護衛依頼(4)

 メシヤ商会倉庫前の駐車場に二台の魔導車が駐車した。

 僕とニシが車を降りると、クルスさんが声をかけてきた。


「これで今回の依頼は終了だ。大変世話になった。この依頼完遂証明書を……、フクヤに渡しておく。冒険者ギルドに届けておいてくれ。」


「了解です。」


「それでは、これから荷物の搬入作業があるので、これで失礼する。ご苦労だった。」


 そう言ってクルスさんは倉庫の方へ去っていった。


「じゃあ僕らも冒険者ギルドへ向かおう。」


「そうだな。てか腹減ったな。夜飯何にしよっかなー。しこたま酒を飲むってのもいいな。フクヤも来るか?」


「いや、遠慮しとくよ……。明日には領都に向かいたいし。」


 ニシは酒を人に飲ませてくるタイプなので、正直一緒に飲みたくはない。というかあまり人と飲むのは好きじゃないし、やんわり断っておく。


「なんだよ、シケてんなぁ……。たまには人と飲みに行ったほうがいいぞ?交流大事だぞ?冒険者の横の繋がり軽視してないか?」


「それはニシが一番軽視してるだろ。」


「ははっ、それは言えてる。」


 それは言えてるじゃないんだよ。ニシは討伐依頼を積極的に受ける冒険者と交流しない。あまりにも断固拒否の姿勢を貫いている。過去に何かあったのかな。


***


 そんなこんなで西の街の冒険者ギルドにやってきた。六時三分。この時間の書類受付は……、まぁさすがに混んでないか。

 背嚢から食べ物を買ったときの領収書と依頼完遂証明書、それから危険生物報告書のデータが入った依頼板を取り出し、両手に抱えて書類受付に並ぶ。

 書類受付に並ぶのは護衛依頼と雑用依頼を完遂した人だけなので、討伐依頼と採取依頼を完遂した人が並ぶ素材受付よりはるかに列が短い。ここも護衛依頼のメリットだと、僕は思う。素材鑑定の時間も基本的に無いしな。


「次の方、どうぞ。書類をお出しください。」


 そんなことを考えていたら受付から声がかかった。書類担当のレイナさんだ。西の街には護衛依頼でよく来るから、この人の名前だけは覚えた。


「冒険者フクヤとニシ、領都からの護衛依頼を完遂しました。書類はこちらです。また、危険生物と遭遇し、討伐しました。」


「依頼完遂証明書と領収書はお預かりします。特に急ぎでなければ報酬は明日か明後日に振り込みますが、それでよろしいでしょうか?」


「僕はそれで大丈夫です。ニシは?」


「ああ、問題ないよ。」


「分かりました。では、報酬に関してはそのように対応いたします。次に、危険生物と遭遇したとのことですが、危険生物報告書の記載は終えていますでしょうか?」


「記載済です。」


「分かりました。では、危険生物報告書と討伐した魔物の証明ができるものをお持ちになり、二階の特殊受付においでください。」


「分かりました。ありがとうございます。」


「それではここでの手続きは以上になります。お疲れ様でした。……次の方、どうぞ。書類をお出しください。」


 そう言うレイナさんを横目に、ニシを連れて二階に向かった。


***


 特殊受付にはほとんど人が来ないため、呼び鈴を鳴らして受付の人を呼ぶ必要がある。そんなわけで、僕は呼び鈴を鳴らした。


「はいはーい、こちら特殊受付ですがー、なんのご用件ですかー?」


 随分間延びする口調の受付嬢が来たな。まぁ仕事できるならいいけど、なんか気が抜けるな。


「危険生物と遭遇、討伐したので危険生物報告書を提出しに来ました。」


「あー、危険生物ですねー。そうしたら一番の部屋で応対しまーす。ついてきてくださーい。」


 そう言って受付嬢はスタスタと歩いていった。歩くのは速いんかい。僕らもほぼ早歩きのようなペースで付いていった。なんか変な受付嬢だな。


 受付嬢の後を追い、一番の部屋に入った。危険生物の死体をそのまま持ってくる冒険者が多い都合で、危険生物報告の手続きはかなり広い個室で行われる。どうやら一番と呼ばれた部屋はそういう部屋らしい。


「それでは依頼板を拝見しまーす。お借りしますねー。」


「あ、はい、こちらになります。」


 そうして出した依頼板を受付嬢は素早くぶんどった。その口調の緩さと動作の俊敏さのギャップは何?


「オーガの遭遇、討伐報告ですねー。ありがとうございまーす。討伐証明にあたるものはなにかございますかー?」


「おい、ニシ。」


「ん?あぁ、俺か。今出すわ。」


 そう言ってニシが出したオーガの死体を受付嬢は素早く検分した。


「んーっと、うーん?これオーガ種なのは間違いないですがー、オーガちゃんではなくないですかー?」


「本当ですか?」「え、あれ?」


 あれ、これオーガじゃないのか?てかオーガをちゃん付けで呼ぶ人いる?


「これはー、腹開くと水色の魔臟が出てくると思うんですよねー。戦っているときに剣がすり抜けたりとかー、ありませんでしたかー?」


「いや、俺が首切ったら死んだから知らん。」


「あー、お強い冒険者さんなんですねー。そしたら分からないのも仕方ないですー。これー、多分ファントムオーガちゃんだと思いますよー。」


 あ、そうか。ファントムオーガの可能性を忘れていた。普通は戦っていたら気付くから間違えることもないんだが、ニシが強すぎて考慮するのを忘れていた。

 というかファントムオーガとオーガって外見は一緒だし、何で気付いたんだろう。この人実は凄い人なの?


「ところでー、この死体はどうされますかー?」


「ニシ、どうする?」


「いつも通り解体任せて換金でいいだろ。欲しい素材も無いし。」


「それならー、こちらで魔臟を確認してー、報告書も書き直しておきますー。ランクも違う魔物ですしー、次からは気をつけてくださいねー?」


「分かりました。」「はーい。」


 こういうことがあると、討伐依頼の発注ミスにも繋がり、結果として冒険者の不利益になる。本当に次からは気をつけておこう。オーガかファントムオーガかのチェックは欠かさずに、と依頼板にメモっておく。


「それではー、これで以上でーす。お疲れ様でしたー。」


 その声を聞き、僕たちは冒険者ギルドを出ていった。


***


 ニシとも別れ、夕飯を食べて宿を取ってこの日は寝た。

 次の日に領都へ向かう依頼がないか探したが、特になかったのでなにも依頼を受けずに僕は領都へと帰った。何も起こらない、というのもまた日常だろうな。


***


【やけに間延びした口調の受付嬢】(冒険者ギルドを後にしたニシとフクヤの会話)


「さっきの特殊受付の人、なんか強烈な人だったな。ニシなんか知ってる?」


「え、フクヤお前知らないのか?あの伝説の受付嬢を?」


「え?そんな有名なの?」


「まぁ西の街では有名だよ。口調以外は完璧な受付嬢としてな。書類作業も完璧、鑑定でミスすることは一度もなく、死体の検分も100%当ててくる、そんな受付嬢。その名も……。」


「その名も?」


「……なんだっけ?忘れたわ。」


「おい……。」


――――――


あとがき(続きを投稿するときに消します)

 本作品は不定期連載になります。一つ依頼の話が纏まったらまとめて投稿、という形にします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある冒険者の日常 @ph-Ls

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ