よろしくね

グレイアに言われた通り、私たちは自己紹介をすることにした。

少なくとも、ここから脱出する限りは共に時を過ごす仲間だ。


木坂時雨きさかしぐれ、よろしく」


まず最初に、簡潔に終わらせたのが赤髪の青年、時雨だった。

私自身、まずぱっと見で彼はまともそうだと思っていた。

予想は当たっていたと思う。余計なことを喋らない人はまともだと、その時はそう考えていたから。


「次アタシ。アタシは落合優花おちあいゆうか。よろしくね~」


黄緑色の髪をボブカットにした女性、優花。

どうしてだかわからないけれど、彼女の真っ赤な瞳は、私のことを引き込んでいきそうでどきどきした。


そうやって、みんな自己紹介をしていった。

金髪が映える姉弟の、桜庭さくらば璃央りお桜庭さくらば留亜るあは、まだ小さい子だから、何かあったら守ってあげようと思った。

私も自己紹介したけれど、一人だけ自己紹介しない人がいた。

なんでかみんな気にしていないみたいだったけれど、名前くらいは聞きたいと思い、私の方から話しかけた。

その子はさっきから一言も喋らなかった。私が話しかけた時も何も話さず、首だけ捻ってこちらを向いた。

振り返ってくれただけで安心しきっていたのだけど、私が続きを話し始める前にその子が口を開いたのには驚いた。


「…不割ふわりあるる」


名前だけ言ってくれた。

本当に、名前だけだったのだけれど、とても嬉しかった。

彼の声は、想像よりも遥かに高く、可愛かった。まるで女の子。本当に女なのかもしれなかった。

喋った後の彼は、袖で口元を隠してしまったから、どんな表情をしていたかわからない。けれど、目元である程度の予想はできた。


⸺⸺彼は、微笑んでいた。


それを見て、私も自然と顔が綻んだ。


その後、みんなと色んなことをして遊んだのを覚えている。

ごく普通の遊び。なぞなぞだったり、だるまさんが転んだだったり。まるで保育園児の頃に戻ったみたいだった。

そうして一日過ごして、私たちは眠りについた。

グレイアのことは忘れていた。そういえば、彼女はあの後部屋を出て行ってから、もう一度あの部屋に来ることはなかった。

明日になったらまた会えるだろうから、気にせず寝た。


翌日。

昨日と同じように、グレイアに起こされた。

昨日遊んだ部屋に集まった私たちは、グレイアの話を聞いた。


今日のお題。

この施設のどこかにある6つのレバーを降ろすこと。

1人1個。

2個降ろした人は死ぬ。

1個も降ろせなかった人も死ぬ。

他の人にレバーの場所を言うのは許される。

制限時間は、寝る時間になるまで。


そういう内容のことを、グレイアは言っていた。

という、聞き慣れなくはないが恐ろしい単語に、私たちは耳を疑った。

本当のこととは思えなかったが、グレイアが嘘をつくとも思えなかった。私たちは昨日この人に会ったばかりだというのに、彼女を信用するというのか。

そうこうしているうちに、グレイアは遊戯ゲームの開始を告げた。

死ぬ、というのが、もし本当だったら…。


私たちは部屋から駆け出ていった。

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