She's a Rainbow. Sometimes it rains on the street.
港区赤坂の最新鋭高層ビル:マンモス赤坂ビルが、オープン迄後1年。そう、あのつっけんどんの営業勅使河原雅宣がまたしても、良い意味でやらかした。そのマンモス赤坂ビルに移転する。国内大手のショッピングモールを運営するヴァイナルシステムの、端末発注一式を競り勝って、大型発注を奪って来た。
畠山精密機器販売としては、よく食い込んだの表彰ものだが、現実は逆だ。サーバーも含めての全発注してこその、先々の利益だろうだ。端末全一式では、どうにも利益構造が薄いだ。
だが、そこにはある慧眼がある。ヴァイナルシステム社長大柴一豊談では、アメリカでクラウディングサーバーシステムがスタートアップしたので、何時迄も自社サーバーを大量保有する時代でも無いでしょうと、既に自社ホスティングを見切った様だ。その分、ユーザーサイドに立った、満遍なくどの端末からでも見れるショッピングモールに傾倒しようは、先を見つめているとしか言いようがない。
それ故に、競売仕様案件として全ての端末を調達出来るが組み込まれる。これは大手程難関になる。独占販売する為に競合他社の機器を取り扱わない為に、中大手の畠山精密機器販売の満遍なくご提供が見事にハマり、実質品川の準大手商社との2社対決を競り勝った。
それにしても、何故勝ったかは。勅使河原雅宣曰く、フレッシュな人材が揃ってますで押し通し。値引き競争を制したらしい。まあ、クラウディングサーバーシステムが定着するなら、10年長丁場でフレッシュな頭脳は持っておくべきだろう。
△
その、マンモス赤坂ビル案件で、畠山精密機器販売もクラウドベースのシステム設計に傾倒し、その人事採用も適した人材を求めた。そして、その出会いが巡って来る。
そのマンモス赤坂ビル案件は、マンモス赤坂ビルプロジェクトとして立ち上がり、本社恵比寿では機動性が悪くなるので、銀座のショールームの2階に、銀座支店を立ち上げる運びになった。不景気なのに積極的だ。
そのマンモス赤坂ビルプロジェクトのメンバーとしては、元は営業だった長倉淳士営業課長、昇進した勅使河原雅宣営業課長代理、新人九鬼達郎営業、俺大鳳一樹は総合事務、新人伊達麻美営業販売促進兼システムエンジニアリング、新人奈良橋瀬那営業販売促進兼営業、以上6名のユーティリティプレイヤーを求められる。
いや新人がいるだろうも。そこは畠山精密機器販売は従来の商社であり、職業一筋の人間が多い。その分、採用の際には、目を瞑る事は多いもユーティリティプレイヤーの即戦力を確保した。
新人をかい摘むと。九鬼達郎は人懐っこいも敬語は話せない。伊達麻美はシスエンジニアリングの資格を持つも、ビジネスマンが着るかのファッションで毎日通って下さる。奈良橋瀬那は語学抜群もビジネスロジカルにはやや疎い。
皆一様に長所は買うも、何故になったのは奈良橋瀬那だった。
プロジェクト結成前の俺の職務としては、日中事務サポートのルーチン業務を行いつつ、定時を過ぎると、全社のユーザーライクデータベースのメンテナンスに入っていた。
そんなのSEに発注すれば良いだろうも、何せ畠山精密機器販売は中大手の予算であり、SEはユーザーライクデータベースなんて相手にしないものだから、出来る人間、俺と与儀成美さんにお鉢が回ってくる。与儀さんは色々な経緯から既婚者なので、無理しないで頑張ってねと足取りも軽く2度目の新婚生活を謳歌する。
当然、俺はメールのデータベース改修リクエストを見ながら、ああになる。そして、ふと気分転換に下の階に行くと、そういつも夜遅く迄営業部の奈良橋瀬那が度の強い眼鏡で頑張ってる。俺としては、頑張る人間は好きだし、いつか頑張ってるねと労いたくもあるが、そこはやや違う部署だから先輩づらしてもはあった。
その気になる彼女、奈良橋瀬那が、マンモス赤坂ビルプロジェクトで同僚になる。この人事権について、長倉課長につい聞く。
「それはあれだ。男女の雰囲気って分かるよ。大鳳が何時迄も結婚しないからな」
「余計なお世話じゃありません。そんなんじゃないし」
「大鳳、うちの会社、旧体質だから結婚はしておけ、そうしないと昇進出来ないぞ」
「別にですよ。昇進したところで、面白い仕事が出来るとは思えないし」
「そうかな、そうじゃないと思うよ。うちの会社も、有能過ぎる世代が入って来たから、あっという間に抜かれるぞ。その時の生き甲斐が家族って、定番だけど忘れるな」
「家族とかどうとか、取り敢えず良いチームには仕上げますよ」
「大鳳の欠点は、奥手とか鈍感とかそういう事じゃない。お前はついてないそれだけだ。上積みして格好つけるなよ。いいな」
格好つけるなが面倒臭くなって、はいはいと流したが、その言葉が後に刺さる事になる。
△
畠山精密機器販売株式会社銀座支店が開所式その日、君、誰がいるの。俺は歩み寄り、つい覗き込むと、伊達に爆笑される。瀬那をお忘れですか。
そう奈良橋瀬那と言えば、いつもは野暮ったい度の強い眼鏡にビジネスパンツに痩身の筈。それが、お洒落にも程がある伊達麻美とお揃いの、襟付きホワイトフォーマルワンピース、何よりあの眼鏡は一体どこに行った。いや、そのはにかみ顔は別人だろ。
「奈良橋だよね」
「ええ、まあ。新支店と言う事で、イメージチェンジしようかなです。こういうの似合わないですよね」
「いや、凄い似合ってる。でもさ、眼鏡忘れたのか、さあ」俺はエスコートの左手を出す。
「あの、コンタクトですから」勢いでエスコートの手に触れる。
銀座支店が忽ち爆笑と化す。そりゃあそうだ、伊達と一緒の相部屋とは言えどうやって来たかだ。その割には、奈良橋がずっと手を握っているのが、これは何だ。
結局、大鳳が責任持ってエスコートしてやれで、俺の左隣には奈良橋が並べられる。俺達の契機と言えば、この日からになる。
△
果たして、銀座支店開設初っ端から、大車輪の納品準備に入る。ヴァイナルシステムの本社移転、最初の受け入れ態勢として従業員700人分のオフィス端末と携帯端末の調達で難航した。新OSから旧OS迄隈なくの調達。何よりは、その周辺機器の調達もあるので検証に追われる。
プロジェクトは日頃のユーザー折衝しながら、適時にヴァイナルシステム仕様のソフトをインストールする作業がある。ご存知の通りインストール作業は長い。ここは懇意のエンジニアリング会社が受け持つべきだが、守秘義務があるのでくれぐれも畠山精密機器販売社内で行う様にと、ヴァイナルシステムに釘を刺されている。
俺は発注業務があるので、インストール作業は片手間だが。晴れの大手会社の営業活動になる筈の新人3人が日を追うごとに、インストールに係りっきりになる。そりゃあ、当てが外れて退屈だろう。
そして、つい遅番担当の俺と奈良橋が、22時解散を目処に只管インストールに励む。
「大鳳さん、根気入りますよね」
「努力も才能とか言うけど、それはノーミス前提だからな」
「さすが、師匠ですね」
「師匠は勅使河原だろう、何かと連れ回されているし」
「でも、先輩より、師匠の方が上なんですよ」
「まあ、持ち上げてくれるなら。知ってる事は教えるよ」
そんな日常で、俺はやや退屈なインストール作業しながら、データベースたるやとと語る。SEの伊達麻美は、はいはいになるが、奈良橋は超文系だから概念から入る羽目になる。その概念も、俺は畠山精密機器販は日常ルーチンから発しているので、これで正解なのか、この会社は、待てよと立ち止まる。そんなハナテ顔が面白いのか、奈良橋は暖かい目で見つめる。まあ、分からなければ、実機で業務テンプレートで見せながら、ああ便利と喜んでくれる。いや、そこ迄会社の業務遂行してないだろうも。えへ。そんな感じで苦行のひと時は、公私共に充実したものになる。
△
そして、マンモス赤坂ビル正式オープン1ヶ月前に、無事インストールは終わる。ただここからだ。
やっと什器の搬入の始まったヴァイナルシステムでのセッティングが始まる。ここでの厄介は、マンモス赤坂ビルは一斉オープンで有り、日々の業者搬入割り当てが、7時ー23時の中の数時間で、エレベーターがちょいちょい使える位。
ここで人海戦術になる筈も、工程表が不規則な上に、搬入物資がおり良く6人が最適解になるので、結局マンモス赤坂ビルプロジェクトがフル回転し、搬入が押すとそのまま深夜業になる。
それが終わると帰宅も、最終電車はとっくで有り、結局深夜タクシーで連れ立ち、銀座支店に戻ってコンビニ弁当を食べては一息。余裕があれば、近くのサウナに行って一風呂浴び、そして銀座支店に戻っては寝袋に入る。勅使河原宣く、人生充実してますよね。俺は怒りの拳を固めると、そのままグータッチになる。
そして、マンモス赤坂ビルが無事オープンし、赤坂ビルプロジェクトはほぼ解散になる。
△
赤坂ビルプロジェクトがほぼ解散するも、これからは銀座支店のマネジメントが待っている。中央区のユーザーリストは確かに貰ったが、ドル箱ユーザーは中々既存営業が手放さないので、またも一からのスタートになる。
苦境かも、1階には畠山精密機器販売のショールームがあるので、どうにかの呼び水にはなる。そして、折々でA4チラシを街頭で配っては、ややの当たりを貰う。大変だが、それはそれで銀座支店は2年目最初で、やっと支店らしい軌道に乗る。
やったなの感慨になる前に、ある事故が起きる。新人の九鬼達郎が休日に246号線を歩いていると、ガードレールを飛び出し、高く舞い上がったバイクの下敷きになり即死した。
えっつ、元気しかないよなの九鬼だが、その社葬に俺達は終始付き添ったので現実を受け入れるしかなかった。
△
九鬼達郎の事故死は、銀座支店に大きな影を落とす。伊達麻美と奈良橋瀬那が6月末で退社する。そもそも伊達は仙台の元華族の家筋で、奈良橋はその同学年のお付きとして、同じ東京の大学に通い、同じ会社に勤めた。そして今度はロンドンに留学して、伊達の好きなアパレルの道に進むらしい。
そう、九鬼達郎の若過ぎる死で、より人生を謳歌したいと。まあ、常々生活の為に働いていないのは分かりきっていたが、奈良橋も留学するとはどんな了見なのか。俺は呆れ果て、ここ2週間仕事以外の事は話していない。そして俺が痺れを切らし、休憩ラウンジに呼び出す。
「奈良橋、イギリス留学止めたらどうだ。伊達に筋を通すのは、故郷の事もあろうけど、社会に出たら、もう自分の人生だぞ」
「麻美は、ご覧の通り自由過ぎますし、私がいなかったら、どう暴走するか分かりません。それに主家の方で、私の分の留学費用も全て支払われていますし。もうです。大鳳さん、すいません」
「それでも、まだ会社に籍はある。この先昇進もするだろうし、それと、誰か良い人が見つかる筈。ああ、ごめん、ここに九鬼がいたんだな」
「九鬼君は、ただの同僚です」
奈良橋の右腕が、俺の左腕の袖を強く握る。そして瞳の力が強い。多分、俺が強めに行くなと言えば、二つの道が一つになる。でも、奈良橋は嫌いではないが、生涯愛せる自信がない。男としては、そんなつい先送りでも、引き込むのが甲斐性だろう。でも、俺に着いて来いなんて言えやしない。
「俺も話が長いな。さあ、引き継ぎの資料を整理しようか。時間貰って悪かったな」
俺は、未だ袖を握る奈良橋の指を一つづつ、ゆっくり解した。もっと柔らかい手と思っていたが、苦労した肉付けなので、主家と一門との主従関係は強固なものと思い知る。
△
伊達麻美と奈良橋瀬那の退社迄2週間。三柴瀧子業務本部課長が、退職手続きと交代要員の相談で、都度訪れる。あの週一に訪問して、爆笑して帰る淵野辺静香業務本部部長はここの所さっぱり来ない。明らかに俺に苛立っていると、三柴課長から漏れ聞く。そして交代要員の人選相談を俺にもされる。分かっているが、それはついでに過ぎない。
「大鳳さん。別に、奈良橋さんがロンドンに行っても、死に別れる訳でもないのよ」
「そういう、淵野辺本部長の様に、否が応でもカップリングするの止めて貰えません」
「そうかしら。皆が、大鳳さんと奈良橋さんは誰もが結婚すると思ってるのに、私らが、さもお節介は出過ぎていないわよ。大鳳さん、ははん、甲斐性無いの認める訳ね」
「何言ってるですか。俺と奈良橋って、一回り違うんですよ」
「より好都合じゃないかしら。普段から、俺それ程長く生きないですって言ってるのだから、介護しようがあるんじゃない」
「揶揄ってるんですか」
「いいえ、大鳳さんの嗜好が見えたなって。年下だと、男っぷり上るのね。交代要員、程よく加味しましょう」
「ですから、そこは、奈良橋は語学堪能だから、惹かれる訳であって。俺がつい視線を止めるのは、そう言う事です」
「よく分かりました。好きと嫌いで言えば、本気に好きになれなかった。淵野辺本部長、あなた甘ちゃんだよと報告しておきます」
「それ、絶対そのまま伝えて下さいね」
その会談は爆笑で終わった。
だがしかし、淵野辺本部長に翌朝怒鳴り込まれ、俺は午前中はど酷い叱責を浴び続ける。いや、何が悪いかさっぱり分からないので、そのまま無表情で接した。
淵野辺本部長は、俺への手応えが無いと見るや、奈良橋と膝詰め合わせて、共に泣き崩れる。度々、あからさまな阿保が聞こえる様に、それ俺の悪口だろうと、つい溜め息も出る。
いや、それにしても面倒臭いなあんたらと、振り返ると。頬を濡らした奈良橋瀬那が、俺にあっかんべーをする。吹っ切れた笑顔もついでに。
そうか、付き合ってたら、そう言う顔見せるんだなと。身体中から力みが一切消える。もっと、早く声を掛けるべきだったんだな。
Some girls & Some boys 判家悠久 @hanke-yuukyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます