なんや兄ちゃん、王国に行きたいんか?」
少し話し方が独特な、筋肉質な褐色の肌にサングラスをかけた、
胡散臭そうなおじさんだ。
「おっさん知ってるのか?」
「おっさんちゃうで、まだ42や。いや十分おっさんやがな。
やかましいわ。」
「はあ・・・。」
「なんやノリ悪いのう。で、どこの王国や?」
「どこの?王国って何個もあるのか?」
「なんや、兄ちゃんなんも知らんのかい?」
そのおっさんは、地図を取り出した。
「兄ちゃん、魔王の領域は知っとるか?」
「もちろん知っているぜ。」
「それは知っているのかいな。この地図の真ん中にあるのが『魔王の領域』や。で、その周りを囲むように4つの王国がある。」
北に位置するのが、「ナクーシャ」という国で、四つの王国の中では最強の軍事力を持つ国だ。ライプニッツはそこの出身だ。
東に位置するのが、「ヴィンディ」という国で、医療が発展している国だ。
回復士の数は群を抜いている。
南に位置するのが、「マヌー」という国で、魔法が発展している国だ。
最近『賢者』になった奴がいるらしい。
西に位置するのが、「ウーリア」という国で、科学が発展している国だ。
人類の進化はここから始まるとも言われている。
「ここから一番近いのは『マヌー』だな。」
「『マヌー』?ライプニッツさんって元々『ナクーシャ』にいたんですよね?」
「ああ、まあ色々あってな。」
「色々って、真逆じゃないですか?『魔王の領域』を通ったんですか?」
「流石に俺でもそれは無理だよ。あそこは一度入ったら抜け出せない魔の領域だ。まあ、過去に一人だけ帰ってきた奴はいたが、結局そいつは死んじまった。」
「そうなのか。」
俺はその魔の領域出身なんだけどな。と心に思った。
「じゃあ、とりあえず『マヌー』ってところに行ってみるよ。」
「『マヌー』かー。」
「なんかヤバいのか?」
「ヤバいっていうか、あそこ「魔法至上主義」の国だからな。
魔法が使えない奴だと・・・。」
おっさんが酒場の端を指差す。
そこには、目が虚で焦点があっていない老婆が座っていた。
「ああ見えてまだ20代なんだよ。」
「20代!?どうみてもおばあさんじゃないか?」
「変身の魔法に失敗して、あんな見た目になっちまったんだとよ。
それで学校を追い出されて今ここにいるってわけだ。」
「返信の魔法に失敗して・・・。」
アレスは、その老婆もとい女性の元に行き、
しばらく様子を見た後、
「なんだ、これなら簡単に元に戻せるな。」
「え?」
酒場にいる全員がアレスの方を向いた。
『
その女性の老婆だった見た目がどんどんと若返る元に戻っていく。
だが女性はそのことにまだ気づいていない。
目の焦点があっていないままだ。
「あんた何をした?」
「いやただ単純にこの娘が使った魔法を消しただけだよ。」
「魔法を消す?そんなことできるんか?」
「並の人間じゃあ無理だけど、俺なら簡単さ。」
おっさんとライプニッツは目を丸くしアレスを見つめた。
「はっはっは、これなら『マヌー』に行っても心配ないな。」
「そうだな、まあ違う意味で心配だが・・・。」
「どういう意味や?ライプニッツ。」
「力のある人間にはその分苦労があるってことさ。」
「そういうことかい。さすが経験者は違うなー。」
「からかうなよ。アレス、強大な力はあまり人に見せるもんじゃない。
年配者からの忠告だ。」
「別に強大ってものじゃないんだがな。」
「お前に取ってそうでも周りにとってはそうじゃないこともある。
人智を超えているぐらいの気持ちでいて良いぐらいだ。」
アレスはその言葉を聞いて笑った。
「なんだ?」
「いや、その言葉親父にも言われたなって。」
「ならお前の親父さんは常識があるんだな。」
常識・・・、いやないと思うけどな。と思ったが口には出さなかった。
そう話していると、娘が目を覚ました。
「親父さん、お酒・・・。え?」
娘は自分の声が元の若い時の声に戻っていることに気がついた。
慎重に自分の顔を触る。
「無い!シワがない。なんで?!」
娘は見慣れないアレスの存在に気づく。
「おはよう、酒はほどほどにな。」
「もしかしてあなたが?」
アレスはにっこりと笑い頷いた。
老婆の姿からは想像できないほどの可愛らしい顔で、
口は笑いながら目からは涙を流しながら、
「ありがとうございます!」と娘は頭を深々と下げた。
「リンこいつをマヌーまで案内してくれるか?」
「はい、アレス様を死んでも送り届ます!」
「死んでもって大袈裟だなー。」
リンとアレスは『Birne』を後にし、『マヌー』に向かった。
アレスはライプニッツとはおそらくまた出会うことになりそうな気がしていた。
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