プロクシードール
いらっしゃいませ
ご予約品の受け取りですね
奥の部屋でお渡しいたしますので、ソファに座ってお待ち下さい
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お待たせ致しました
ご予約された商品はこちらになります
お渡しする前に、こちらの商品の説明をさせていただきますね
既に把握されていると思われますが、店側にも色々と果たさなければならない義務というものがありますので…
──構いませんよ
お付き合いくださり、ありがとうございます
こちらは『プロクシードール』
その名の通り、身代わり人形でございます
ドールの胸元に埋め込まれた遺伝子から新たな細胞を生産し増殖させ、四〜五日で人形へ肉付けされます
更に一週間程かけ、遺伝子の持ち主が歩まれた記憶を読み取り、生成された頭脳へ定着させます
この二つの工程が終了しますと、プロクシードールは基となる遺伝子の持ち主、一人の人間として活動を開始いたします
何かご質問はございますか?
──いえ、大丈夫です
それでは、お代の方を頂戴いたします
お客様がプロクシードールを購入されたその理由はなんでしょうか
…お客様?いかがされましたか
ああ、なるほど
それなりの金額を請求されるのではないかと思っていたが、予想外の請求方法により惚けてしまった…という所でしょうか
確かに、プロクシードールはそれなりの価値があります
何せ人を一人生み出してしまう優れた技術の結晶ですから
ですがこの年齢まで生きていると、金に対する執着が鈍くなってしまうのですよ
プロクシードール専門店を続けられるだけの懐の余裕はありますし、軽く見積もってもあと五年程はもちましょう
──なぜそんなことを?
…ただの娯楽です
昔は小説家になるのが夢でしてね
子供の頃はよく本を読んでいたものです
空に浮かぶ城、タイムスリップ、宇宙旅行…そういった摩訶不思議なものを想像することが好きな子供でした
しかし「魅了する文章」を紡ぐ才能は…私にはありませんでした
己の全てを捨ててその道を駆ける覚悟も度胸もなく、当たり障りのないごく普通の、周囲の人に恵まれた人生を送ってきました
定年退職をきっかけに、私は此処へ移り住んできました
人も少なく、静かで穏やか、人生の最後を迎えるにはとても良い場所だと思っています
ただ少し…物足りないといいますか
退屈になってしまったのです
だから、この店を開きました
どのような過去をもってここに足を運ばれたのか
どのような理由をもってドールの購入を決めたのか
その人たちは一体どんな人生を歩まれたのか…
それをしている時、どれだけ退屈な環境であろうと心が躍るのです
──聞いてもつまらないと思いますけど…
それこそ、聞いてみなければわからないではありませんか
それに、私が楽しむのはプロクシードールの購入に至ることになったのか、過程を想像すること
ええ、はい
「想像すること」なのです
動機そのものに興味はありませんし、たとえそれが嘘だったとしても構いません
その時点で楽しめるネタは頂戴していますので
──はぁ、まぁ、いいですよ
──ここを離れたら、私と貴方はもう二度と会うことはありませんし
納得していただけたのなら、なによりです
それでは、お客様がプロクシードールを購入する理由はどのようなものでございましょう?
──自分の身代わりです
──死のうと思ってたんですけど、家族や友人達を悲しませたくないので
一話完結物語集 めいびー @meybeee
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