最終話

 夢を見た。

 故郷いた頃の懐かしい夢だ。

 転んで膝を擦りむいて、泣いてる私が見える。


「ひぐっ…痛いよぉ…」


 情けなく泣く幼い私。転んだ場所が家から少し遠くて、どれだけ呼んでもパパもママも来なかった。それが心細くて、涙が止まらなかった。


「大丈夫?」


 優しい声が聞こえてくる。心配そうに覗き込んできたのは、小さな悠ちゃんだ。

 そうだ、私はここで初めて悠ちゃんと出会ったんだ。1人ぼっちで泣いてた私に手を差し伸べてくれた、優しくて愛しい人。


「怪我したの?」

「…うん」

「じゃあ俺がオンブしてやる!」


 悠ちゃんが小さな私を背負う。

 そのまま凄い勢いで走り出したものだから、私は必死に悠ちゃんにしがみついてた。


 なんで今この夢を見たのか、何となくわかる気がする。

 おめでとう、あの日の私。

 その人も私のこと大好きだって言ってくれたよ。




 ∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵




「みんな!忘れ物は無いね!?」

「もちろんだぜ先輩!」


 キャンプ場での一夜が明け、俺たちは帰りの車に乗り込んでいた。

 運転席には琥珀先輩が座り、助手席には刀司が座っている。俺と瀬奈は並んで後部座席だ。


「眠くなったら寝ちゃっていいからね!アタシもそうするから!」

「いや先輩は寝ないでくださいよ!」


 車内に笑い声が響く。最初から最後まで楽しいキャンプで良かった。

 それに今回のキャンプで…関係の大きな変化もあったし。


「……っ」


 瀬奈が控え目に俺の手を握ってくる。彼女は顔を真っ赤。今は恥ずかしさと嬉しさが半々って所かな。

 俺も瀬奈の手を握り返す。小さなやり取りだが、今の俺たちにはこの位がちょうどいい。


「そうだ悠、おめでとう」

「ん?何が?」


 突然、助手席に座っていた刀司が祝福してくる。

 何の話だ?俺の誕生日とかはまだ先だが──


「山野辺嬢と付き合い始めたんだろう?一言祝福しておこうと思ってな」

「ごふっ!!」


 盛大に吹き出してしまった。

 というかなんで知ってんだ!?昨日の夜は俺と瀬奈しか居なかったはずだろ!?


「ななななんで刀司君が知ってるの!?」

「なんでって…見てたからに決まってるだろ」

「見てた!?何を!?」

「お前らの告白シーン」

「「ギャアアアアアア!!」」


 2人の絶叫が綺麗に重なる。

 嘘だろ…誰にも見られてないと思ってたのに、普通に刀司に見られてたのかよ!!


「は、恥ずかしいよ…」

「そう恥ずかしがるな。立派だったぞ」

「そういう話じゃねぇんだよ!」


 立派だったとかそういう問題じゃない!人の告白シーンを盗み見るとか、その…なんと言うか…不健全だろう!


「僕としてはやっとかと言う印象だ。琥珀先輩はどうです?」

「ん?あぁ、今更かって感じだね」

「先輩にすら呆れられた…!?」


 あの騒音の擬人化のような先輩にすら、軽く流されたことにショックを受けた。

 俺と瀬奈って傍から見たらこんな印象なのか…


「ねぇ悠ちゃん」

「どうした?」

「私ね、恥ずかしいけど…嫌じゃないよ」

「…そうか、なら良い」


 さっきまで騒いでいた心が、一瞬で静まり返った。瀬奈に握られたままの手から感じる熱だけが、俺の頭を火照らせた。


「昨日は夜更かししたからかな…ちょっと眠くなっちゃった」

「だったら寝とけ。肩くらいは貸すさ」

「うん…あと手も…」

「分かってる。離さねぇよ」

「ありがとう…悠ちゃん…」


 肩に瀬奈の頭が載せられる。

 賑やかだった車内はいつの間にか静まり返り、瀬奈の寝息がよく聞こえた。


 この熱に触れられるまで、俺はどれだけの回り道をしたのだろうか。

 長いようにも感じるし、思い返せば簡単な道程だった気もする。

 それでもこの日々を、俺は忘れない。

 今までのすれ違っていた日々を。

 これからの通じ合う日々を。

 車が家に帰るまでの数時間、俺はこれからの日々に思いを馳せた。

 瀬奈の隣に居られる、大切で喧しい日々に──

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【1000pv突破感謝!】世話焼き好きな幼なじみと同棲する話 転校生 @Tenkousei-28

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