何を見たの

レバーを探すといっても、この施設がどのような構造なのかわからないし、そもそもどの程度の広さなのかもわからない。

とにかく死物狂いで探すしかない。


どれくらい時間が経っただろうか。

大広間のような場所に出た。

そこの壁にレバーがついていた。

まだ降ろされてない。

誰かが来たら譲ろうと思って、数分その場で待機していたが、誰も来なかったのでレバーを降ろした。

次の瞬間、私は最初の部屋に居た。

不思議な力で転送されたのだろうか。

それにいちいち驚くような事はしなかった。

思ってみれば、この施設に来た時も同じような事が起こっていただろうから。

そういえば、あれだけ施設内を探索したけれど、時計は一つも見当たらなかった。あるとすれば、今私が居るこの部屋だけ。

時計の針の音が、かちかちと正確なテンポで部屋に音を響かせている。その音を聞いて、私は少し心が落ち着いた。


そのうち皆戻ってきたけれど、璃央ちゃんは、帰って来ない時雨を心配して出ていった。

付き添いはいなかった。レバーを下げた璃央ちゃんが死ぬ事はないだろうと、皆信じていたから。

思い出したが、グレイアは「寝る時間まで」と言った。

正確な時刻は教えてくれなかったのだ。

今日のゲームがいつまでなのかわからないのだから、時雨が帰ってくるべき時間もわからない。

そして、数分で帰って来た璃央ちゃんの顔は恐怖で満ちていて、部屋で待っていた皆が璃央ちゃんに駆け寄った。


「大丈夫!?」


と、最初に声をかけたのは優花。

ただ、璃央ちゃんは、余程の恐怖を味わったのか、声すら出ないようだった。

私は、何があったのかの予想がついていた。

恐らく、遠くから私たちのことを見ていたあるるも。


時雨が死んでいるのを、この子は見たんだ。


それを察してしまった今、もう璃央ちゃんにかける言葉が見つからなかった。

私が呆然としていると、グレイアが来た。

私たちの事など気にせず、グレイアは話しはじめた。


「皆さん、寝る時間です。

起きる時間までの行動は一切制限しません。

自由に過ごしてください。」


それだけ言うと、グレイアは去っていった。

時計を見ると、針は9時を指していた。

「寝る時間」は9時。

とにかくその情報があるだけで、翌日からのゲームは今日よりも冷静にできるだろう。


今日、璃央ちゃんは優花と一緒に寝た。

私は、心がモヤモヤしていた。

こういう時、私はいつも月や星空を見て落ち着いていたのだが、今はそれができなかった。

何故か。

この施設には、窓がなかった。

其故に外が見えないし、そもそも外があるのかもわからない。

外があるのか…?

それを思い、今晩の行動を決定した。

一階まで行って、出口があるか見てこよう。

寝なくても大丈夫なのか、という話になるが、考えてみればここにきてから食事もしていないし、排泄もしていない。

やはりこの場所では、常識は通用しないのかもしれない。


スマホのライトで前方を照らし、階段を降りていく。

当然のように圏外のこの場所の空気は吸い慣れた。

でも、やはり夜は夜。

冷たい空気に身震いしながら進んでいると、背後でからん、という音がした。

その音に立ち止まり、ゆっくり後ろに振り返ると……。

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邂逅のお時間です あみゅー @amyu_singer_gamer

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