わたしは120年生きた魔女で聖女でなりそこないの仙人
明鏡止水
第1話
わたしは、120年生きた。
失禁もするし、階段は上がれない。
それでも、魔女で、聖女で、仙人だ。
かつては長く艶やかな黒髪を
「綺麗ですね。三つ編みにしているのもいい」とどこかの男の人が言っていた。
わたしは養子だった。
本家と分家の話がいつも出ていたから、親戚の集まりには、どこかに自分の両親がいるはずだ、と物陰から大広間を伺った。
90歳を過ぎた頃、周りが騒ぎ出した。
「おばあちゃん、見た目が、かわらないわ……。まるで40歳くらいよ……っ」
そこから、わたしの研究が始まった。
わたしは鴉を扱えた。魔女だ。
わたしが傷口を撫でると痛みが引く。聖女だ。
そして、達観した物事を見る、しかし、もう、これ以上、どこを見ることもない。
仙人だ。
やがて、100歳を超えた頃、髪が抜けるのを忘れてきた。歯は歯周病で少ししか残っていないので流動食を。酸素すら、まともに吸えなくて酸素ボンベを。
そんなこんなで20年。孫も20人。ひ孫もいる。
成人式を迎えた孫は今何人だっけか。ひ孫は中学に上がるだろうか。
ああ、食事を取らなければ。
わたしが今まで生きてこれたのは、お腹いっぱい、は毎日は難しかったけれど、いつもご飯が食べられたから。
なぜ? 鼻の管に流れる何か。
そういえば、ずっと食道に通されたもの。
そんな、これではご飯が食べられない。
あれ?わたし、名前なんだっけ?
ここは、老人ホームよ。
そして、魔女も、聖女も、仙人も、実存するのよ。
……老いが来たのね。120歳。
初めは40くらいで死にたかった。
でも、結婚したり魔法を使ったり回復を行ったり修行したり。
わたしの人生は、ストーマや、カテーテルや酸素ボンベやパーキンソン病や歯周病で。
車椅子に乗っている。
あと1つ、だいじなこと。
骨折しない。
ヒール(回復)は出来るけどね。
若返りもできる。魔女だもの。
1人でも平気。仙人だし。
でもね、ほんとうはね。
歳をとってみたかったの。脳卒中でも倒れたことがある。
構音障害で声を発声する器官に障害がでて、そのまま失語症になった。治せる。長生きできる。1人でやれる。
神様。魔王様。
どうか聞かせてください。
人が老いることは、素晴らしいことだと、わたしに、教えてください……
わたしは120年生きた魔女で聖女でなりそこないの仙人 明鏡止水 @miuraharuma30
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