第5話 背を追う者たち


 広場はさながら地獄と化していた。

 レアがまき散らした血は、天弓兵の防壁と観覧席の障壁まとめて蝕み、砕いた。

 瓦礫と土埃の観覧席。巻き込まれた観客がどれだけ死んだか。


 そして最後に。


「古血の奥裏、憶郷の絶海に降れ。朱条の落星」


 レア自身が赤い流れ星となり、ルサリエルの影を踏みぬいた。


 1000――


 上空では、目を犠牲にレアが放った二発目の双縒鏡が、ルサリエルの顔を覆う白面は撃っていない。

 回り込むように背中側へ。

 頭の後ろ。ルサリエルの後光こそが隠された的。


 1001――


 グローザフ総長の頭上に光るカウンターはその数字を表示してから消えた。


「千超え……?」


 五人目の天魔レア。

 ブレステム魔峰連盟に、千を超えた天魔が生まれた。



  ◆   ◇   ◆



「レア様ぁ!」


 駆けてくる足音。途中、転んで。

 どてっと音を立てて、立ち上がり鼻を擦りながら走り寄り、


「やりましたレア様っ!」


 ばふっと抱き着かれて、一緒に地面に転がった。


 右腕は千切れたまま。

 左腕も力が入らない。折れている。

 魔鏡代わりにした瞳は焼け、薄っすらとしか見えない。



「……痛い」

「そうでしょうとも。ひどい怪我ですレア様」


 なのにルトゥランはレアの体に覆いかぶさったまま。

 その重みが痛くて、痛くて。

 胸が苦しくて、喜びを知る。


 お師様の背中に手が届いた。

 ここからが本当の……



「五人目の天魔レア、おめでとさん」


 オルテナの言葉に、皮肉な笑みが浮かんだ。

 優秀な彼女でさえ知らない。


「……五人目じゃない」


 レアとお師様だけの秘密。



  ◆   ◇   ◆



「天魔の特権。意外やったわ」


 レアの去った連盟で、最後まで予想のつかない子だったと苦笑い。


「案外、レアがルトゥランに懐いとったんやね」

「ひとつだけ持ち出せる特権、ですか」


 レアが選んだのはルトゥラン。

 二人は連盟を去り、祭りの熱も次第に薄れていく。


「うちが……うちが達成した時は、ユクシール。あんたを」

「オルテナ」


 ユクシールは静かに頭を振った。


「毒され過ぎです。お祭り騒ぎに」

「……そか」

「命など賭けなくとも、私があなたの心を疑うことはありません」


 それとも、と。


「あの娘を追いたいのですか?」

「……そない怖い顔せんでええやん」


 ユクシールは怖い女だったと思い出して、頬を寄せた。



  ◆   ◇   ◆

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【的当て】1000年  大洲やっとこ @ostksh

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