運営の黒猫 (短編)
夜風 天音
第1話 とあるダンジョン
それは世界に突如現れた未知の
一層から最大だと五千層まで確認されている。
中には魔物と呼ばれるものが存在していて、それらを突破して攻略するのが
魔物は大抵意思がなく、人間を見た瞬間に襲ってくるようなものがほとんどだ。
だが、上位の魔物には思考を持ち、考え、学んで動く賢い魔物もいる。
そんな上位のなかでもさらに上には、会話能力をもつものもいる。
それでも大体片言であり、
というよりそもそも話すだけでも十分バケモン級の力を持っている。
それが流暢になるんだったらでっけぇ国家を丸ごとデストロイラクラク級である。
というか力というのは経験…、
五十年でやっとこさ半人前、百年で一人前。
五百で
そして話すやつは少なくとも一億は生きていないといけない。
流暢は…、大体5億は余裕で超えている。
さてここで疑問を持ったものも多いだろうが、
数字にすると567536296871年。
なので、『コレなら話せるやつぐらいゴロゴロいるんじゃなーい?』とか思っていると大間違い。
ダンジョンが現れた翌年から、『ギルド』が設立されて人々は討伐に努めてきた。
なので流暢なのは5億年間もの間
なので国家デストロイは簡単だ。
だが、残念ながら魔物たちには制約がある。
『ダンジョンから出られない』。
魔物はダンジョンから出ようとしても、透明かつ強力なバリアに
例外としては、テイマーによって従えられた『従魔』。
それか…、
それは、迷宮を
迷宮が正常に動くようにさまざまな場所に
運営は全て
世界の五大迷宮はそうしてできたのだ。
まず、日本の《
アメリカの《
それからオーストラリアの《
何故最初が『ア』なのが多いのかは謎だが、それぞれ大変ウルトラスーパーな名前が付いている。
その中でひとつ分離している日本の桜田ダンジョンの
だが、その上にもうひとつある。
どのダンジョンとも比べられないほどに強く、いまだ難攻不落である最強迷宮。
『
そう呼ばれる、その迷宮は、全ての魔物が思考を持ち(つまり一億年不敗なヤツらってことね)、その上でボスは最低でも喋れる。
ダンジョンが発見されてはや五千億年。
それだけ経っても、未だ23層までしか攻略されていない真なる最強なのだ。
どこにあるかって?
そう、世界樹迷宮はどこの国にも属していない。
なぜなら、浮いているから。
空に浮いている島に
『空に浮いているなら真下の国のものにすればいい』?
甘い甘い、世界樹迷宮は移動するのだ。
ふよふよとスローでありながら確実に移動している。
でも攻略するのにいちいちロケットで飛ぶわけではなく、人類もちゃんと開発に力を注いでいるのだ。
異世界系大定番の『転移』を可能にしたことで、いつでも世界樹迷宮に行けるようになった。
ならば軍隊でゴリ押しヒャッハーーーーー!!
で攻略できてるならば苦労はしない。
軍隊を持ってしても攻略できないほどに、世界樹迷宮は強いのだ。
でも、運営しているのは
と考えたものもいる。
もちろんバリアに吹っ飛ばされて小型飛行機ごと落ちた。
人間の中でも『魔法』を使えるものも増えてきて、なんとか助かったんだとかいう。
そうそう、日本の誇る最強魔法の使い手が、世界樹迷宮に挑むんだという。
配信するらしいし、見てみたらいいかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「みんなー♪こっんにっちはー♪」
さらりと揺れる白銀の髪に映えるルビーのような真っ赤な瞳を持つ少女がドローンに向かって言う。
:きちゃ
:桃香ちゃーん!
:世界樹迷宮なんて無理だよ!
:死んじゃ嫌だー!
:↑ふん、桃香様が世界樹迷宮如きで死ぬかよ!桃香様は世界樹迷宮の
:うわガチ勢。
:今からでも引き返そうよ!!
するとドローンの上にホログロムのように次々と映されるのはおそらくコメント。
「うーん、でも、決めたことだから!」
:えー
:そんな…
:桃香ちゃん…
:でも、桃香ちゃんが言うなら…
:死なないでね…
:頑張って!
「うん!がんばるね!!」
グッと拳を握る
ニコッと笑えば、
「まっかせて!いっくぞー!!」
握った拳を突き上げ、桃香は世界樹迷宮に足を踏み込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うわ。うっわー。嫌なタイプが入ってきたな…、クッソ、コイツ配信してやがる…」
ホログロムのような半透明のモニターに表示されるのは白銀の髪に赤い瞳の少女…、無論桃香である。
それを心底嫌そうな顔でげっそりと見つめる少年はこれまた美形だった。
黒曜石のような
抜けるような色素のない真っ白な肌、形の整った顔。
たいっへん美少年だが、そのお顔は
白い肌とは一変したドス黒い隈、明らかに本調子じゃない半開きの瞳。
その体はパーカーの服で体の線がわからなくなるほど痩せ細っている。
「クソめ…」
少年は机の側に置いてあるコーヒーに無言でエナドリを投入してゴクゴクと
そしてダンッ!と器を机に叩きつけ、机にセットされたマイクに向かう。
ガチャガチャと反応を確かめて、隣の青いボタンを押した。
その瞬間世界樹迷宮の魔物たちだけ聞こえる
ピーンポーンパーンポーン
その瞬間に全ての魔物がハッとして耳を澄ます。
『よく聞けお前ら、ウチの迷宮が最も苦手とするタイプが来たぞ。
あのタイプは下手にボコボコにすると悔しがってほぼ永遠にリトライしてくるから注意!
あと「惜しかったもうちょっと!」もダメ。同じ結末。
こういうのは持久戦に限るわ。いい感じに長引かせて夜になったからって理由で自主退去させろ』
ピーンポーンパーンポーン
放送が終わった途端、もう用はないとばかりにマイクを放り投げた。
そして机に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます