第2話 ストレスマックスゲージと魔法アイテム《抹茶ラテ》


「うーん…、手応えがないなぁ」


私は目の前の狼を剣で切り、ひとこと呟いた。

世界樹迷宮はとても強くて23層までしか攻略されていないって聞いてたのに…


:あっ

:桃香ちゃん、コレダメ。

:舐められてるな


「えっ?どういうこと?」


コメント欄から流れてきたコメントに驚く。


:世界樹迷宮はね、相手によって対応を変えてくるんだよ。

:強いやつならトラップ仕掛けまくったり、ただ撮れ高が欲しいだけのやつにはまぁまぁ強いやつを倒させて自主退去させたり。

:桃香ちゃんの場合は…、手加減されてるね。

:帰るまで待ってるっぽい


「えっ!?」


てっ、手加減!?


「それって、私弱いって思われてるの!?」


:その可能性高め

:桃香ちゃんはまぁ日本1ではあるけど世界には敵わないからねー…

:桃香様を舐めるだと!?迷宮主め!!ぶっ◯す!!!


「えええええ!私強いんだよ!!もぅ!絶対に攻略してやる!!」


ぶんっ!と剣を振り、私は襲ってくる狼の群れに突撃した。


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「うおおおおおおおお!!なんて事してくれてんだ視聴者ああああああ!!こっちの作戦バラすんじゃねええええええ!!」


バンバンバンバン!!と連続で机を台パンするのは言わずと知れた少年である。

その後ろではなぜかわからないが花が走っていた。

ひまわりのような花で、真ん中に顔がついている。

葉っぱを使って器用に歩き…、いや、走っている。

それが一匹ならわかるが十匹ほどいる。


『うおお主がご乱心だああああああ!』

『まずいまずいまずいご機嫌を取れ!』

『いけ、エナドリ入りコーヒーだ!』

『あれクッソマズいぞ!』

『いやでもよく飲んでるし…』

『アホかお前ら、主が好きなのは抹茶ラテだ!』


ぎゃあぎゃあと後ろで花たちが騒いでいるにも関わらず少年は微塵みじんも気にせずモニターを射殺いころさんばかりににらんでいる。


『ルイ様、抹茶ラテをお持ちいたしました』

「っ、ほんとか!?」


ぱっと振り向いたその顔は輝いていて、先ほどの怒りの形相ぎょうそう跡形あとかたもない。

花の対応は執事そのもので完璧だが、いかんせん姿が残念である。

遅れたが花の種族名は笑花フラワー

いっつもニコニコ笑っている顔が特徴的な花のはずなのだが、少年…、ルイの怒りのバリバリオーラに圧倒あっとうされてちびり上がっていた。

種族特性すらもじ曲げられるのが世界樹迷宮であるということなのだ。

美味しそうにちびちびとコップのラテを飲むルイ。

そのご機嫌は明らかによくなっており、他のフラワーたちは執事フラワーを尊敬そんけいしたような目で見る。

だがしかしフラワーたちは見た目が全員一緒なので区別がつかない。

ただひとりみんなに見られているフラワーがいるようにしか見えないのだ。

抹茶ラテを飲み終わった頃を見計らい、先ほどの執事フラワーが声をかけた。


『ルイ様、この者はどうするのですか?』

「んー、それは俺も考えたんだけど…」


抹茶ラテの魔法効果バフにより、態度が明らかに丸くなった。

余韻よいんを味わうように閉じていた目を開く。


「本気になったように見せかけて、途中で落とし穴使って一層のいっっっっちばん最初。

 扉に入ったすぐのところに落とす。

 まぁコイツはめげないだろうけど、5、6回繰り返して心を根本からぽっきり折っちゃおう作戦」

『おお、いつにも増して悪知恵わるぢえが働いていますな』

「次に悪知恵って言ったら除草剤じょそうざいな。やっぱり抹茶ラテの力が大きいんだよ」


『除草剤』という天敵の登場にギョッとする執事フラワー。

その他のフラワーたちも慄くように震えている。


『っ、じょ、じょそうざ…っ、お、おおおおおおお前たち!』

『『『サー・イエッ・サー!!!』』』


フラワーたちの心はひとつだった。

ばっと振り向いた執事フラワーにビシッと敬礼するフラワーたち。

完全に軍人の動きであった。


『抹茶ラテを買ってこい!大量にだ!!今すぐ!!』

『『『イエッサー!!!』』』


走り出すフラワーたち。

この後スーパーで喋る花が全力で大量の抹茶ラテを在庫ざいこごとかっさらったという噂が立つのだが、三日後にルイの謝罪の手紙と共にすごい量の札束が届いたんだとか。


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「なっ…、んかっ、いっぱいっ、来たよッ!」


先ほどまでと違って、なかなか手強い魔物が出てくるようになった。

コメントの人たちも『本気になったか』とか、『いけー!』とか言われても調子に乗ってたら、何かスイッチをんでしまった。

多分魔物を発生させる装置そうち


「えいっ!」


ぎ払い、魔物を一掃する。

そして足元をちょろちょろと動いているネズミにトドメを刺そうと狙いを定める。


「って、えっ!?」


ちょろちょろといってもかなり遅かったネズミが、唐突とうとつにこちらに走ってきた。

はっ、速い!?


「きゃっ!?」


足がもつれ、倒れそうになり…、その地面に、ぐわっと


「えっ、いつのまに…っ!きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よしっ!よし、よくやった、クエック!!」


クエックとは、例のネズミ…、素早い鼠クエックマウスの略だ。

モニターのカメラに向かってグッと親指を立てる様はとても凛々りりしく、それでいて可愛かわいらしい。

クエックの特徴として灰色の体毛に、胸の部分に真っ白な雷のような『⚡️』の模様もようがあるのだ。

大変 あいらしい。


『ほう、素早い鼠クエックマウスですか。ルイ様も考えましたね。』

「クエックと落とし穴は定番でありながら最強だからな」


クエックは雷模様以外にはあまり普通のネズミと区別がつかない。

なので四本足で歩いていれば胸は見えないので、ほぼただのネズミなのだ。


「えーと、今の落とし穴は…、って、は!?」


入り口ドア付近に落ちるはずの穴は、他の穴と繋がっていた。

つまり今ターゲット桃香は、普通の落とし穴に落ちているのだ。


「ちょっ、この穴どこに続いてんだよ!?長っ!」


こんな穴は少年の記憶にはない。

それはつまり、少年ではなく他の魔物が掘った穴だということ。

そんな魔物は数多くいるので犯人特定は無理だが、いくらなんでも長すぎる。

軽く50Mはあるだろう。


「うおおおおおおおクソめえええええええ!!なんで俺がこんなことしないといけないんだーーーーーッ!!」


ついにルイはあきらめて机に突っした。


「くそぅ…コレだから…コレだから、迷宮主ダンジョンマスターなんて嫌だったんだ────!!」


ルイの職業は迷宮主ダンジョンマスター

ダンジョンを管理し、統括とうかつする。

それでもここまでブラックなダンジョンはここだけだろう。

そんな面倒な役目を押し付けられた少年は今日もなげく。

だがそんなルイの懇願こんがんは、到底天には届きそうにない。

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運営の黒猫 (短編) 夜風 天音 @Serene0204

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