第3話 ベテラン風パワハラ小太り教師

教室の片づけを終え、翌日。俺は原稿を暗記しようと努力していた。今日は着任式という生徒がわくわくしながら新しく来た教師を歓迎する会である。俺は初めて知った。生徒はわくわくしている反面、新任教師はドキドキして今すぐにでも教師を辞めたくなるような緊張に襲われているということに。辞めたくなるというのは少し大袈裟かもしれないが少なくともしたくて教師になったわけではない俺からしたら今すぐにやめて、家でごろごろしたかった。しかしそうするわけにもいかず、必死に暗記しようとしている。そうこうしているうちに学校に着き、職員室に向かい自分の席に座った。緊張しているなか、幸いなことに席が知っている先生ばかりだったことだ。先日の事件の後の教室掃除で色んな先生と話しながら掃除していたのである。

『血液ってなかなか落ちないんですねー。これは洗剤でしますか?』

『そうですねー。洗剤でしましょうか。ついでに新任の方の学校案内もしましょう。』

そんな感じで仲良くしてもらっているのだ。接しやすい人ばかりでよかった。今のところ理想の職場ランキングダントツの一位だ。(俺が働いたことがないということは言うまでもない)時間になり、職員会議が始まる。新任教師は強制的に自己紹介をしなければならない。自己紹介では名前、趣味、得意なこと、好きな給食、という転校生が来たときに言うランキング第一位を言った。そして俺が言ったあと、ベテラン教師風の小太りな中年男性が言ってきた。

『じゃあ新任の人は何か一発芸をしてもらってもいいかなぁ。ほら、小学生の心をつかむためのさぁ。ちょっとやってみてちょうだい!』

聞いた瞬間に俺には殺意というものが生まれて初めて沸いた。今この場に俺とあの人しかいなかったら確実に殺っていた。命拾いしたな。と心の中で言っている最中、隣が一発芸をしていた。しかし終わった後、あのベテラン風パワハラ教師は不機嫌そうに言った。

『あのねえ、そんなんじゃ子供たちは笑わないよ。教師になるんだったらギャグの一つや二つ準備しておくのが普通でしょ?』

今、俺の中の理想の職場ランキングがたった一人のベテラン風パワハラ小太り教師のせいで一気に最下位になった。自分が無理やりさせたんだから愛想笑いくらいしろよ。おそらくこの瞬間にここにいる新任教師の思いが初めて一致しただろう。『このベテラン風パワハラ小太り教師を今すぐ消したい。こいつと一緒に仕事をしたくない、なんなら同じ空気を吸いたくない』と。周りの雰囲気はさっきと違って静まり返り、教師全員の顔からは笑顔が消えていた。パワハラ野郎を除いて。しばらくの静寂のあとチャイムが鳴り、無言で立ち去った。この気まずい状況の後にどうやって着任式に臨めばいいんだよ。俺は溜息をつきながら会場に向かった。

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 芸人が教師になるとどうなるのか @InoShota

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